超音速・垂直離着陸戦闘機 F-104V/J

F-104Vは、実用戦闘機として初のマッハ2を達成した超音速戦闘機F-104を素体として開発された、超音速VTOL戦闘機である。

当時は東西冷戦下であり、東側と国境を接する国々では常に臨戦状態の緊張が続いていたため、兵器の開発は青天井の予算を投じて非常に早いペースで進められた。航空戦力に於いては新技術であるジェットエンジンとミサイルの発達に伴い、ドッグファイトのための機動力よりも敵機を振り切るマッハ2前後の超音速性能が求められ、F-100から始まる「センチュリー」シリーズと呼ばれる超音速機シリーズが誕生した。
当時はまだ大陸間弾道核ミサイルが実用化されていなかったため、主な脅威として想定されたのは核爆弾を搭載した高高度爆撃機であり、これを即座に迎撃するための要撃戦闘機には卓越した上昇性能が要求された。これに対しロッキードは、最小限の武装のみを備えた軽量の胴に極限まで空力抵抗を削ぎ落とす鋭利で小さな主翼を配した、一撃離脱の高速戦に特化した設計で応えた。
F-104として制式採用されたそれは、最大速度マッハ2.2(エンジン推力の限度ではなく耐熱性の限度であり、後の改良型ではマッハ2.4にも達する)と最大3万mを越える高度、そして高度1万6千m到達までわずか1分という凄まじい上昇能力を見せつけた。

そのような要求仕様を出したにも関わらず、仮想敵国と海を隔てる米国ではF-104の航続距離の短かさと搭載力の低さは不評で、ごく短期間の運用のみで退役となった。しかしその比類なき高速性能は東西緊張の最前線にあった国々では重宝され、特に西ドイツには総生産数の実に半数が配備された。
また専守防衛により国土付近での迎撃任務のみで航続距離を必要としない航空自衛隊に於いても、F-104は主力戦闘機として採用されている。

だが最大の配備先たる西ドイツも決してF-104の性能に満足していたというわけではない。要撃が主任務であるとはいえ、主力機として採用した以上は多用途に用いざるを得ず、結果として高高度・高速要撃を旨とするF-104の仕様に反する運用に就くことも多く、改良あるいは代替を求める声は少なくなかった。
とりわけ、高速性を最優先した小さく薄い主翼の代償としての低揚力による滑走距離の長さは、主任務たる要撃に於いても懸念事項となった。常に東側との戦争を想定していた西ドイツ空軍では、敵の攻撃により満足な滑走路を確保できない状況下での迎撃戦を想定して短距離離着陸性能が必要との論は根強く、F-104にロケットブースターを装備して専用発射台から斜め上に打ち上げるスクランブル装備などの実験も行なわれたが、実用には至らなかった。

そこでベルコウ社・ハインケル社・メッサーシュミット社は合弁事業体EWRを設立し、F-104をベースとしたVTOL機の開発に着手する。目標としたのはF-104の持つ高速度・高高度要撃性能を維持しつつ垂直あるいは短距離離着陸を可能とすることだった。独自設計ではなく既存機体をベースとしたのは開発期間短縮の目論見とともに、増大する防衛予算への批判を躱す目的があったと見られる。
基本プランは翼端に取り付けたジェットエンジンが垂直から水平へと角度を変えることによって離陸から飛行へと遷移するティルトエンジン式VTOLで、小型のエンジンを上下双発の形で組み合わせることにより前面投影面積を大きく増大させることなく、F-104に近い重量推力比を実現する目論見であった。
折しも同時期に英国でもVTOL機(ホーカー・シドレー ケストレル FGA.1)が開発されており、これは亜音速機であり西ドイツ空軍の求める要撃性能を満たすものではなかったため採用には至らなかったものの、VTOL向けとして開発されていたロールスロイスターボジェットエンジンについてはライセンスを得てメインエンジンとする計画となった。

EWR-VJと名付けられた試験機はF-104の胴体からエンジンを取り外し、主翼の先端にそれぞれ2基のロールスロイスRB.145ターボジェットンジンを配した。この小型のエンジンは1基あたりの推力こそ12.2kNとさほど高くないものの小型軽量であり、重量推力比ではF-104が搭載するJ79の倍にも達する。4基の小型エンジンは、J79単基とも遜色ない合計推力を生み出した。
F-104の刃のように薄かった主翼はエンジンポッドの回転軸を通すために厚みのあるものに作り変えられ、また回転軸を水平にするため下反角を付けた中翼配置から水平の高翼配置へと改められた。併せてディープストールを引き起こす原因となったT字尾翼も廃して低翼に配置し直している。
主翼前縁には翼端失速を防ぐドッグトゥースが設けられているが、レイアウト的に翼端からの気流剥離はエンジンポッドによっても抑止されるため、あまり意味がなかったようだ。

初号機は垂直離床からの水平飛行遷移でアフターバーナーなしに軽々と音速を突破し、十分に実用的な性能を示した。初号機は後に自動操縦装置の欠陥により失われたものの、二号機はアフターバーナー併用でF-104に迫るマッハ1.8を叩き出した。
三号機ではエンジンをより推力の高いロールスロイスRB.162へと換装しマッハ2を突破、上昇速度についてもF-104のそれへと迫ってみせた。

エンジンポッドが胴体から翼端に移動したことで重心モーメントが左右に分散し、空力による旋回能力自体はF-104よりも若干低下しているが、翼幅が短かいため分散化の影響は比較的抑えられており、代わりに左右の推力バランスを変動させることによる旋回補助が可能となったため、総合的には旋回性能の低下は見られない。チップタンクを失った代わりにエンジンを取り外した胴部後方へタンクを配置できるため、航続距離は却って延びた(ただし垂直離着陸に消費する分を考慮すると同程度ということにはなる)。

F-104がベースとなっているとはいえ推進系や制御系はまったくの新設計であり、F-104との部品共通性は3割程度に過ぎない。事実上の別機種であったが、予算承認上の都合で同機はあくまでF-104のヴァリエーションとされ、F-104Vの形式名が与えられた(これは米国に於けるF-86Dの事例が参考になったものと思われる)。
ロッキードの設計を流用しているため形式的に「ロッキードからのライセンス供与を受けた」体で西ドイツ内で国内製造されると共に、設計はロッキードへもクロスライセンスされ、独自に他国へF-104Vをライセンス供与することが認められた。

このため、F-104を導入している日本に対しても「改修」の体でF-104Vの導入が打診された。
地上基地から洋上へのスクランブル発進を主任務とする航空自衛隊では、特段VTOL能力を重視してはいないためF-104Vは性能試験機として少数を導入するに留まった。一方で海上自衛隊では以前から艦載機としてのVTOL取得に積極的な姿勢を見せており、F-104Vにも強い興味を示したものの、依然「空母」を持つことは専守防衛の原則に反するとして政治的に強い反発があったため戦闘機としての配備は断念し、代わりに機銃を下ろしてカメラを搭載した偵察型を艦上高速哨戒機として導入している。

超音速VTOL要撃機というコンセプトを高いレベルで実現したF-104Vではあったが、その後に核兵器の運用が爆撃から弾道ミサイルへと移行していったことによって防空要撃のドクトリンにも変化が生じ、マッハ2クラスの高速性能や搭載量の少ない軽量VTOL機の需要が減少したため、生産数は少数に止まった。



……という適当設定で作ってみたF-104改、「もしEWR-VJ101自衛隊に制式採用されたら」架空機である。機体としての設定はWikipediaとか読みながら適当にでっちあげたが、航空機の設計技術に詳しいわけでもないので不自然なところはご容赦願う。
新型機なのに新たな機種名にしなかったのは、F-104の通称名スターファイター」があまりに素敵すぎて、F-102デルタダガーとF-106デルタダートのように発展名を考えるのが難しかったから。

去年は架空戦闘車両を立て続けに製作し、架空設定でそれっぽく作る楽しさに目覚めたので、次は航空機をやってみようかと考えていたところ、たまたまWebでEWR-VJ101のことを知り、このキットも碌にない実験機を作ってみるのもいいかなと考えた。

計画

まずは改造プランを立てるために実機の三面図を探して、素体となる機種と改造先の図をカタログスペックに応じたサイズに調節してスケールを合わせ、重ねる。
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機種部分はほぼ同一なので流用はできそうだ。エンジンのない胴部はF-101よりもだいぶ細く絞り込まれており、垂直尾翼もカットされている。水平尾翼は取り付け位置こそ変わっているものの、形状的には流用できそうだ。
主翼はかなり形状が違う。類似形状のキットから流用するか、それともプラ板から自作するか……これは要検討。
問題はエンジンポッドで、こんな風に上下双発の配置はあまり例がない。BACライトニングの尾部は丁度良いのだが、エアインテイク部分は中央にショックコーンを置いた円筒形であり、VJ101のものとは異なる。
一番近いのはF8クルセイダーの機種直下インテイクで、これを半分のスケールで上下に置くとおおよそVJ101のエンジンポッドに近いイメージになりそうだ。

というわけで1/72 F-104を1機と1/144 F-8を4機購入。

F-8は機首と尾部以外を切り捨てるという、些か勿体ない使い方となる。

工作

最初に、F-104の胴体パーツからエアインテイクの膨らみを切り落とす。
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また併せて尾部も斜めに削ぎ落としておく。これには新規導入のエッチングソーが大活躍した(使い慣れないので早速1枚を折ってしまったが)。

機首側には先に操縦席を組み込むのだが、これは組み上がってからでは塗れないので、先に操縦席だけ塗装を済ませる。
シートには1mm幅に切ったマスキングテープを貼ってシートベルトを追加。計器・スイッチ類はスミ入れした後で適当に白や赤を点々と乗せる。コンソール中央のレーダーはクリアの蛍光グリーンで塗った。
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操縦席と前輪部を組み込んで機種を組み立て、後半と接着して胴体を組んでゆく。後半は腹側に主脚の引き込み部があり、本来ならば上側3/4周分と引き込み部の土台で機首側とがっちり接着されるようになっているのだが、左右エアインテイクを除去した結果として接着面積が背側の幅1cmほどと腹の引き込み脚基部しか支えがなくなってしまい頼りないことこの上ない。とりあえず接触部を瞬着で固めて補強しつつ、空いた部分を埋めて強度を確保することにする。

VJ-101に準拠するなら胴体後半は細身になるはずなのだが、F-104の主脚を流用する都合で引き込みスペースの幅より細くすることはできないので、F-104の胴径に合わせて成形する方向で行くことにした。
超音速機は音速付近での抵抗を軽減するために主翼付近で胴体を絞って全体の断面積変化を抑える「エリアルール」を採用するものであるらしいが、結果としてはそれを無視した形状になってしまった。だがまあF-104自体がエリアルールをあまり考慮していなさそうな形状であったし、アレはあくまで音速付近での抵抗に関わるものであるためマッハ2超の音速機ではアフターバーナー等で強引に音速を超えてしまえばあまり関係なくなるという情報もあり、細かいことは気にしないことにしよう。

穴をパテで塞いで形を整える。中まで充填すると消費量が多くなりすぎるので、盛るのは表面のみに留めたい。しかし胴パーツを接着してしまった後では裏打ち材を貼るのが難しいため、プラ棒を寸断して詰め込むことで芯材とし、その上にパテを盛ることにした。尾部も同様に、まず中央へ構造材を接着し、そこに水平尾翼を取り付けた上でパテで塞ぐ。
芯材を入れて軽量化を図ってさえ、パテの重みは決して少なくない。機体を支える主脚は機体全長の中央に近い位置にあり、その先にはまだ4割ほどの長さが残っている。そこへ胴中央〜尾部にかけてパテを詰め込んだことで重心が主脚よりも後方に移動し、尻餅を搗くようになってしまった。
これでは展示に問題があるので、機首側の重みを増やすべく操縦席の隙間から錘代わりのパテを充填することで重量バランスを調整。

パテをやすっては盛り、胴をできる限り滑らかに仕上げてゆく。本当ならば胴体の完成後に脚を接着すべきだったのだろうが、形状を検討する都合もあって先に脚を接着してから胴体を成形したために、切削中にうっかり負荷をかけて脚を折損してしまった。前脚はそのまま紛失したため真鍮パイプとアルミパイプで作り直し、カットした丸棒にパテを盛ってタイヤを作る。また後脚もフレームに合わせて真鍮線を瞬着で貼り付けて補強。
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本体と平行してエンジンポッドも作ってゆく。F-8の機首と尾部をカットし、操縦席は不要なので上半分をさらにカット。これを2機一組で接着して隙間をパテで埋め、エンジンポッドの形を作る。
表面を整えたところで回転軸を通す3mmの穴を穿ったら、パテが割れてしまったので瞬着で接着して成型し直す羽目に。
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削り/埋めてしまったモールドはエッチングソーで彫り直してみた。スジ彫りテープを貼ったりしてはみたが曲線に沿って直線を貼るのは難しく、あまり綺麗に彫れたとは言えない。

本体に主翼を取り付ける。VJ-101に倣って高翼配置とするため、胴にピンバイスで穴を空けて翼の基部を差し込むためのスリットを作り、差し込んだ翼と胴との隙間をパテで塞いで固定。
エンジンポッドの回転軸を考慮するとF-104のカミソリ翼ではあまりに薄すぎるので、F-8の使わない主翼をカットして上下から貼り付けることで厚みの確保を試みた。翼形が異なるため全体を均一には覆えず翼断面がだいぶ謎なことになっているが、エンジンポッドのおかげで断面をはっきり確認できないのであまり気にしないことにしよう。結果としてF-104の台形翼ともVJ-101の後退翼とも異なる翼形になった。
それでも回転軸を貫通させるには厚みが不足するので、翼端に3mmプラパイプをカットして接着、基部をパテで滑らかに成形しておく。

脚以外の細かい部品を接着してゆく。主脚のハッチは、一度前方が開いて脚を出してから閉じるものらしい(それにしてはハッチ部品の曲面が胴と合わない)が、基部には油圧配管が覗き見えるため先にこれをざっと塗装してからハッチを閉じる必要がある。どうも航空機はそういうの多いな……

ほぼ形状が完成したので下色として全体をアルミシルバーで塗装してみたら、なんか「安いおもちゃの飛行機」感が出てしまった。エンジンポッドが翼端にあり細長いデザインも60年代特撮っぽさがある(実際に60年代の機体なわけだが)。塗装でどうにか実機ぽい雰囲気にできるのだろうか……
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とりあえず図面に色を重ねて配色を検討。付属デカール自衛隊とカナダ空軍の2種なのでそれを元にマーキングする前提で自衛隊っぽい塗装にしようかと思うが、架空機なので部分的には適当なカラーリングをでっち上げなければならない。
エンジンポッド先端はF-104のエアインテイク塗装に準拠して黒で塗り、赤矢印のコーションマークを貼る。F-104ならばショックコーン前方位置へに先端を前向きに貼られるところだが、本機の場合はそこへは貼りようがないのでエンジンポッド側面へ逆向きに貼ることになる。
箱絵を参考にマークを貼ってみると、のっぺりとしてオモチャ然とした雰囲気が俄に精密な雰囲気になる。細密デカールすごい。
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ただ、ハセガワのデカールは日の丸の白縁を「白丸の上に赤丸を重ねて貼る」形で再現するのが辛い。恐らくは隠蔽力と発色を優先しての仕様なのかとは思うが、位置決めに神経使うので一体化して欲しかった(実際にずれて貼り直した結果、破れて大変なことになってしまった)。またキットが古かったのかなんなのか、水に浸しても部分的に台紙から剥離しない箇所があり、色々と難儀した。

ともあれ、全体にマーキングを施してみると、(塗りやパテ成型痕の粗さに目を瞑れば)意外と「それっぽく」見えるものだ。
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