シートマッサージャーを試す

ふらりと立ち寄った家電量販店で気紛れに試したマッサージャーがとても良かった。しっかりと「揉みほぐす」動きで筋肉の凝りをいい感じに刺激してくれる。その割に値段も高くない。
どうやらこれは「シートマッサージャー」というカテゴリで、椅子と一体化した「マッサージチェア」のような大型装置ではなく椅子の上に置いて座る、あるいは床に敷いてその上に寝る形で使うものであるらしい。

マッサージチェアというのは大型の椅子と一体化した装置で、安いものでも10万はくだらない。売れ筋の価格帯は20万から上といったところで、置き場も含めて気軽には手を出せない装置である。その代わり高機能で、背中だけではなく手足までマッサージしてくれたりもする。
対してシートマッサージャーに椅子は付かない。価格帯によっては座椅子程度に椅子の形をしているものもあるが、基本的には椅子の上に載せて使うものだ(体重を預ける必要があるので背もたれがある程度リクライニングしたものが必要かと思う。専用の椅子も1万5千円ぐらいで販売されている)。マッサージ範囲は背中一帯で、脚などは対象外(腿への振動ぐらいは装備している場合もあるが)。価格は2〜5万といったところで、サイズ的にも価格的にもマッサージチェアよりだいぶお手頃である。

しかしマッサージ需要が最も高いのは肩〜腰の範囲であって、脚などは(できるに越したことはないけれども)必須ではないし、必要にして十分な揉み機能を持つのであればシートマッサージャーの方が何かと利便性が高いのでは?

というわけで、ひとまず大型量販店のマッサージャーコーナーで試してきた。
だいたいこういうところで展示されているのは上位機種であることが多いので、探せばこれより安いモデルも出てくるが、安価なものはマッサージ機構が振動のみであったり揉み範囲が狭かったりと、安いなりの理由がある。またマッサージは「体に合うか」が非常に重要なので、結局は「試して良かった」ものを買うのが最良だと思う。

試用

フジ医療器 マイリラ MRL-1200

価格:3万2千円程度
最初に試した機種であり、本命の候補。
首〜肩および背中〜腰を広い範囲で揉んでくれる。揉み機構は剛性が高く非常に安定した動作で、人の手で揉んでいるかのような力の入れ具合が感じられる。また身長180前後でも肩までしっかり揉んでくれるのは有り難い。

ドクターエア MS-002(プレミアム)、MS-04

価格:3万2千/2万4千円程度
揉み機構はしっかりしているが、可動範囲が若干狭く、私の背だと肩までは届かない感じでもどかしい。
また上位機種では振動機能も付いているのだが、正直なところマッサージ効果が感じられなかった。

アテックス TOR AX-HPT221

価格:4万円程度
揉み加減はそう悪くないのだが、動作音がうるさい……というか、グッと押し込む動作に伴い、歯車の噛み合いがずれたような滑り感がありガガガガ……という振動が発生する。店頭試用品にガタが来ているだけなのかも知れないが、耐久性に不安を感じてしまう。

というわけで、最初に試して心地良さを感じたフジ医療器のマイリラが比較検討の結果としても最良に感じられたのでそれを購入。
なお型落ち機種なら2万2千円程度で販売されているのだが、そちらには首・肩用の揉み機構がないようだ。

自宅での使用

購入したフジ医療器 マイリラ MRL-1200が届いたので早速使ってみる。
シートマッサージャー本体に、上下のジッパーで座面と背当てを取り付ける形。腰のあたりにベルクロのベルトがあり、これを椅子の背に回して固定する。

とりあえず事務用のリクライニングチェアに取り付けてみた。が、

  1. 座面が高い
    • 椅子の上にクッションを置く形になるので高さを調節する必要がある
  2. 腰の揉み具合が弱い
    • チェアの腰位置がマッサージャーの想定位置より深いのか、あるいはマッサージャーを置いた分だけ浅く座ることになるのがいまいち合わないのか
      • やはり専用チェアがあった方が良さそう

というわけで、もうひとつの使い肩である「平らに置いてその上に寝る」形でも使ってみた。

  1. 体重で圧がかかるので強く揉める
    • 逆に強すぎると感じる人は椅子でやる方がいい
  2. 寝る位置の調整で当たる場所を変えやすい
    • 椅子型でも左右位置は多少ずらせるが上下位置はずらしにくいので

こちらの方がなにかと使いやすい印象。
我が家特有の事情として、椅子をマッサージャーに占領させにくく、かといって使用の都度セッティングするのも面倒なので、ならば寝かせて使う方がいいかも知れない。
作動音はデジタルモーターの小さな唸りのみで非常に静か。なんならこのまま寝られるぐらい。

F0.95のレンズ一覧

明るいレンズが欲しい。

写真の良さはレンズ性能で決まるわけではないが、レンズ性能は可能性を広げ、撮影を楽にしてくれる(はずだ)。
明るいということはシャッタースピードを稼げるということでもあり、あるいはボケが強くなるということでもある。ボケれば良いというわけではないものの、ピント面以外が大きくボケることによって被写体を浮き立たせることができるのは魅力的ではある。
この方面では比較的センサーサイズの小さいフォーマットであるマイクロフォーサーズはどうしても不利だが、その分だけ明るいレンズを使えば、不利を補うことも不可能ではない。

明るいレンズは概して大きく、重く、高い。これはF値が「焦点距離÷有効口径」で決まるが故にF値を小さくしようと思えば大口径にならざるを得ないという性質によるものだが、逆に言えば焦点距離を抑えれば有効口径も抑えることができるし、あるいは有効口径を稼げばそこそこ長い焦点距離でも明るくできるということではある。しかしながらズームレンズやオートフォーカスでは有効口径を稼ぎにくいようで、大口径レンズは大抵マニュアルフォーカス単焦点である。

オートフォーカスレンズは電気的な機構もさることながら、カメラ本体との通信が必要であるためメーカーとの正式な契約なしには作ることができないが、マニュアルフォーカスならばレンズマウントの形状さえ合わせてしまえばどうにでも作りようがあり、それゆえ勝手サードパーティーレンズの存在する余地が生まれ、大口径単焦点マニュアルレンズが比較的安価に入手できる。
「明るいレンズ」の世界ではF0.95というのが一つの基準であるらしい。人の目はF1.0だとされ(眉唾ではあるが)、「それより僅かに明るい」ということなのかもしれない。ともあれ、F0.95を謳うレンズが多数存在する。今回はそれらを中心に比較してみたい。

私はマイクロフォーサーズを使っているので、他マウントのレンズについては参考程度に留める。

F0.95(マイクロフォーサーズ用)

ブランド 焦点距離 最短撮影距離 最大撮影倍率 重量 全長 フィルター径
フォクトレンダー 10.5mm 0.17m x0.12 585g 82.4mm φ72
中一光学 17mm 0.3m x0.07 460g 75mm φ58
フォクトレンダー 17.5mm 0.15m x0.25 540g 80mm φ54
LAOWA 18mm 0.15m x0.15 500g 83mm φ62
フォクトレンダー 25mm 0.17m x0.26 435g 70mm φ52
中一光学 25mm 0.25m x0.13 230g 55mm φ43
七工匠 25mm 0.25m x0.13 582g 99.7mm φ52
LAOWA 25mm 0.25m x0.17 570g 86mm φ62
Meike 25mm 0.25m 600g φ62
SLR Magic 25mm 0.26m 500g φ52
中一光学 35mm 0.35m x0.13 390g 58mm φ55
七工匠 35mm 0.37m x0.12 369g 59mm φ52
Meike 35mm 0.39m 380g φ52
フォクトレンダー 42.5mm 0.17m x0.26 571g 74.6mm φ58
中一光学 50mm 0.5m x0.05 770g 88mm φ67
七工匠 50mm 0.45m x0.1 410g 56mm φ62
銘匠光学 50mm 0.5m x0.05 410g 60mm φ58
SLR Magic 50mm 0.5m 640g φ62
フォクトレンダー 60mm 0.34m x0.25 860g 74.6mm φ77

(撮影倍率はなぜか同じ最短撮影距離でもメーカー発表値に差があったり、そもそも未発表だったりする(適当に同じ距離のものに合わせて書いた)ので参考程度に)

Voigtländer(フォクトレンダー)は長野のレンズメーカー、コシナがドイツの老舗レンズブランドの商標権を得て製造している。ライカソニーE、フジXなどのレンズもあるが、F0.95以下の明るさはマイクロフォーサーズ用にしか存在しない。
レンズ設計としては、最短撮影距離の短さが際立つ。いずれも最大撮影倍率が(換算値で)0.5倍ほどあり、セミマクロとして運用できる。
反面、遠慮のない光学設計はカメラ本体を上回るほどの重さや価格に反映されている。
マイクロフォーサーズ専用設計だけあって換算21mmから120mmと広い範囲をカバーしてくれるのは嬉しい。
なお29mm F0.8という超レンズも存在する(後述)。

中一光学(mitakon)、七工匠(7artisans)、銘匠光学(TTartisans)、LAOWA、SLR Magic、Meikeはいずれも中国のレンズメーカー。

中一光学はスピードマスターの名でF0.95レンズをラインナップしている。17mm・25mmはマイクロフォーサーズ専用、35・50mmはAPS-Cまでをカバー。
またm43マウント専用にT1.0シネマレンズも存在する。
25mmは僅か230gと、大口径レンズと思えぬ軽さ。

七工匠は特にレンズ名はないようだ。大口径でありながら3万を切る安さは魅力的。

銘匠光学(TTartisans)は主にライカM42マウントレンズなどを多く揃える。50mmの他に35mにもF0.95があるのだが、こちらはなぜかマイクロフォーサーズ用がない。

LAOWAは他社にはない特徴的なコンセプトのレンズを多く揃える。F0.95シリーズではないが、マイクロフォーサーズ用では超軽量の7.5mm F2や超広角の4mm魚眼など。

SLR Magicは名前からして一眼レフ用レンズメーカーだが、シネレンズを多く扱う。

Meikeは

性能

可能ならば全種の性能を比較したいところだが、残念ながら買って試すほどの余裕はなく、また同条件で比較できるだけの情報も得られないので、あくまで個別に行われたテスト事例やレビューを見ての判断となる。
フォクトレンダーは全般に、開放付近がかなりソフトフォーカスとなることが知られている。それはそれで味わいある描写ながら、ある程度の解像力を期待するならF2程度まで絞らざるを得ず、しかしそれでは折角の大口径が生かされない。価格・重量ともヘヴィ級であることから気軽には手を出しにくく、最短撮影距離を活用するか他社にはない焦点距離のために選ぶレンズということになるだろう。
中一光学は全般的に、ボケに二線傾向が見られるようだ。とりわけ小型軽量な25mmではそれが顕著で、せっかくの強いボケにも関わらずザワつきが目立ち、あまり背景が溶け込まない気がする。
七工匠はボケも含めてかなり素直な描写で、なおかつ価格も手頃だが、25mmはマイクロフォーサーズ以外のマウントにも対応するイメージサークルのゆえかフォクトレンダー以上の大きさと重さで、些か使いにくい。
LAOWAは色収差を抑えたAPO設計とのことで、溶けるようになだらかなボケは魅力的。

この中で一本を選ぶとすれば、手頃な価格でバランスの取れたスペックと描写力を両立する七工匠35mm F0.95だろうか。撮影倍率がもう少し高いと更に使い勝手が高まるのだが、それは贅沢というものかもしれない。

マイクロフォーサーズでは換算70mm相当と若干画角が狭いものの、望遠というほどまで強くはないため比較的標準レンズに近い感覚で使えるかと思う。

他レンズ(参考情報)

マイクロフォーサーズ用以外のF0.95レンズや、F0.95以外のマイクロフォーサーズ対応大口径レンズについても触れておく。

ブランド F値 焦点距離 最短撮影距離 最大撮影倍率 重量 全長 フィルター径
イカ F0.95 50mm 1m x0.02 571g 74.6mm φ58
名匠光学 F0.95 50mm 0.7m x0.02 690g 73mm φ67
ニコン F0.95 58mm 0.5m x0.19 2000g 153mm φ82
フォクトレンダー F0.8 29mm 0.37m x0.1 703g 88.9mm φ62
IBELUX F0.85 40mm 0.75m 1200g 128mm φ67
Kamlan F1.1 32mm 0.4m 572g 91mm φ62
Kamlan F1.1 50mm 0.4m 563g 72mm φ62
オリンパス F1.2 17mm 0.2m x0.15 390g 87mm φ62
オリンパス F1.2 25mm 0.3m x0.11 410g 87mm φ62
オリンパス F1.2 45mm 0.5m x0.1 410g 84.9mm φ62

イカは……まあ説明不要だろう。参考価格およそ150万、他システムなら本体と大口径レンズ一式買ってお釣りが来る金額で、それに見合うこだわりの性能はあるのだろうが正直なところ「情報を買っている」感は否めない。
同じライカMマウントでほぼ同スペックの名匠光学50mm F0.95が価格は1/15とあっては尚更。
ニコン58mm F0.95はもう「どこまでこだわるか」を突き詰めたような代物だ。完全受注生産、ライカのそれに匹敵する価格もさることながら驚きの重量2kg。
ここまではマイクロフォーサーズ以外のレンズだが、以下はマイクロフォーサーズに対応したレンズとなる。
フォクトレンダー「スーパーノクトン」29mm F0.8はニコンのそれと同じく換算58mmの画角に”夜光”を超えるF0.8を実現しながらも、価格はたったの20万。いや十分高いレンズだが、こうやって比較すると激安に見えてくる。
IBELUXはマウントアダプターのKIPONがドイツの工業系光学メーカーと合同で立ち上げたブランドで、このレンズは前玉が凹レンズだそう。重量1.2kgは些か辛い。
Kamlanは台湾のレンズブランド。特殊ガラスや非球面レンズを用いないシンプルな構成のためフレアやフリンジが明瞭に発生するものの、使いようによっては演出として効果的だろう。600g弱は軽くはないが、重すぎるというほどでもない。
オリンパスM.zuiko F1.2PROシリーズはオートフォーカスレンズとしては最も明るいF1.2。なるべく明るいレンズを、マニュアルではなくオートフォーカスで運用したいならばこれ一択だろう。

性欲と支配欲:男性の「男性性」理解のために

昨今、女性キャラを用いた広報がフェミニズムからの批判によって「炎上」する事例が増加している。個別の是非は措くとして、批判に対し反論が行なわれる中で、しばしば「ミラーリング」が発生する。
ミラーリングとは、批判者と批判対象の立場を入れ替えることを意味する。正しく行なわれれば問題の本質を浮き彫りにすることも可能な行為だが、問題が正対していない場合には単純な「鏡写し」が両者の立場を正しく反転できず、却って誤解を生じる場合も少なくない。

フェミニズムは女性の権利闘争であり、その範囲は労働や学問に於ける立場から性的搾取などまで多岐に渡るが、中でも性の問題はなかなかに難しい:そもそも男女間で、恐らく性に対する意識に相当な差があるからだ。
大雑把に言えば、男性は「女性全般を性的対象として見ており、一部を対象外と考える」が、女性は「男性全般を警戒対象として見ており、一部を対象外と考える」傾向がある。
それぐらいに見え方が違うため、単純に両者の視点をひっくり返しただけではミラーリングになり得ない。たとえば男性にとっては「女性から性的な目で見られる」のは喜ばしいことに感じられてしまうだろうし、あるいは「女性全般を常に警戒する男性」を想像するのは難しい。

(参考:暴力被害の男女比を考える - 妄想科學倶樂部)



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「本好きの下剋上」初見勢のためのちょっとした解説

小説投稿サイト「小説家になろう」での連載当時から繰り返し読み耽り、刊行された書籍をはじめとする資料集を集め、二次創作に手を出すぐらいにのめり込んできた「本好きの下剋上」がアニメ化された。
元はそこまで知名度の高い作品というわけではなく、「知る人ぞ知る名作」といった立ち位置だったのが、アニメ化によって間口が広がり、多くの新規ファンが増えた。そして、その分だけ疑問も広がる。

元々、本作は徹底的に「主人公の視点」から世界を描いているため、客観的な情報が読者に伝わりにくい構造になっている。その上、主人公がいささかエキセントリックで読者の思考が主人公のそれと同期しにくいこともあって、「なぜそうなるのかわからない」ことが生じる場合がある。
また、かなり綿密に「中世ヨーロッパ」を調べた上で書かれているのだが、それが却って「読者ののイメージ」と乖離する面がある(我々は実際の中世について、驚くほど無知だ)。結果として「こんな設定は不自然だ」と感じられてしまうことも多いようだ。

納得できないまま読み進めていただいても問題はないのだが、人によってはその違和感が拒否感に転化されて読めなくなってしまう場合もあるようで、それは些か勿体ないので、引っ掛かりやすい部分について少しばかり解説を試みたい。

記事の性質上、内容に触れざるを得ないため先の展開に触れる部分がある。視聴未了の方はネタバレに留意されたい。

マイン編

マイン自分勝手すぎない?

序盤のマインは碌に家事の手伝いもせず、自分の望みのままに家族を振り回すところがあり、たしかに「自分勝手」ではある。この点については作者としても懸念があったのか、それとも読者から何か言われたのか、「なろう」版には「最初のうち性格悪い」という注意書きもあった。
ただ、これは彼女の「度を越した活字中毒」という特性と、「見知らぬ異世界に一人放り込まれた」という孤独感、そして5歳児の情緒によるものと解釈できる。

誰だって、知り合いの一人もいない、これまでの人生経験が全く通じない異世界に放り出されたら不安だろう。その上、生まれ変わった体はひどく虚弱で儘ならず、しかも「人生のすべて」というほど欲して止まない本が、この世界ではどこにもない(正確に言えば、「あるが平民の手が届くようなものではない」)。そんな状態では、「自分で本を作る」という希望に逃げ込むしかないのは仕方ないことではないだろうか。
とはいえ、この問題はルッツをオットーに紹介する(アニメ6話、なろう版25話)頃からはずいぶんと変わってきて、周囲との繋がりも大事にするようになってゆくし、この世界の家族を本当の家族として受け入れるようにもなってゆく。

本好きの癖に知識なさすぎ

マイン(というか麗乃)はたしかにジャンルを問わず様々な本を読んでいたが、にも関わらず本作りでは知識があまり役に立たず失敗しまくる。これは単に「知識がない」というよりも、「読んだだけでは真の理解は得られない」ということだろうと思われる。
実際、序盤もっとも助けになった知識は生前の母に付き合って色々やらされた「オカンアート」や自身が興味を持って体験してみた「和紙作り」など、要するに「経験」したことのあるものばかりである。
これは「単に前世知識だけで無双できるほど単純ではない」という作者の信念に拠るものかと考えられる。

それが最も顕著に表れているエピソードが、カトルカール作りだろう。貧乏平民では手に入れられない材料を使って、いざお菓子作り!……と勇んではみたものの、記憶にあるレシピはいずれも 前世の単位、グラムやらリットルやらを基準にしたもので、この世界の単位ではそれがどの程度に相当するのかがわからない。「お菓子の材料はきっちり計れ」とよく言われるように、微妙な加減の必要なお菓子は目分量で作ると失敗しやすいため、適当に作るわけにも行かない(まして、この世界では高価な砂糖を使うのだし)。そこで閃いたのが「4種類の材料を同じ量だけ使う」カトル・カールという、これは正に「前世の知識があっても無双できるわけではない」ことを作者が強く意識していることを示すものだ。

家の中を見て、なんで新聞もカレンダーもない世界だと気付かないのか

もちろん冷静になれば、家や家具などから技術程度がある程度推測でき、印刷技術の普及していない時代であることが理解できたかも知れない。しかし転生後すぐで動転しており、また前世の「常識」が抜けていないこともあって「印刷物のない世界」を適切に想像できていない、もしくは「想像もしたくない」のだろう。
それに、「中世ヨーロッパ風」ではあっても中世ヨーロッパそのものではないので、技術の発展が同じようであるとは限らない。たとえば史実でも、西洋で印刷が始まったのは15世紀のことだが、東洋では7世紀頃には既に木版印刷による文書の量産が行なわれている。実世界でさえこれほどの差が生じるのだから、見知らぬ世界ではどうなのか、わかったものではない。

パピルス紙の作り方も知らないのか

パピルス紙の原料が芦のような植物であること、繊維を縦横に重ねたような構造であることまでは知っているものの実際にパピルス紙を作った経験はないため、技術的な要点はイマイチ理解不足である。実際には水と発酵で余計な成分を抜いた上で圧着乾燥せねばならず、そう簡単な話ではない(だからこそエジプトはパピルスの製造技術を独占でき、紙の輸出と引き換えに献本を要求し多数の知識を集積したアレクサンドリア大図書館を作ったし、またパピルスの禁輸制裁を受けたペルガモン王国が代替品として羊皮紙を開発するに至ったのだ)。

なぜ木簡を燃やされないように家族に伝えておかないのか

マイン自身にとっては大事なものであることは自明なため燃やされてしまう可能性を想像もしていなかったものと思われるが、そもそも木簡作りは「家の手伝いとして」焚き木を拾うために森へ行き仕事そっちのけで作り上げたものであるから「手伝いもせずに遊んでいた」とは言いにくいし、エーファからしてみれば「娘がはじめてお手伝いで拾ってきた焚き木」にしか見えない。不幸な事故だったのだ。

乗っ取られた「本当のマイン」かわいそう

マインの一人称視点であるために当人の認識があたかも事実であるかのように見えるが、実は「乗っ取った」という認識は正しくない。実際には「麗乃の記憶が思い出されマインの記憶と融合した」のだが、まだ幼ない上に家からほとんど出ないマインの記憶は圧倒的に少ないため、主観的には「麗乃がマインを上書きした」かのように見えているに過ぎず、知識はともかく情緒的にはあくまで歳相応である(ので神殿編では情緒不安定になって接触を求めたりする)。
しばしば判断がおかしい点も、大人の記憶があるため理知的な判断を下しているようでその実判断力は意外に子供、ということなのかも知れない。

ルッツ編

なぜそこまでマインの面倒を見るのか

すべての始まりはパルゥケーキである。
ルッツは男ばかりの兄弟の末っ子で、決して裕福でない家であるから食料が潤沢とは言えず、食べざかりの兄たちにおかずを奪われることも多く常に腹を空かせている。両親も忙しいためその辺りまで気が回っていないが、当人にしてみれば食の不足は命に関わる問題であり、その食料事情を継続可能な形で抜本的に解決してみせたマインは「命の恩人」ぐらいの重みがあるのだ。

飢えているのにおから(パルゥかす)を食べることを思い付かないはずがない

実際にはマインのしたことであるが、ルッツ絡みなのでここに記す。
エーレンフェストが飢饉に見舞われたというなら飼料だって食べようとしたか知れないが、マインの食事などを見てもわかるようにべつだん街に食料が不足しているというわけではない。単にルッツの家が大食らいの男ばかりの兄弟で飯の取り合いになりがちというだけなので、新たな食文化が発生するほどのきっかけとはなっていない。
またルッツは男であり子供であるので自分で料理をすることもなく、それもあってパルゥかすを食べてみるような発想には至らない。
おからを食べものとして認識しレシピを知っていたマインだからこそ思いついた食べ方であって、自然発生するようなメニューではないのだ。

ルッツ大人すぎない?

これはそう、本当にそう。
この世界の1年は現世より長い420日(1日が何時間相当なのかは不明)だが、たとえ6歳時点で実質7歳相当であるにしても、その倍ぐらいの知性を感じる。
とはいえ、この世界の子供は幼いうちから家の仕事を仕込まれ、10歳でもう奉公に出るわけだから我々の思う子供感とは随分違うのだとは思うが。日本だって昔は数えで12歳ぐらいで元服していたのだし。

ルッツの両親、毒親

ディードは口下手でルッツどころか妻にも真意を説明しておらず、それがすれ違いの原因となっているという点ではたしかに「ディードに非がある」にも関わらずルッツに謝罪を要求するなど、些か理不尽にも感じられる。
ただ、そもそもこの世界では「子は親に従う」「女は男に従う」ものというのが一般的認識であり、親の意向を無視しているのはルッツの方だ、という点には注意が必要だろう。

その上でディードは、突き放すようではあったもののルッツの選択を却下はしておらず(という意図は伝わっていなかったが)、決して高圧的に支配するような意味での「毒親」というわけではない。あくまで認識の違いとコミュニケーションの不足によって「そう見えた」だけである。
(これはギュンターにも言えることだが)怒りに任せて大声を上げたり机を叩いて大きな音を立てたりする威嚇的行動は現代の基準だと些か暴力的に思えてしまうが、彼らが職人や兵士といった「肉体労働者」であることも鑑みれば、この世界の標準的なコミュニケーションの範疇を逸脱するものとは言えまい。

技術編

木造で高層建築作るような技術があるのか

実は木造の高層建築自体は紀元前からある。ローマでは1〜2階が石造りで、その上に木造階を重ねた5〜9階ほどの集合住宅が都市部に多く立てられた。エレベータどころか水道すらない時代であるから日々の水汲みも高層ほど重労働となり、その分だけ家賃が安く低所得者が多く住んだようだが火事に際しても上層ほど逃げるのが難しく、ローマの大火では大勢が犠牲になったという。
また中世ヨーロッパでも同様の石積みに木造階を重ねた高層住宅は健在で、パリの15世紀頃からのものなど、各地に中世当時の建物が現存する。

店の本がガラスケースに入っているがガラスは平民には高価ではないのか

現実でもガラス製造の技術自体は古くからあり、それがない社会(日本など)ではガラスは貴重な宝物だったが、製造技術のある社会では必ずしもそこまで高価であったわけではない。平面的なガラスの製法も3世紀までには確立していたし、平滑度や透明度では我々の思い描くようなガラスに及ばないにせよ、板ガラス自体はあって不思議ないと言えよう。
1話冒頭の工房シーンでも棚にガラス器が多く見られるように、この世界にはガラス製造技術が既にあり、貧しい家では板窓であるものの富裕平民の住宅や店舗では窓ガラスも用いられている。

展開編

序盤のテンポが遅い

これはその通り。
なにしろ本作は商業メディア掲載を前提としていないWeb小説という特性上、序盤で盛り上げられなくても打ち切られるようなことはない。
その上、主人公が病弱なため自力で動き回れないことから情報がなかなか得られず、試行錯誤も失敗の連続とあって、どうしても物語が動き出すまでに時間がかかってしまう。
かといって冗長(に見える)エピソードをカットすれば良いかというと、実は異様なほどに伏線が多く、何気ない日常シーンのようであっても後日に繋がる重要な情報だったりするため、省略も難しい。
あれでもアニメは原作より省略されているのだが、それで猶「序盤が遅い」のだという……

下剋上してない/司書になってない

これは単純に、「アニメ化されたのは序盤だけだから」。
原作「小説家になろう」版は677話あるが、アニメ第二期までで カバーしているのはそのうち135話ほどまで、全体の2割ほどに過ぎない。下剋上も司書もずっと先の話なので、是非そこまでアニメ化して欲しいところ。

マイクロフォーサーズの標準ズームを考える

旅行に行くときはなるべく身軽でありたい。カメラは外せないがレンズは最小限、しかし景色を撮るための広角、食べ物を撮るための近接、それに多少の望遠は欲しい。
単焦点だと一本あたりは小型軽量でも3本ぐらいを使い分ける羽目になり、また付け替えの手間もあって撮りたいと思った時に撮れない場合がある。動かないものならば少々時間を取っても良いが、動物や乗り物など「今すぐ」撮るためにはどうしても即応性が不足する。
やはりズームレンズが必要だ。それぞれの画角では単焦点に劣るとしても、画角を自在に変更できる能力は捨て難い。

そういうわけで今回は、広角〜中望遠域をカヴァーする標準ズームレンズを物色する。

求める性能としては、

  • 景色を多く撮るので、広角側はそれなりに広く。現在使っている15mm F1.7(換算30mm)では若干の不足を感じる場面があるので、最低でも12mm(換算24mm)程度は欲しい。
  • 望遠側は多くを求めない。とはいえ最低でも標準域50mm相当程度は必要で、できれば中望遠域ぐらいまでをカヴァーしたい。
  • 近接はマクロというほど強力である必要はなく、料理などを撮ることができれば十分。
  • 重量は軽いほど良い。OM-D E-M5/M10系やPENのボディが400g前後なので、レンズは300gとし、ストラップ込みで合計重量を800g程度に抑えたい。
  • 価格は……まあ安く済むならそれに越したことはない。

といったところ。

候補

まずはズームレンズのうち広角側が12mmよりも長いレンズ、望遠側が25mmよりも短かいレンズを候補から外し、10本ほどに絞る。

パナソニック 最大撮影倍率(換算) 最短撮影距離 重量 価格(概算)
LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm F1.7 ASPH. x0.28 0.28m 690g 18万
LUMIX G VARIO 12-32mm F3.5-5.6 ASPH. MEGA O.I.S x0.26 W:0.20m / T:0.30m 70g 2万
LUMIX G X VARIO 12-35mm F2.8 Ⅱ ASPH. POWER O.I.S. x0.34 全域0.25m 305g 8万
LUMIX G VARIO 12-60mm F3.5-5.6 ASPH. POWER O.I.S. x0.54 W:0.20m / T:0.25m 210g 4万
LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0 ASPH. POWER O.I.S. x0.6 W:0.20m / T:0.24m 320g 9万
オリンパス(OMデジタルソリューションズ) 最大撮影倍率(換算) 最短撮影距離 重量 価格(概算)
M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO W:x0.14 / T:x0.42 0.23m 411g 12万
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO x0.6 0.2m 382g 7万
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO x0.5 W:0.12m / T:0.23m 254g 5万
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO W:x0.6 / T:x0.42 W:0.15m / T:0.45m 560g 15万
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 W:x0.20 / T:x0.46 W:0.22m / T:0.7m 455g 9万
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ x0.72(Macro) 0.20m(Macro) 212g (2万)

最後に加えた1本は生産終了品なので新たに購入するレンズの選択肢としてはおすすめしにくいが、私の所有レンズなので参考情報として加えておく。

広角

上記のうち、広角が12mmよりも広いのはLEICA VARIO-SUMMILUX 10-25mm F1.7とM.ZUIKO 8-25mm F4.0 PROのみだ。この2本は望遠側が25mm止まりなので標準域のズームレンズというよりも「やや望遠側の長い広角ズーム」という方が適切だろう。とりわけ10-25mmはズームレンズながらF値1.7と単焦点並みの明るさを持つ大口径レンズで、その分だけ重く高価なのであまり観光で気軽に持ち歩くレンズではない。
その他のレンズはいずれも最広角12mmで、さしあたり優劣はない。

望遠

焦点距離ではM.Zuiko 12-200mmが圧倒的で、これはもう超望遠の域である。これほどの超倍率ズームだけに450g超と若干重いし、流石に画質は若干甘さが否めないようだが、広角から超望遠までを1本で賄うならこれ以外の選択はあるまい。とはいえ観光に於いてそれほどの超望遠を使う場面は恐らくそれほど多くはなく、敢えて観光用として採用すべきかどうかには些か疑問がある。
次点のM.Zuiko 12-100mm F4 PROはプロの写真家をして「これ1本あればほとんどの仕事は間に合う」と言わしめるほどの超レンズだが、560gもの重さと12万という価格は流石に軽々しく手を出せるものではなく、気軽な観光用レンズとは言えない。

この時点で、「超広角にこだわる」「超望遠にこだわる」場合の選択はほぼ決したようなものだが、逆に言えば「どちらもそこまで必要ない」場合の決め手はまだない。
残り6本を比較してみると、望遠側の焦点距離が短かい方から32mm、35mm、40mm、45mm、60mm(2本)となる。最もコンパクトな12-32mmと最長の12-60mmでは望遠の画角が倍ぐらい違うが、逆に言えば2倍弱の差に過ぎない。長いに越したことはないが、短かいからといって使い勝手が極端に劣ることはなさそうだ。

近接

この項目は実はひとつの性能ではなく、最大撮影倍率と最短撮影距離の両方が影響してくる。
恐らく旅先で小さなものをクローズアップ撮影する機会はさほど多くないだろうが、たとえば花や実などを大きめに撮りたいことはあるかも知れない。
最大撮影倍率では、スペック上もっとも高倍率なのは(マクロモードを持つM.ZUIKO 12-50mm F3.5-6.3を除けば)LEICA VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0とM.ZUIKO 12-40mm F2.8 PROの換算0.6倍、次いでLUMIX G VARIO 12-60mm F3.5-5.6の0.54倍、M.ZUIKO 12-45mm F4.0 PROの0.5倍だ。
一方で最大撮影倍率の低い方ではLUMIX G VARIO 12-32mm F3.5-5.6の換算0.26倍、LEICA VARIO-SUMMILUX 10-25mm F1.7の0.28倍、LUMIX G X 12-35mm F2.8の0.34倍あたり。

最大撮影倍率から「どれぐらいの大きさに撮れるか」を想像するのはちょっと難しいと思うが、大雑把な目安としては
0.2:アジサイの房ぐらいの大きさなら画面一杯に撮れる
0.4:バラ一輪ぐらいを画面一杯に撮れる
0.6:タンポポの花を画面一杯に撮れる
ぐらいのイメージ。0.6までなくてもいいけど0.3ぐらいだと若干物足りない気はする。
この時点で絞り込むならば、最大撮影倍率の低いパナソニックの3本を落とすところだろうか。

最短撮影距離の方は、主に料理写真などに関わる部分だ。撮影距離の長いレンズだと目の前の料理を撮るために席を立たねばならなくなったりするので、なるべく短距離で撮影できた方が良い。
撮影距離は望遠ほど長くなるが、超望遠で料理を撮ろうとすると画角が狭すぎてごく一部しか写すことができなくなるし、逆に最大広角で撮るとパースが強くなり不自然さが出るので、だいたい標準的な25mmあたりの最短撮影距離が25cmぐらいに収まっていれば良いだろう。撮影距離は最広角と最望遠の数値はあっても25mm時のものはないため明確な比較はできないが、流石にM.ZUIKO 12-200mm F3.5-6.3の最広角22cmは若干厳しいかも知れない。他のレンズは12-100mm以外いずれも望遠側でも25cm以内に収まっており、さほど不便はないものと思う。

こうして見ると、性能面だけでは意外に絞りにくい。いずれも劣らぬ性能を持ち、あとは何を重視するかというバランスの問題になってくる。

価格

最安はパナソニックLUMIX G VARIO 12-32mm F3.5-5.6、2万円ちょっとで買える。次点がLUMIX G VARIO 12-60mm F3.5-5.6で、最安時期なら3.5万ほどになる。3番目に安いオリンパスM.Zuiko 12-45mm F4 PROとは2万5千円ほどの差があり、LUMIXのコストパフォーマンスが光る。
逆に最も高いのはM.Zuiko 12-100mm F4.0 PROで、最安でも12万円。次いでLEICA VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0、最安で7万6千円。

重量

最軽量はLUMIX G VARIO 12-32mm F3.5-5.6でわずか70g。次点はLUMIX G VARIO 12-60mm F3.5-5.6の210gとM.ZUIKO 12-50mm F3.5-6.3の212g、またM.ZUIKO 12-45mm F4.0 PROも245gと、なかなかいい勝負だ。まあ重量に関してはLUMIX G X VARIO 12-35mm F2.8(305g)やLEICAVARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0(320g)も十分に許容範囲ではある。流石に10-25mm F1.7(690g)や12-200mm F4.0 PRO(560g)はちょっと厳しい。

総合評価

最後に、ここまでの全性能をスコア化してみる。
広角・望遠・最大撮影倍率・最短撮影距離・重量・価格それぞれに、最も性能の低いものに0、以降順番に1点づつスコアを割り振ってゆく。11本あるので最低は0、最高は10点ということになるが、性能指標によっては同率も生じ得るので必ずしも最大が10とはなっておらず、また他に比して高い性能を持つものは相応に評価すべく調整を加えている。
広角性能については11本中9本が0となる関係上、より広角なレンズのスコアがごく低いスコアしか与えられないことになるので、これのみ5・10点を割り振った。望遠は12-200および12-100が突出しているので、この部分のスコアを高めにしている。またF値は6段階に分けられたので2刻みとなった。

パナソニック 広角 望遠 F値 倍率 最短 重量 価格 合計
LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm F1.7 ASPH. 5 0 10 1 0 0 0 16
LUMIX G VARIO 12-32mm F3.5-5.6 ASPH. MEGA O.I.S 0 1 2 0 4 10 8 25
LUMIX G X VARIO 12-35mm F2.8 Ⅱ ASPH. POWER O.I.S. 0 2 8 2 1 6 4 23
LUMIX G VARIO 12-60mm F3.5-5.6 ASPH. POWER O.I.S. 0 6 2 6 4 9 7 34
LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0 ASPH. POWER O.I.S. 0 6 6 7 4 5 3 31
オリンパス(OMデジタルソリューションズ) 広角 望遠 F値 倍率 最短 重量 価格 合計
M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO 10 0 4 3 2 3 2 24
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO 0 3 8 7 4 4 5 31
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO 0 4 4 5 6 7 6 32
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO 0 8 4 6 5 1 1 25
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3 0 10 0 4 3 2 3 22
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-50mm F3.5-6.3 EZ 0 5 0 8 4 8 8 33

純粋にレンズ性能を追及すれば大口径化しがちだが、そうすると重量および価格のスコアが悪化する。結果、ピーク性能よりも総じてバランスの良いレンズが高スコアとなる。
そういうわけで、スコアトップは性能の割に安くて軽いLUMIX G VARIO 12-60mm F3.5-5.6(34点)、次いでマクロモードによってスコアを稼いだM.ZUIKO 12-50mm F3.5-6.3となった。
ただ、このスコアは性能からの絶対指標ではなく、あくまでこの11本の中での順位スコアであるから1〜2点程度の差異はあまり意味を持たない。その意味で30点以上のLEICA VARIO-ELMARIT 12-60mm F2.8-4.0、M.ZUIKO 12-45mm F4.0 PRO、M.ZUIKO 12-40mm F2.8 PROはいずれも甲乙付け難いレンズと言っていいだろう。
また、これは全体的なバランスを重んじるものだから、どうしても譲れない性能がある場合はこのスコアはあまり意味を為さなくなる。

個人的にこの中から選ぶならば、やはり手頃な価格と重量で必須性能をほぼ備えた、LUMIX G VARIO 12-60mm F3.5-5.6とM.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROの2本いずれかだろう。

金沢旅行:2〜3日目

2日目:朝食

2日目の朝はまず朝食から始まる。
昨日の古建築探訪エリアからやや駅側へ遡った一体、「百万石通り」周辺は大正時代以前の木造商店建築が多く残る場所である。前日に目を付けておいた、台湾料理 四知堂 kanazawa天保年間創業の漆商「森忠商店」の建物で、大正時代のものだという。
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四知堂は台湾に本店のある、本場の台湾食堂である。
ここで台湾粥と鶏肉飯、割包に冷台湾茶を。本日の銘柄は東方美人。
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美術館へ

当初はまず兼六園の予定だったが、前日に歩き過ぎたダメージが残っており庭園散策は体力が続かないと予想されたため、予定を変更して先に金沢21世紀美術館を巡ることにした。
www.kanazawa21.jp
バスを下りるとまず、オラファー・エリアソン《カラー・アクティヴィティ・ハウス》が。
シアン・マゼンタ・イエローの「色の3原色」のフィルムを貼られたガラスの曲面が螺旋状に囲う空間で、色の重なりによってガラスを通した景色が様々な色に見える。壁面同士の反射による色のグラデーションも美しい。
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この日は七五三だったらしく、向かいの石浦神社にお参りした着物の子が記念撮影していた。

美術館は円形で、周囲をぐるりとガラスの壁が囲っている。
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入口でチケットを購入し、まずはレアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》内部入場の予約を取る。有料展示を含めたチケットは1200円だが、バスのフリーパスで200円の割引がある。
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入場時間待ちの間にコレクション展を巡る。
武田竜真《The Eye of a Needle》は海の映像を投射するプロジェクターと洞窟の形を切り抜いたスタイロフォームによる作品で、壁に洞窟から見える海の景色を投影する。
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草間彌生《I’m Here, but Nothing》は展示室内に設えられた生活空間と、その一面に貼られた蛍光色のカラーシールをブラックライトが光らせる。
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ゲルハルト・リヒター 《8枚のグレイ》は何も描かれていない、同じ大きさのダークグレイのパネルが貼られた空間。シンプルだけに「どう見るか」がこちら側に委ねられる。
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そのほか、コレクション展でもっとも惹かれたのは、「SCP」の概念を生み出すきっかけとなったことでも知られる加藤泉の油彩作品を筆頭にシリン・ネシャット、アナ・メンディエータ、向井山朋子+レニエ・ファン・ブルムレンらの写真・映像作品が集められた一室。全体として「未知の宗教儀式」を思わせ、ホラーシナリオの着想が得られそうな雰囲気であった。写真作品にせよ映像作品にせよ、「それを写真に撮影する」ことによって元の作品が持つ魅力を伝えることは困難であるため割愛する。

この美術館が特徴的なのは、なによりもまず「恒久展示作品のために作られている」ことだろう。中庭に埋め込まれる形で作られたレアンドロ・エルリッヒの《スイミング・プール》はその筆頭だが、ほかにも複数の恒久展示作品が館内に組み込まれている。
パトリック・ブラン《緑の橋》は壁面に多数の植物を植えた「垂直庭園」をコンセプトとした作品。
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ジェームズ・タレル《ブルー・プラネット・スカイ》は天井を刳り貫いた大きな部屋で、外と隔絶した何もない空間によって空そのものを展示する。
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同じく空そのものを展示するのがヤン・ファーブル《雲を図る男》。
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アニッシュ・カプーア《L’Origine du monde》は奥に向かって窄まってゆく斜めのコンクリート壁と漆黒の楕円形から成り、遠近感を狂わせる(こちらは撮影禁止)。

展示室の半分ではふたつの「フェミニズム」をテーマとした展示が行なわれていた。ただこちらは些か散漫というか、テーマに対して踏み込みが足りないような印象を受けたが、その中では、裸身のセルフポートレイトを「プレイボーイ」のラビットマークやスクール水着などセクシャルな記号の形に切り抜いた木村友紀《存在の隠れ家》、嫁ぐ女性の顔を隠す風習になぞらえてヌード写真の顔のみを隠した潘逸舟《無題》にはメッセージを感じる。

ちょっと早いが館内のカフェで昼食。
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地下へのエレベーターは箱上部分の装置や周囲の囲いがない油圧式だった。
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さて時間が来たので、いよいよ《スイミング・プール》の地下へ。
展示の性質上、「プールの底に人がいる」「プールの底から人を見上げる」ことに面白みがあるのだけれど、それだけに写真は撮りにくい。同時に入った人たちが写った写真はあるけれど今回は上げずにおく。
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21世紀美術館の近くには私設美術館「KAMU Kanazawa」もあり、こちらにもレアンドロ・エルリッヒの作品《INFINITE STAIRCASE(無限の階段室)》が展示されている。鏡を使った錯覚を得意とするエルリッヒの作風がよく出た一品。
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まだ日も高いうちではあるが、前日のダメージが大きく既に疲れていたのと、前日に撮りすぎた分で朝の時点ではゲージ3本に見えたバッテリーが点滅表示になった(これによって、フル充電で撮影可能な枚数はおよそ500枚が限度ということが判明した)ことで早めにホテルへと引き上げることに。
このあたりは他にも明治24年の煉瓦建築「旧制石川四高」や国会議事堂を設計した矢橋賢吉の設計になる大正13年の最古の鉄筋コンクリート県庁舎などがあるのだが、それらを見て回る気力と電力が足りない。

この日は1万歩ほどでホテルへ帰着。

3日目:朝食と神社

どうせなら「金沢ならでは」のものを食べよう、と朝は地元で知られる名店「ひらみぱん」へ。
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朝から行列ができていたので店内での飲食は諦め、テイクアウトしたパンを近くのベンチで。いずれも美味ながら、特に外はカリッと香ばしく中はもっちり滑らかなカヌレは絶品だった。
内装も素敵だったので撮影したくはあったが、これだけ混雑しては憚られたので諦める。

そのひらみぱんからまっすぐ、尾山神社明治6年に旧金谷御殿跡地へ造られた、加賀藩前田利家を祀る神社。明治8年に建てられた神門は和洋中折衷の独特な形式で、最上階には色ガラスが嵌められている。頂上にあるのは日本最古の避雷針だそう。

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これは前日の夜に神門だけ撮ったもの。色ガラス部分がよくわかる。
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御殿の庭園だった場所はそのまま、神庭として今もある。
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にし茶屋街と昼食

犀川を渡ってにし茶屋街へ。ここに架かる橋は鉄筋コンクリート3連アーチの浅野大橋より2年後、大正13年の鉄骨トラス橋で、こちらも登録有形文化財である。
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茶屋街へ行く手前に気になる建物を発見。
3階建の料亭「山錦樓」は大正11年に建築されたものを昭和11年に3階部分を増築したものだそうで、新しい上階部には色ガラスが見られる。
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にし茶屋街は、市内3箇所の茶屋街の中では唯一「伝統的建造物群保存地区に指定されていない」場所である。その理由は、実際に行ってみるとよくわかる。
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茶屋街の雰囲気は感じるものの他の2地区に比して規模が格段に小さく、また小綺麗に整えられており「つくりもの」っぽいのだ。勿論ここも茶屋街だったのではあり、当時の面影を残す場所には違いないのだろうけれど、雰囲気を楽しむならば浅野川方面へ行った方がいい。
ただ、大正11年の芸妓管理事務所であった西検番事務所だけは間違いなく当時のものだ。
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昼食は、昨日の朝に食べた四知堂へ。ここは軽食だと店頭席での提供となるが、ランチセットは奥のテーブル席でいただくことができ、その向こうには庭も見える。
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雨が降っていて寒かったので暖かい台湾茶が飲みたいところだったが、「キノット」という耳なれない飲みものが気になったので、それを注文。柑橘の一種であるらしい。
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魯肉飯と牛肉麺、それぞれに生姜シロップ・金木犀シロップの豆乳プリンと雪Q餅が付く。
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ところでこの辺りは他にも古い建物が多く残っているので、それらをざっと貼っておく。
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金沢の木造建築では、1階の屋根と2階の窓の間にこのような、タイルというか瓦による装飾が施されていることが多い。気になる風習。
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また寺院の瓦などは、よく見る鈍色のものではなく真っ黒で艶がある瓦が使われていた。どうやら素焼きではなく黒釉をかけた、能登独特の瓦であるらしい。

これは最近建てられたと思しい商業施設の入口にあった謎の屋台。いい雰囲気だが現在は営業していないようだ。
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金沢城兼六園周辺と街探索

兼六園方面へ向かいはしたものの、結局中には入らずじまいだった。なんとなれば「広い」からだ。以前、六義園を回ったときもかなり足を酷使したが、こちらはそれよりまだ広い。そして城は(敷地面積だけなら)その3倍ある。
そういうわけで城と園は次回来たときの楽しみに取っておくことにして、その間を通りつつ写真を少し撮って、市街中心部「香林坊」方面へと向かう。
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これは武家屋敷跡から移植したものだという、立派な枝ぶりの松。
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古い建物ばかりではなく、「普通の街」も少し撮っておく。
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金沢駅にて

早めに金沢駅に戻り、空港へのバスを待つ間に駅内店舗をひとめぐり。
金沢の名店を集めたデパ地下のごとき土産物売り場は新幹線ホームに直結しており、財布へのアクセスが良い。
駅弁だけでなく、待つ間に腹ごなしできるよう飲食店も充実している。
帰る前にもう少しのどぐろを味わっておこうと、海鮮丼を注文して帰路。
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金沢旅行:1日目

会社の勤続表彰で休暇と旅行券を貰ったので、一度行ってみたかった金沢に出掛けた。
結論から言えば、金沢は凄い場所だった。あまりに凄すぎて写真の枚数がとんでもないことになったので分けて掲載してゆく。

計画

新幹線の方が時間の融通利いて便利な気もしたが、運賃がかなり違うので航空便に。実質飛行時間はわずか36分、家〜羽田空港/小松空港〜金沢にかかる移動を鑑みても新幹線(およそ3時間)より速い。
新幹線は今のところ金沢止まりで大阪方面へはまだ路線が完成していないのだが、特急サンダーバードが2時間半で結んでいるのでこちらは航空機より手軽なようだ。


箱根旅行の際に「どんな場所でどんなものが撮れるかわからない」旅先では単焦点の付け替えには限界があると痛感したので、できればズームレンズを持って行きたいところだ。しかし手元のズームレンズはキットレンズぐらいしかなく、流石にちょっと物足りない。
じゃあメーカーのレンタルサービス(いいレンズを格安で貸し出し、沼に嵌める陰謀)を利用しよう、とLUMIX BaseでLeica 12-60mm F2.8-4を借りに行ったのだが「写真付きの身分証が必要です」運転免許証とか持ってないので撃沈。
仕方ないので今回も単焦点のみで行くことに。

1日目午前中:空港〜駅まで

朝早くに出たので、空港で登場前手続を済ませた後まず朝食。空港内の和食処Hitoshinayaで白粥をいただく。

だいぶ時間があったので空港内を散策するも、朝はショップも開いていない。
これは店のディスプレイにあったロンデル窓(のために作られる、吹きガラス円盤)。

飛ぶまでは長いが、飛んでしまえば着くまでは早い。機内サービスでJALオリジナルの桃とぶどうのジュースをもらって、紙コップが回収されるともう着陸である。
空港を出てリムジンバスで金沢駅へ。飛行機の搭乗時間と同じぐらいの時間がかかって、到着は昼前。

まずは金沢の新名所、「鼓門」を見にゆく。螺旋状の柱に支えられた木造の赤門が印象的だが、実際にはその門に連なるトラスフレームのガラスドームにまず圧倒される。

持ってて良かった魚眼レンズ。

門の側から見ると、ガラスドームが見事にその陰に隠されていることがわかる。

ドームの左右は曲線状に広がり、バス・タクシーのロータリーになっている。後にわかるが、鉄道が未発達なぶんバス網が整備されており、これが主要な交通手段になる。

青空の反射も美しい。

とりあえず、朝食が軽かったのでまずは昼食を食べようということで近江町市場へと歩く。後にわかったのだがバスで2区間ほどの距離があり、歩けないほどではないが足を温存するならバスを使うべきだった。
市内の主要観光地を周遊するバスは1回200円(距離に関わらず)だが600円で1日乗り放題の券が駅のバス乗り場で購入可能で、様々な施設の入場料が200円ほど値引きになるので迷わず買うといい。なお我々の旅行が終わったその日から電子化され、アプリをインストールすれば売り場に行かずとも乗り放題券が買えるようになるそうだ。

これは市場への途中で見つけた洋品店。なかなか情緒ある店構え。

大通りにはどこも地下道があり、信号を待たずに渡れるようになっている。歩道橋を見ないのは雪国ゆえか。ただ、都心の駅地下にあるような地下街は見られない。

近江町市場にてのどぐろの寿司などを食べて満足。

1日目午後:街歩き

当初、金沢観光ではひとまず兼六園21世紀美術館を主たる目的に据え、他にいくつか気になる観光スポットを拾ってなんとなくプランを練っていた。
2日目の夕方〜3日目は雨の予報で、特に3日目は寒くなるようだったので、暖かい1日目〜2日目のうちに兼六園を回るのが良いのでは……と言いつつ、とりあえず街中をぐるりと巡っておこう、とバスに乗り……すぐに気になる建物を見付けてバスを降りた。
思えばこれが大正解(あるいは大失敗)だった。

来るまで知らなかったが、金沢という街は至るところに古建築が残る場所である。あまりに数が多いので、目立つもの以外はさして貴重とも思われていない節があり、気軽にリノベーションされて店舗として使われていたり、あるいは単なる民家として今も現役だったりする。
そういうわけで、一軒見付けて写真を撮っているとその近くにまた一軒見付け……と足を運んでいるうちにすっかり街歩きに時間を取られてしまうことになった。

まずは旧三田商店。

昭和5年建築のコンクリート造スクラッチタイル貼り。丸みを持たせた角に入口を設け、装飾的な正面を成す。

隣には喫茶店が続くが、こちらは壁の意匠を合わせてはいるものの後世の築。

続いて旧村松商店。

こちらも昭和3年築のアール・デコ建築で、直線と曲線を組み合わせた装飾が特徴的だ。
現在はCazahanaというインテリアショップが入っていた。
cazahana.com
あまりに素敵なので内装を撮らせてもらう。

こちらの店で、近所の古建築内覧会の情報を教えていただく。ちょうど当日とその翌日の2日間のみ実施されているそうで、早速そちらへ向かうことに。
……と、その途上で気になる物件を見付けて寄り道。
昭和7年築の旧田上医院は、モルタル塗りの正面こそ地味ながら側面へ回ると木造病室が続く大医院であったことが伺われ、なかなかの迫力。

さてその古建築は、金沢医大の教授であった人物の住んでいた洋館であるそうだ。
最近まで住んでいたのか、外観は樹脂製の雨樋が取り付けられたりと手が加わっているものの、荒れた庭木は屋根に倍する高さで、その年月が伺われる。

ステンドグラスには天馬に跨る騎士の絵。盾には1930とあり、これが建築年と想像される。

玄関は黒塗りに緑タイル貼り。

内部は床も天井も剥がれてはいるが、内装の良さが伺われ映画セット的な雰囲気を醸す。

台所との壁は料理を配膳する棚になっている。

配電盤のある和室は使用人の部屋だったのだろうか。

ここからはざっと写真を並べるに留める。館は和洋室入り混った3階建で、二階には大きな和室や壁一面に本棚を設えた書斎もあったが、見学者が多かったため撮影はしなかった。いくつかの部屋は床が腐り落ちていた。

これほどの建物は他地域ならば自治体の保存指定を受けそうなものだが、今のところ特に指定はされていないようで詳細な情報は不明。

さて街歩きに戻る。
この辺りは特に昭和初期の建築が多く残っているようだ。
昭和4年築の旧高岡銀行橋場支店は、現在は金沢文芸館 五木寛之文庫として運営されている。

木橋のたもとにあり、すぐ裏手を川が流れているのは印象的。

1日目夕:茶屋街へ

旧高岡銀行橋場支店の反対側には浅野川を渡る大橋があり、橋を挟んで手前側に主計(かずえ)茶屋街が、向こう側にひがし茶屋街が広がっている。
この橋自体も大正11年のもので、登録有形文化財だそう。

このあたりを撮るのが当初の二次目標だったのだが、あまりに素敵すぎて日没までずっと撮影していたので、この日はこれでおしまいになってしまった。

ただ、期待していた日暮れの光景については、コロナ禍の影響か夜間に明かりを灯す茶屋がほとんど見られず少々物足りなくはあった。早く観光の活気が戻って欲しいところ。

1日目夜:夜の駅前〜ホテル

日が沈んだので鼓門のライトアップを見に駅へ戻る。

ホテルはトリフィート金沢。
torifito.jp
できたばかりの新しいホテルで、グレイを基調とした落ち着いた内装。

窓際にソファが設えてあるのは嬉しい。

足が痛くなるまで歩き回って、ホテルで歩数を確認したら2万1千歩だった。推定移動距離14km、そりゃ足も疲れるわけだ。