労働の必要性と著作権

先進諸国では失業が拡大している。日本に於いても職を持てない人や早期の退職を迫られる例が増えている。
これは無理からぬことで、つまりは人間が働く必要性が減少しているのだ。

機械化共産主義思想

今や、人間でなければならない仕事というのはごく少なくなりつつある。少なくとも単純労働の類いは殆ど機械化できるし、そうしていないとすればそれは単純にコスト上の問題だ。しかし実際には人件費ほど高いコストは多くなく、量産効果が進めば機械化できない部分は益々限られる。
食品販売業は殆ど自動化可能だ。ファストフードなんて全て調理済み食材を組み合わせているだけだから、調理装置が導入されれば無人でもやっていける。
販売業だって無人操業可能だろう。無人レジを導入した例もあるし、在庫管理だって全て自動的に処理できる。
勿論生産工程は既にかなりの部分機械化の恩恵にあずかっているし、機械の整備だって機械がやれば良い。人間の労働力なんか、最早必要ないのだ。
ある意味では、これこそ共産主義の目指すべきだったところだろう。「等しく働き等しく糧を得る」ではなく「誰も働かず等しく糧を得る」である。
流石に医療はまだ機械化には遠そうだが、いずれ技術が発達すればこの分野も人の手を離れるだろう。その方が医療ミスは減少するはずだ。
消防や災害救助分野も、現在の技術ではまだ心許ないが、本質的にはロボットに依託すべき分野だ。
残された道は政治と警察、それに創造的分野ぐらいのものだろう。


そんなにも機械化の可能性は拡がっているのに、実際にそこまで機械化が進む気配はない。それは多分、人間の職を確保して賃金を払うというシステムを廃止できないからだろう。つまり、資本主義に依存するが故の限界/或いは資本主義そのものの限界とも言える。
50年前は資本主義こそが正しい道だったが、50年後もそうであるかどうかは解らない。

共産主義下の著作権

機械化による共産主義(というより無労働主義か)が成立し得るとしたら、人間の役割は純粋な創造的分野(+α)に限定される。しかもそれは糧を得る為の行為ではないから、そこに商業主義的打算の入る余地はない。
そうなると、現行の著作権(というか知的財産権)にまつわる諸々の問題点は全く解消されるだろう。なぜならば、それらは全て利権に関わる部分だからだ。


理想的状態では、著作者に与えられるのは名誉のみである。金にはならないから、それを他の人が複製しようと改変しようと、咎められる事は無い。遵守すべき事は唯一つ、「オリジナルの作者/作品を明示する事」だけだ。名誉欲からオリジナルを騙ったとしても、少なくともオンラインにデータのある限りは元を突き止める事は可能だろうから、すぐに見破られてしまう。


「競争の無い社会では技術が発達しない」というのが、良く聞かれる共産主義への反駁であるが、こう主張する人々は「金にもならないのに研究開発する人」のことを失念しているに違いない。
フリーウェアやオープンソースの存在が示すように、研究開発への情熱は報酬に支えられているのではない。純粋にその研究が興味をそそるから行うのであって、金の問題は二の次だ。
無労働社会では「最初の発明/発見」や「より良い技術手法」の名誉が充分な競争力を保持するから、資本主義に比べて競争力が劣るような事は無い。

金に換わるリソース

無労働共産主義が成立したとしても、それによって直ちに全てのリソースが不要になるとは考えられない。無尽蔵のエネルギー供給手段を持つのでなければ自ずと単位当たりのエネルギー供給量は制限を受けるだろうし、それを越える量を欲するのであれば何らかの代価が必要だろう。これはまあ、節約した分をプールしておいて纏めて使えるシステムでも問題は無いと思うが。
或いは天然産出品など一点ものの所有に関しては競売などの手段が適切と考えられるが、これにも何らかのリソースが提示される必要がある。
知的生産行為をそうしたリソースを稼ぐものと位置づける事は可能だが、そうすると再び商業主義的問題点を抱え込んでしまう。
究極的には(グレッグ・イーガンの描く世界の如く)純粋にヴァーチャルな人類による社会が成立すれば、一点ものなどという概念自体消失するのだが。

知的創造を行うソフトウェア

ところで知的創造は人間にしかできない行為だろうか?実のところ、この分野でもいずれソフトウェアの進出が見られるのではないかと思っている。
機械が人間の好みを理解し素敵なオリジナルを考え出すというわけではないが、例えばある一定のアルゴリズムに従ったランダムな抽出を行う事は可能だから、それを人間が評価しフィードバックする……ということを繰り返して学習して行く事で、人間に好まれるメロディやちょっとした文章程度のものを創り出せるようになるのは、そう遠い事ではなさそうに思う。
人工知能より人工無能に近いシステムだが。