1年ほど前にリリースされた事件捜査ゲーム「東京サイコデミック」を遊んだ。
tokyo-psychodemic.com
事件の捜査、というより証拠の調査・解析に主眼を当てた、新機軸のミステリゲームである。
本作のディレクター/シナリオライターは今井秋芳氏、「東京魔人學園」シリーズなどジュヴナイル伝奇もので知られる。
最初に書いておく:独特の面白さはあるものの、あまりおすすめはしない。
ゲームの概要
最初に、今回捜査すべき事件の概要が[エビデンスボード]に貼られる。海外のミステリドラマなどによく登場する、壁に関係者の写真や地図などが貼られ赤い紐で結んで関係性を視覚的に表現する、あれだ。
そしていくつかの疑問点が提示される。たとえば「犯人は?」とか「動機は?」といったような。そして、その空欄を埋める[証拠]を探すために資料を解析してゆく。
解析は他のゲームでは見られない要素なので、とりあえず体験版の内容を例に説明しよう。
体験版では、まず被害者の足取りをいくつかの監視カメラ映像から追ってゆく。映像解析装置では左右2画面にそれぞれ映像を出して比較・解析することが可能で、たとえば被害者の顔写真をデータ解析したものを片方の画面に出して、もう片方で映像を再生しながら被害者と思われる人物が映る場面で停止して拡大表示し、AIに顔の一致率を解析させることで本人かどうかを確認することができる。
このようにして[被害者がどのカメラに写っているか][どちらへ移動したか]を確認することで当日の足取りを掴むことができる。
このほか、文書を[注視モード]で見ることでキーワードを拾い上げたり、音声解析装置で周波数帯ごとにボリュームを調整することで話し声の後ろで鳴っている環境音をはっきりさせたりと、複数の手段で証拠を集めてゆく。
わからないことがあれば[ダークウェブ]越しに専門知識を持った協力者に訊くことができ、また[凄腕のハッカー]に頼んで必要な情報を集めてもらうこともできる。
事件解明に必要な情報を集め切ったら、質問に回答してゆく形で[報告書]をまとめ、証拠となる情報を添えて提出する。
この調査モードは他のゲームには見られない本作のみの特徴で、これを面白いと思えるか、それとも面倒臭いと思うかがひとつめの評価の分かれ目となる。
解析機材の操作はなかなかにリアルで、他では得られない雰囲気を味わえるが、実際の捜査でも付いて回るであろう地味な面倒臭さをもリアルに再現してしまっている。
たとえば監視カメラのビデオテープを再生して事件前後の動きを確認するためには、実際に数分の映像をじっと目視して決定的な瞬間を見付けなければならない。もちろん実際には1本あたり60〜120分ぐらいあるだろう映像が、ゲーム中ではせいぜい5分ぐらいに短縮されているのだから面倒はかなり軽減されているわけだが、そうは言っても多作に比べて面倒であることは否めない。
コントローラーはリアルな機材に近付けて操作を割り当てられており、その試みには成功しているものの、それゆえ手間が増えてもいる。
たとえば映像に映っているのが容疑者であることを確認するのに、片側のディスプレイに顔写真を出して特徴解析を行ない、もう片方に映像を出して再生、容疑者の映った部分を拡大してAIによって写真との一致度を判別させる⋯⋯という手順を踏むことになるのは、そこそこのリアルさと簡便さを両立させてはいるわけだが、ゲーム的には[映像を拡大した時点で本人と断定してフラグ立て完了]ぐらいでもいいわけで⋯⋯
反面、ダークウェブ越しなのに全員顔出しだったり凄腕ハッカーが即座に情報抜いてきてくれたりと雑にお手軽だったり(まあこれはゲームの簡便化の一貫であり、必ずしも悪いことではない)、推理の論拠となる科学・技術知識がだいぶあやふや感あったりと、リアルに寄せたいのかそうでないのか図りかねるところも色々あったりするが。
ボリューム
本作のシナリオ数は5本。ひとつの事件はだいたい1〜2時間程度でクリアできると思われ、最後がちょっと時間かかるとしてもまあ10時間前後と、そう長くはない。
恐らくは連続ドラマ的なノリなのだろう、各話でほぼ同じOP・EDが繰り返される(スキップはできるが)。意図はわかるが連続して遊ぶと正直ウザいばかりで面白さには寄与していない。
各キャラにはLive2Dによるアニメーションとボイスが付けられているが、それがあまり魅力的に作用しているとは言い難い。毎回同じ立ち絵のアニメーションよりも、場面を印象付ける魅力的な1枚絵の方が効果的な場面もあるものだ。コストのかけ方を再考された方が良いのでは。
当初の販売価格は5940円。途中、アップデートとともに販売価格が3980円に変更されたようで、まあこのボリューム感からすればそれぐらいが妥当な金額ではあろう。
総評
全編通しての印象は「雰囲気だけはあるが、中途半端」。
エビデンスボードは視覚的な情報整理効果だけでなく事件捜査感が出ているし、リアルに寄せた解析操作などは昨今流行りのARGミステリー路線の先駆けと言えなくもなく、見た目の楽しさを演出することには成功している。ただ、そういったリアル要素は推理ゲームとしての楽しさにはあまり寄与しておらず、むしろ面倒が前に出てしまっている感は否めない。
そもそもミステリーは実のところゲームにはちょっと不向きなジャンルではある。一番の醍醐味は[予想が覆される]カタルシスであり、そのためにはミスリードが大きな効果を発揮するわけだが、小説や映像など受動的メディアであればこそ読者はミスリードされたまま終盤を迎え、それを名探偵が覆してみせるという構図が機能する。
しかしゲームに於いてプレイヤーは名探偵の役割を担うことになるため、ある程度ミスリードを弱め、真実に気付かせる導線を敷かねばゲームクリアが覚束無いが、結果としてミステリーとしてのカタルシスはどうしても弱まることになる。
とりわけ本作では、証拠の解析の方に重点を置く都合上、推理の方は更に弱めざるを得ない。そのためミステリー本来のカタルシスはほとんど消失しており、証拠集めこそを楽しさの中核とすることになるが、同時にここが一番面倒臭い[作業]でもあるという、構造的弱点を抱えている。
また、本作の事件はいずれも[超常現象]を匂わせる内容となっている。これはある意味でミステリーのカタルシスのための[意外性]の演出に寄与してはいるのだが、この点こそが最も大きな評価の分かれ目であり、率直に言えば評価を下げる要因となっている。
超常現象というのは、現実には有り得ないからこそ超常現象なのだ。つまり超常現象としか思えない事件というのは、もうその時点で現実のものとして説明不可能であるか、あるいはそもそも説明がねじ曲げられて不自然であるかのようにミスリードされているかのどちらかということになるわけだが、本当に超常現象であったとするならば(現実ではないのだから)どんな現象でもアリということになってしまい推理もクソもないし、不自然なミスリードであるなら余程巧妙にやらない限りは到底納得できないアンフェアなものになってしまう。
たとえば密室殺人の真相が「霊体が壁を通り抜けて被害者を殺した」だったら、あなたは納得できるだろうか?あるいは「霊のしわざに見せかけて殺すために壁を通り抜ける特殊な装置を作った」だったら?
上記の例はネタバレにならぬよう私が適当にでっち上げた内容だが、本作に於ける[超常現象を匂わせるミステリー]というのは、大体そういう感じだ。
ゲームは基本的に[証拠探し]に終始するが、終盤でだけ唐突に[謎解き]が差し挟まれる。正直ここだけは、蛇足な上に出来が悪いと感じた。それまでに謎解きに関する何らかの誘導があるわけでもなく、従ってルールが一切不明な状態で、しかもゲーム上は明らかに「誤答したらゲームオーバー」な状況である(実際にゲームオーバーとなるのかどうかは身確認)。ここは全面的に攻略サイトを頼ったが、そこでもあまり納得できる答えとは受け止められていなかった様子。
これもシナリオライターが自分で考えるのではなく謎制作の専門家を頼るべきだったろう。そうであればこんな不可解な謎は作られなかったはずだ。
ところで、超常現象とは別に、本作はコロナ以後の社会情勢を明確にモチーフとしており、社会風刺的な主張を強く感じる──のだが、終盤で悪役側の主張が覆されるでもなく継承されてしまっているために、風刺のつもりなのか純粋に極端な思想の発露なのか、よくわからないことになってしまっている。
まあ「悪が倒されて善なる世界に変わる」みたいなのもわかりやすすぎて興醒めな部分はあるので敢えてのことなのかも知れないとも思うのだが、全体にとっ散らかっているというか、まとまりのなさは否めない。ディレクションとシナリオライティングを一人でやることの弊害というか、外部の編集が入ったらもうちょっと違ったのではないかという気はする。
総じて「意欲は買うが、評価はできない」。
これがせめて、著名なミステリー作家にシナリオを依頼して[証拠の解析に軸足を於いたミステリー]として作られたならば、(操作の面倒臭さは解消できずとも)それなりの作品になったかも知れないだけに、勿体なくはある。
あなたがもし[超常現象系のミステリー]を楽しみたいなら、「都市伝説解体センター」をおすすめする。
umdc.shueisha-games.com
証拠解析ゲームとして遊んでみたいと思ったなら、まずは本作の体験版をやってみて、製品を購入するかどうかを検討されたい。









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