本好きの下剋上:漫画版は如何にして平行連載となったか

本好きの下剋上は、コミカライズを第一部完結後に第二〜第四部平行連載という変則的な形でリリースしている。第二部以降はいずれも未完であるため間がつながっておらず、原作小説未読だと話が飛んでしまうし、未完状態での同時刊行を知らずに新刊を買うと「新刊かと思ったら違う話だった」ということになりやすく混乱を招きがちだ。
無論そういった問題は出版サイドも重々承知ではあったろうが、それでも敢えてこのような形に至った理由はコミックス第三部I巻の後書に説明されている。曰く、「今までのペースでコミカライズを続けると完結まで約30年かかる」。

実際、第一部のコミカライズは完結までには3年以上かかっている。書籍版は1巻あたりおよそ25話程度を収録しており第一部77話分が3巻で刊行されているが、ということは単純計算で書籍1巻分をコミカライズするのに1年が必要ということになる。
書籍自体が未完だが、Web版の話数を基準にするならば全677話であるから書籍としては全27巻の分量、ということはコミカライズ全話完結までには27年かかる計算である。もちろんこれは単純計算なのであって、実際には文章量と漫画描写量は必ずしも一対一で対応しないし、書籍の巻数自体も当初予定より少々増えており30巻を少し超える見込みなので、やはり30年以上を見込んでおくのが順当に思われる。2015年の連載開始であるから、単純に言えば2045年頃までかかる見通しだ。

さすがにこれは長すぎるということになり、完結期間の短縮を目論んで第二部以降は作画担当者を増やして並行展開となったわけだが、では実際のところ、これによって完結までの期間はどの程度短縮可能なのだろうか。

各部のコミカライズ開始日と最新話の掲載日、消化済みの原作話数を元にざっと計算してみる。

原作話数 最新話 第一話掲載 最新話掲載 連載日数 年あたり消化率
第一部 1〜77話(77) 77話(100%) 2015年10月30日 2019年2月19日 1,208日(3.3年) 23.2話
第二部 78〜172話(95) 128話(53%) 2018年9月24日 2022年03月14日 1,267日(3.5年、完結予想6.5年) 14.7話
第三部 173〜277話(105) 204話(30%) 2018年04月30日 2022年03月10日 1,410日(3.8年、完成予想12.8年) 8.3話
第四部 278〜460話(183) 296話(10%) 2020年12月24日 2022年03月21日 452日(1.2年、完成予想12.3年) 15.3話

なぜこれほど消化が遅いかというと、原作がなにげない日常にすら後々の伏線が張り巡らされた緻密な構成であるために省略可能な箇所がほとんどないからだ。
足掛け3年3ヶ月を費やした鈴華さんの第一部、隅々まで丁寧に描写してゆくスタイルの分だけ進みもゆっくりなのだろうかと思っていたら意外にも結構ハイペースだった。逆に週刊連載経験をお持ちの勝木さんによる第四部は、CG背景などを駆使して作画コストを圧縮する手法を取り入れており、一度の更新ページ数も多いためハイペースな印象があったが、こうして比較すると思ったほど話の進みが早いというわけでもない。もちろん状況の違いもあって一概に比較できるものではなく、速度によって優劣を付ける意図はないのだが、この計算に拠ると第二部の完結時期が2025年中、第三部が2031年頃、第四部が2033年といったところになりそうだ。
すると(更に別の方が担当されるのでない限り)第五部は改めて鈴華さんの作画に戻り、年15話程度の消化率で進むと仮定して14.5年ほどかけて2040年前後の完成に……あれ、もしかして5年ぐらいしか短縮できてない?
というか第一部の年23.2話という(これまでで最速の)ペースを基準としたときでさえ完結が30年がかりだったのであって、年15話だったら45年、年8話だったら……80年以上!それは到底待てないなぁ……