CyberPunk経済論

サイバーパンク作品にしばしば登場する「メガコーポ」。全ての産業を内包しそれ自体が国家機能を有する、つまり「国を私有する企業」という概念は大変魅力的であるが、一方でこういう疑念も沸き起こる-----「製品を販売する先がないんじゃないか?」
実際に、超巨大企業体がどのように成立し得るかを考察してみた。

世界の分類

メガコーポの経済を考察するにあたり、まずは世界背景を定義しておかねばならない。
考えられるパターンを列挙すると:

  1. 一つのメガコーポが支配する先進国家世界と、それを取り巻く発展途上国
  2. 複数のメガコーポと、それを取り巻く発展途上国
  3. 一つのメガコーポが全世界を支配
  4. 複数のメガコーポが世界を分割統治

1〜2と3〜4の違いは、メガコーポの支配下にない国が存在するかどうかである。これらの国は周辺国との競争を勝ち抜いて自らも先進国になりたいと考えており、そのために他国と(主に武力で)鎬を削る。つまりは、これがメガコーポの対外営業先である。
対してメガコーポの支配を逃れた部分がない場合、メガコーポは製品の販売先を失う。他のメガコーポがまさか他社製品を購入するとは思えない(社員は絶対的な忠誠心を叩き込まれている)から、製品は全て社内で消費される。内部では貨幣経済が成立しているかも知れないが、それは給料=製品購入代金の形で一定量が内部を循環するに留まる。
もし何らかの形でメガコーポ同士の取引が行なわれるとすれば、それは金銭ではなく資源の交換として成立するだろう。

メガコーポ内の経済活動

内部の経済は世界の情勢に関係なく一定の形を取り得ると考えられるから、先にそれを記述しよう。
メガコーポはそれ自体が一個の国家でもあるから、内部には市民が生活している。彼らは労働によってメガコーポから給与を支給され、それを消費して生活する。企業に対する絶対の信奉と厳格な勤怠管理、それに自社製品以外の選択肢がない状況から経済システムは限りなく共産主義に近い。
日本煙草が独占営業の公社であるにも関わらず製品競争を行なうように、社内営業セクション同士が競争するシステムを採用している可能性もあり、その場合は比較的資本主義に近い形が残されるが、社内でのみ成立するゼロサム経済であり自由競争とは性格を異にする。

メガコーポの活動目的

経済成長

メガコーポは、その成立過程を鑑みるに企業としての「成長」を根底理念として活動すると考えられる。しかし貨幣経済システムが内部で閉じている以上、対外的に「成長」を評価する指針は殆どない。
外部に他のメガコーポが存在する場合、それらとの支配領域や生産資源量の比較が成立する。この場合の成長要素とは即ち「戦争による領土拡大」に他ならない。それは資源を得るために資源を消費する行動であり、絶対量として+になることはまずないが、他社の力を削ぐことで相対的な+を得ることはできる。
メガコーポがただ1社である場合、支配を受けていない領域が存在するならばそれを支配下に取り込むことが行動目的になるが、既に全土を支配下に置いている場合、恐らくメガコーポは他の惑星→他の星系へと進出を試みるだろう。サイバーパンクではあまり語られることのない宇宙開発である。

社内経済の維持

メガコーポには、社員の生活を維持する義務がある。社が健全に運営されるためには、社会的不安要素を極力取り除かねばならない。貨幣については流通量を厳密にコントロールできるが、資源の不足は避けねばならぬ命題となる。
拡張する社屋を構成する無機物、年々増加する社員の生命を維持する有機物、すべての活動を支えるエネルギー、いずれも増加の一途であり、早晩成長曲線が収益量を上回ることは確実である。それを回避するために、あらゆる資源を採取し尽くし、足りないものは略奪し、或いはリサイクルする。すべての廃棄物は分子レベルで弁解・再構成され、場合によっては死体まで再利用するだろう。

電子的メガコーポ

特殊な形態としては、全ての活動が電子化される可能性もある。企業を動かす意志は巨大な一つのデータ生命であり、その維持と成長-----処理速度と記憶容量の増大、電力の供給-----のみを行動理念とするシンプルな形態が特徴である。宇宙への進出も容易であり、最終的に生き残るのはこのパターンかも知れない。

新たな競争相手

周辺国の企業国家への成長や宇宙進出による他天体との競争の可能性。地球のみを舞台とするサイバーパンクは退廃的で疲弊しているが、宇宙へ進出するサイバーパンクは開放的で活発なものになるかも知れない。