35mm f0.95で小田原観光を

これまでも度々「汎用レンズ」を追及してきた。1本でポートレートからクローズアップ、テーブルフォトに風景まで、日常的なあらゆる用途を1本でこなせるレンズはあるか。
なるべく焦点距離の幅が広く、なるべく最小F値が小さく、なるべく最大撮影倍率が高く、それでいてなるべく軽く……もちろんそんな万能レンズはどこにもないので、何らかの性能に妥協することで他を可能な限り高いレベルでバランスさせることになる。
今回は「焦点距離の幅」と「オートフォーカス」を捨てることで、それ以外を満遍なく押さえたMF単焦点レンズを使ってみたい。

ボケるレンズを求めて

「35mmフルサイズはボケる」とはよく言われる(実際には「同じレンズならどんなフォーマットでもボケは同じ」なのではあるが、計算上「同じF値で同じ画角の」レンズを使うならば、APS-Cに対して1.5倍、マイクロフォーサーズに対して2倍のボケ量ということにはなる)。
ボケることは必ずしも利点とは限らず、たとえばボケすぎて絞らざるを得ないことでシャッタースピードの不利を被るような場合だってあるわけだが、しかし一方で「ボケの強さによる立体感」、被写体の背景からの浮き立ちはやはり魅力的な要素ではある。
もちろんマイクロフォーサーズでも、撮り方によってはしっかりとボケを得ることは可能だ。とはいえ「同じ画角、同じF値であればボケ量は半分」であることの制約は否めない。
半面、マイクロフォーサーズの利点である「同じ画角、同じF値ならレンズを小さくできる」ことを生かせば、安価軽量な大口径レンズによってボケ量の不利を補うことも不可能ではないはずだ、ということになる。
そして実際、マイクロフォーサーズには多種多様な大口径レンズが揃っている。

7Artisans(七工匠)の35mm f0.95は、F値が1を切る非常に明るい大口径でありながら、重量400gを切るコンパクトなレンズである。35mm(すなわちマイクロフォーサーズでは換算70mm)という「標準よりは若干望遠」域であることも、ボケ量にはプラスに働く。
風景などを撮るには若干狭くなるものの、望遠レンズほど致命的に画角が不足するわけではなく、逆に周囲が切り落とされる分だけ被写体に集中できる利点もある。最短撮影距離34cmでは画面一杯で10cmほどの範囲とまずまずのクローズアップが可能で、だいたいの状況には対応できそうだ。
今回は、これ一本での観光を試みたい。

ファーストレビュー

外箱は一辺が10cmの白い立方体で、上端から3cmの位置に2mm幅のスリットがあり、内箱の赤色が覗く。箱は1mm厚の厚紙にマットなシールを貼り合わせた構造で、被せ式の蓋は内径の内箱にぴったり合わせてあり、その精度へのこだわりはレンズの品質にも通底するものを感じさせる。

レンズ本体は金属鏡筒で、すべての文字は刻印されている。大径ガラスによる重み(とはいえ380gほどなので言うほど重いわけでもないのだが)も相俟ってしっかりした密度感があり、とても3万を切る安レンズには感じられない。
被せ式のレンズキャップもアルミ製。レンズ先端より僅かに大きな径の内側に布貼りをして隙間を調整してあり、適度な摩擦感でしっかり止まる。こちらも決してチープな作りではないのだが、縁5mmの内側が一段凹ませてあり「7Artisans 七工匠」とプリントしてあるだけなので些か安っぽさは否めない。
全長は60mm程度とコンパクトで、胴回りはマウント外周より僅かに太い程度。同程度の重さのOMDSの12-40mm F2.8 PROと比べると径は二回りほど細い(35mm F0.95はフィルタ径52mm、12-40mm F2.8は62mm)。
ローレットは指かかり良く、滑らかに回転する。いずれもクリック感のない無段階で、絞りについては意図せず回ってしまわない程度のクリックが欲しかった気もする。

PEN Fに付けるとこんな感じ。
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重量は合計で800g強、ボディとレンズの重さが釣り合っておりバランス感はとても良い。
電子接点がないのでピント補助は機能しないが、ボケが強い分だけピント位置は把握しやすい(それでもMF なので若干のピンボケは生じ得るが)。

小田原

都内主要ターミナルから東海道本線で1時間半ほどと日帰りアクセスしやすい小田原は関東有数の城を有する(とはいえ一度は廃城となり現存のものは再建だが)手軽な観光地である。
新幹線も停車する駅前はなかなかの賑わい。土産物などを販売する「小田原新城下町」も雰囲気ある外観だ。
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東口を線路沿いに進むと、ほどなく小田原城が見えてくる。
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桜も流石に古樹が多く、苔生して素敵な風合い。
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……が、今回の第一目的は城ではない。ひとまず通り過ぎて報徳二宮神社(二宮尊徳を奉じる神社)の側へ。
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道の向かいにある二宮尊徳博物館……の脇を入ったところにある国登録有形文化財、旧黒田長成邸「清閑亭」が今回の目的地である。
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小田原は明治時代に保養地として人気を博し、多くの華族やら 実業家やらがこの地に別荘を築いたそうで、清閑亭もその一つである。
3/31を以て一般公開を終了し、今後は料亭となる予定だそうなので、その前に駆け込みで撮影に訪れた次第。

小規模ながら素敵な庭を持つ日本家屋で、イベントへの貸し出しなども行なっており、また喫茶も行なっている。
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喫茶で地元産の蜜柑「湘南ゴールド」のジュースを頂いたが、蜜柑のイメージに反してオレンジ色ではなく林檎ジュースぐらいの白色だった。酸味と少しの苦味が爽やか。
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清閑亭を辞し、城も少し見物。
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なにやら武者姿で行列が。
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本丸広場にて、みかん氷を食す。
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城はそんなに期待していなかったのだが、あちこちに立派な松や桜があって、撮影が楽しい。

これはイヌマキの巨木。樹皮が落ち、捻れた肌が剥き出しになっている。ちょうど桜の枝がかかって絵画のよう。
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堀にも多くの桜が枝を垂れ、水面に美しく映える。これを撮るだけでも来た甲斐があろうというもの。
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城の向かいには真新しい観光センター。ここで軽く食事。
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ここからしばらく街を歩く。大通り沿いには蒲鉾屋を中心に古い店舗が散見され、見ているだけでも楽しい。
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使用感

というわけで35mm F0.95のみで観光写真を撮ってみた。
中望遠としては然程画角が狭くなく標準画角寄りなので、「全体が収まらず撮影を断念する」ようなことはほぼ生じなかった。もう少し望遠があればと思うことはないでもなかったが、料理写真などにも過不足なく、非常に使い勝手が良い。
F値0.95の強いボケはマイクロフォーサーズでも十分な効果を発揮し、わずかなボケ量の差が立体感を作り出してくれる。なるほどボケのために35mmフルサイズが欲しくなるわけだ……
一方でマニュアルフォーカスのため動きものには対応できないし、色収差が強いのかボケの縁がくっきり色付く傾向があるなど若干癖のあるレンズでもあり、決して万全というわけではないものの、「とりあえず安価に明るいレンズを手にすることができる」という利点は大きい。
F1.2 PROなどに手を出す余裕がない人には是非おすすめしたい。