書字板を作る

本好きの下剋上」に、書字板ディプティクというアイテムが登場する。これは紙がまだ高価だった時代にメモ書きのために使われたもので、木枠に蝋を流し込み鉄筆で引っ掻いて字を書き、篦で削って消すことで何度も利用できるという代物である。
これを自作してみようかと思った。

とはいえ木枠を拵えるのはそれなりに面倒である。まあ角材を斜めに切って組み合わせ、裏から板を打ち付ければいいだけではあるのだが、サイズを合わせて板と縁材を切り出し、隙間ができないように組み合わせるのは結構大変そうだ。
第二部でマインが手に入れた最初の書字版は父ギュンターの手作りであったので、こちらを再現する場合は多少不恰好になってもそれらしさがあるかとは思うのだが、第三部でプランタン商会から納められたようなものを想定する場合は枠もかっちりとして飾りのあるようなものが欲しい。
そういうものは既製品で賄ってしまうのが宜しかろうということで、100均でポストカードサイズの額縁を買ってきた。
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硬質のスチロール樹脂で、木に似せた塗装が施されておりなかなかの雰囲気。
これを2つ合わせて止めるためのリングも購入する。事務用品でパンチした紙を通すリングでいいだろう。枠の厚みが1cmぐらいあるので、リングは径の大きな32mmを選んだ。

ドリルで中央と上下の3箇所に穴を開ける。このとき、閉じた状態ではリングが斜めに貫通することを考慮して縦長の穴になるように加工する。
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リングを通して閉じてみたところ。
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リングが少し大きいかと思っていたのだが、閉じた時の状態を見るとこれより小さなものでは無理そうだ。
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開いた状態ではこのように、左右の板は少し離れる。

さて、これは額なので枠だけである。そのままでは蝋を溜めることができないので、この裏側にガラス板を接着してしまおう。裏側からゼリー状瞬着を流し込んで隙間を固める。
これで表側は割合それっぽくなったのだが、閉じた状態では本の表紙にあたる裏側が丸見えなのはどうにも格好が付かない。それに、白い蝋を流した裏側が明るい色だと文字が読みにくいような気もする。
というわけでガラスの裏側を黒く塗り、端材で段差を埋め、その上から飾り紙を貼って表紙らしく見せる。
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ついでに鉄筆も用意した。ヨハンに発注したのは片側が鉄筆、もう片側が彫り跡を均すための篦になったもので、リングに引っ掛けておくためのクリップが付いたものということだったが、クリップはともかく鉄筆と篦がセットになったものを探さなくてはならない。幸いにしてパジコからそのようなものが販売されていた。

これにゼムクリップを加工してクリップを付ける。

最後に、枠内に蝋を流し込む。
蝋は100均でハンドクラフト用のものを買ってきた。予め小さく分割されて溶かしやすくできている。
最初これを並べて上からヒーターで温めようかと思ったのだが、枠がスチロールであるため溶けては困る。そこで(原作でやっているように)湯煎して流し込むことにする。
しかしこれが意外に大変な作業だった。平らにして液状の蝋を流し入れれば勝手に平滑になって固まるかと思ったら、流し込んだ時点で冷えて固まり凸凹になって、とても字が書けるような状態ではない。仕方ないのでこれを半田鏝で溶かしたり篦で削ったりしてなるべく平滑になるよう調整してゆく。
そうやって出来上がった状態がこれだ。
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さて、それでは早速字を刻んでみよう。
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えー……お判りだろうか。
面が平滑でないため直線的に描くのが難しく、それなりに力を入れて刻む必要があるため素早いメモには向かない。削った跡は決して視認性の高いものではなく、篦で均しても白い跡が残る。削り屑はポロポロと落ち、均してくっつけるのは難しい。
これは正直かなり使いにくい代物だと感じられた。蝋を平滑に鋳込む、あるいは鋳込んだ後で平滑になるよう削る技術や、松脂などを混ぜて軟粘性の蝋にするなどの改質ができればあるいは違ってくるかも知れないが。
お手軽に作るなら、蝋を使わずに粘土でも詰めた方が使い易そうだ。

「Dyptich」などをキーワードに海外の書字板制作動画などを見てみたところ、どうやら蜜蝋をベースにココナッツオイルを加えるなどして柔らかく調合しているようだ。
それでも決して書きやすくはなさそうだったが、うまくすればこの程度には書いたり消したりできるらしい。
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