踵の高い靴を探す

左足を痛めた。
怪我というわけではない。整形外科医の説明によれば「骨密度が低下してきているため腱に引っぱられて骨が変形する」ことによる症状、なのだそうだ。アキレス腱付着部症、なのかな。
https://www.jssf.jp/pdf/pamph_akiresu.pdf

ともあれ、整形外科的症状というのは病原体による症状などとは異なり、投薬でたちどころに病原が消失し症状が治まるようなものではなく、基本的には「痛みなどの自覚的症状を緩和させつつ自然治癒を待つ」しかない。私の場合も、「骨密度を上げるためにビタミンDとKを処方するので毎日飲んでください」「痛みの方はロキソニンテープ出しときます」「あまり動かさないでください」ということで、しばらくは左足をひきずる生活となる。

要するに「腱の引っ張る力に骨が負けた」のであると思われ、実際のところ足首から下について、アキレス腱が伸びる方向に曲げると痛みを生じる。激痛というわけではないものの、自然な歩行動作の度に痛むので、自然と歩行が制限される。
逆に言えば踵を伸ばさないようにすれば痛くはない……ということがわかってきたので、歩き方が「左足を鉛直より後方に出さないように」半歩づつ歩く、もしくは「左足を前後に振らないように」外向きに90度開くことで足首に対して左右方向に振る形で歩く、といった妙な動きとなる。
常歩行よりも移動力は落ちるものの、慣れればそれなりに移動できるので日常生活に大きな支障があるわけでもない……と思っていたら、3日目にして右下半身の筋肉に硬ばりが生じた。左足を庇って動くことにより負荷が右側に集中、腰=尻=腿のラインおよび脹脛までの筋肉が張ってしまう。
わりと由々しき事態である。早急に痛みをなんとかして、歩き方を戻し、負荷のバランス改善を図らねばならない。

で。
要するに爪先=足首=膝の成す角が90度よりも鋭角になる時に痛むのだから、踵側が高く爪先側の低い靴があれば足の振り幅制限をかなり緩和でき、存外普通に歩けるのでは……と考えた。
つまり、ハイヒールである。

妻のサンダルを借りて(彼女とは背格好が割と近いため、衣類履物はサイズ的にある程度共用が可能である)歩いてみたところ、履き慣れぬ踵=爪先の高低差(およそ7cm)に起因する若干の歩幅制限こそ生じるものの、痛みに伴うバッドステータスについては概ね解除可能との知見を得た。これは僥倖。

というわけで自分用のハイヒールを物色することにした。私服ならばまだしも、流石に出社時のスーツ姿に妻のヒールサンダルを履いてゆくのは若干気が引けるので、さほど違和感のない革靴系でヒールの高いものを探さねばならない。
男性向けにもヒールのある靴というのは存在しないわけでもないのだが、わりとパンクロックな方向に走りがちで、これはこれでスーツとは合わせにくい。むしろ女性向けのものからサイズの合うものを探した方が選択幅は広そうだ。

ただ、女性用の靴というのはどういうわけか非常にサイズ幅が狭い市場で、大半は22.5-24.5cmの範囲、大きい方で25.5cmぐらいまでしか展開がない(それもサイズ表記はS、M、L、LLの4段階で0.5cm刻みでのサイズ表記がない)場合が多く、男性の足に合うサイズを手に入れるのはなかなか難しい。海外ブランドではもっと大きなサイズも普通にあるのに、国内には上記の幅しか輸入されない……などということも珍しいことではない。
大きいサイズを謳う販売店のページでも、「取り寄せになるので3〜5週間かかります」というような場合が多い。つまりは需要が少ないために国内製造がなく、在庫も持たず、注文が入ってから海外の商品を買ってくる、ということなのだろう。それはそれで致し方ないが、今回は既に出つつある体調不良への対応が目的であるから、悠長に1ヶ月も待ってはいられない。
そんなわけで無数の候補から「ヒール高さが適度なもので」「サイズが合うもので」「数日のうちに発送してくれる」商品にアタリを付けて発注する。しかし「2〜3日で出荷」とあるのに注文時に通達された到着予定日には1〜2週間の幅があり、「すぐ発送するとは言ったがすぐ到着するとは言ってない」まあそれでも1ヶ月待たされるよりはマシか。

結局期限ギリギリで半月待たされることになったが、とりあえず靴が届いた。6cmヒールは丁度良い高さで踵の痛みもなく快適に歩ける。ただ、女性用の靴はどうも幅が狭めなことが多く、甲高幅広な私の足だと圧迫感は否めない。
2足買ったうち、ボア付きのショートブーツは内側がふんわりしているせいか圧迫も少なく履ける。

ただ、折り返し部分がスーツと合わせにくい。とりあえず上部を立てて裾に入れてみたが、そうすると脱ぎ履きが若干面倒になる。
他にも、もう少し革靴らしいデザインのものも買ってみたのだが、同じメーカー(と思われる)でも素材の違いによるものか、若干キツくて甲の部分や指の付け根あたりが当たって痛む。こちらはやめておいた方が良さそうだ。やはり靴の通販は難しい。

仕方がないので路線変更する。
要は踵側が高くなりさえすれば良いわけで、「そういえば昔シークレットブーツてのがあったよね」調べてみると今でも「背を高く見せるための靴」というものは存在している。なるほど、その手があったか。
ただこれら、「なるべく自然に見せる」ために踵の内側を高めにしてはあるのだが、根本的には底上げが目的なので全体が厚底だったりする場合もあり、どの程度の傾斜が付けられているかは履いてみないとよくわからない。
東京駅八重洲口側に専門店があるとのことで、行ってみた。
www.tallshoes-s.jp
特殊需要向け製品であるので、店舗もそれほど大きくはない。壁には代表的な製品がワンサイズだけ展示してあって、それ以外のサイズは声をかけて探してもらう感じのようだ。
スエードのショートブーツ風のものを履いてみた。傾斜はゆるめだが用途的には十分か。靴底はエア入りなのか弾力感があってクッション性が高く、負担は少なそうだ。サイドジッパー付きで、靴紐をしっかり結んでも脱ぎ履きに問題はない。

歩いてみた感じ、問題なさそうだったので高さは確認しなかったのだが、どうやら+8cmのようだ。「もっと高さが必要ならインソールを追加もできますよ」とのこと。

ところで世の中にが「素足を3cmぐらい底上げする」ためのシリコーン製付け踵というものも売られているらしい。

これはこれで、室内でも踵を上げ気味にしたい私には良いような、いちいち付けておくのも鬱陶しいような……