シーリングスタンプのヘッドを作ったので、そのテストを兼ねてシーリングスタンプ用品を色々と揃えた。
シーリングスタンプというのは、手紙などに蝋を垂らしてスタンプを捺す封印のことだ。
古式では火の点いた蝋燭から溶けた蝋を垂らして捺したようで、今でも棒状で芯のある蝋燭型のワックスが使われるが、最近の流行りは粒状のワックスをスプーンに乗せ、炙って溶かすやり方である。
粒型の良いところは溶かす量を調節しやすいこと、そして複数の色を混ぜるのが容易であること。様々な色のワックスが販売されており、複数混ぜ溶かせばマーブル模様を楽しむことができる。
ワックス溶融炉
ワックスを溶かすのに特別な道具は必須でなく、手持ちのスプーンを使いガスコンロなどで炙るだけでも問題ない。が、持ち手が金属だと熱伝導によって火傷する懸念があるので非金属製の持ち手があるスプーンが必要だし、注ぎ口があった方が使い易い。また、溶けるまで手で支えるのでなく置いておける場所があると楽だ。
そういうわけで「ワックスウォーマー」とか「ワックスメルター」などと呼ばれる「専用スプーンを加熱してワックスを溶かすための炉」が売られている。
もちろん、火を使わない電熱式のものもある。が、なぜか形状が「アヒル」「猫の肉球」⋯⋯⋯⋯
いや、ファンシーな可愛さが悪いわけではないが、少なくとも私の好みの路線ではない。もっとシックで、アンティークめいた雰囲気のものが欲しい。
なので自作することにした。
まず、電熱式のウォーマーを分解する。
シンプルな構造だ。電源からパイロットランプと発熱体に線が繋がっており、間にスイッチを挟んでいる。発熱体は金属板でスプーンを納める金属パーツに押し付けられており、ここを介してスプーンまで熱を伝える。
これなら筐体の自作に問題はなさそうだ。
むしろ問題はその筐体の素体である。アンティーク風のデザインを考えたいが、なにぶんこうした炉自体が近年の粒状ワックス以後に登場したものなので、そもそもアンティークの実物など存在しないのだ。
炉のイメージで色々考えてみたものの、丁度良さそうな大きさとデザインで、かつ加工が可能な素材のものを探すというのは容易ではない。
そこで炉にこだわるのを止め、アンティーク雰囲気の小物としてどう機能を収めるか考えてみた。
要はスプーンを置いて加熱する場所が収められれば良いわけで、ならば箱型でもいいのでは?
スプーンの長さは10cmほど。周囲のマージンを考慮しても、幅15cm程度に収めたい。
そのサイズで適当な箱を探したが、なかなかこれといったものが見付からない。アクセサリケースでは小さすぎ木箱の類では大きすぎ、あるいは素材が鉄やガラスで加工できない。数日悩んでいたが、ふと見た百均のマグネットフラップ付き紙箱がちょうど内寸155mmと手頃なサイズだったので、これを使うことにした。
板材に線を引き、部品を載せて配置を検討する。
スプーンは手前中央部。箱の奥行き方向は105mmだがスプーンの直径は40mmしかないので、周辺部に10mmのマージンを取っても奥側が半分空いてしまう。なのでスタンプヘッドを置く穴を作ろう。
制作したスタンプヘッドが2種類なので、左側に穴をふたつ。右半面が余るので、そこにワックスを入れた瓶を収める穴を作る。発熱体は左下側に来るので使用中もたぶんワックスが溶けてくっついたりはしないはずだ。
箱の内寸は高さ50mmしかないので、50mmに収まる小瓶を探さねばならない。最初は円形の小瓶を入れようとしたのだが、材質にガラスとある瓶を注文してみたら樹脂製で、安っぽくなるので採用を中止、代わりに空のインク瓶を採用した。
今回は丸く穴を空ける加工が多いので、ホールソーを購入する。スタンプヘッド軸を収めるための15mmと、スプーンヘッドを収める40mmのふたつだ。
ホールソーというのは要するに「刃を円形にした鋸」である。中央に軸があってドリルに取り付けて回転させることで板を切り抜く。丸く穴を空ける道具としては他に「座ぐりビット」というものがあって、こちらは「回転させて板を削る」鉋のようなもので、穴を抜くだけでなく「円柱状に掘り下げる」ことができるのだが、その分だけ削るパワーが必要で、かつ木屑も多く出る。今回は穴を空けられれば充分と考え、ホールソーの方を採用した。
ホールソーとドリルで穴を空け、円形以外の部分は糸ノコで切る。端材で穴の後ろを塞いだので座ぐりビットで良かったのではという気もしたが、それだとスプーンの軸を受ける部分の削り出しが面倒になっていた気もする。
スプーンの受け部分は金属用のエポキシパテで接着。がっちり固まり耐熱性も高いので、発熱部の接着には丁度良い。
裏面に部品を配線してゆく。流用元のワックスウォーマーは電源コード直結だったが、箱からコードが出ているのもちょっと邪魔な気がするのでメガネ型ケーブルのコネクタを埋め込むことにした。
配線は単純な直列繋ぎかと思っていたら実は発熱体とパイロットランプLEDは並列だった。どうも発熱体はPTCヒーターと呼ばれるもので、温度上昇に伴い抵抗が増大し発熱量が下がる、自発的温度維持特性を持つ代物らしいのだが、つまり直列にするとLEDの分だけ抵抗が増え発熱しなくなってしまうようだ。
結線部分をハンダ付けし、熱収縮チューブで絶縁。
パイロットランプとスイッチは雰囲気がイマイチなので、ラインストーンを貼り付ける。
オイルステインで着色しニスを塗って、箱に収めて出来上がり。
箱の内張は黒のストライプでちょっとモダンに過ぎ雰囲気が合わないので、後からアンティークペーパー風の紙を貼った(トップの画像)。
ハンドル
最近のシーリングスタンプはヘッドにネジ穴が刻んであり、好きなハンドルを取り付けられるものが多い。
ということはネジの規格さえ合えば、ハンドルは任意ということだ。木のハンドルがもっとも一般的だが、金属や樹脂のハンドルなども販売されている。
アンティークの鍵(風の金属チャーム)を購入し、これを改造してハンドルを作ってみる。
スタンプヘッドのネジ規格を調べてみたところ、M7だという情報を得た。これはネジの共通規格で外径が7mmであることを示す。日本ではM6以降は2刻みなのでM7というサイズはあまり使われないが、シーリングスタンプが主に海外の文化であるためそういうサイズ規格が一般的なのだろうか。
というわけでM7x10mmのボルトを購入した。
どうやらヘッドのネジ径にもM7とM8の2種類があるようだ⋯⋯
(というか一部のヘッドでなぜか「M7でもM8でも嵌まる」ものがある。径は違うがネジのピッチが一致していて嵌まってしまうんだろうか⋯⋯)
M8ならば手に入れやすい。
イモネジを使えばネジ頭の鍔部分がないので見た目もシンプルにできるだろう。金属同士の接合用にはエポキシパテを使用した。
これは2液混合式で、強力ではあるが固まるまでは粘液状であるため支えを必要とする。流し込んで固めるなら良いが、形を整えるには不向きだった。粘土のように練って使うタイプの金属パテをおすすめする。
鍵の先端をネジの穴に合わせてパテで接着しただけであるが、そこそこ雰囲気良くまとまった。
金属風とはいえ質感が異なるので、パテ部分は塗料を塗ってカバーしている。