女性専用車両に対する反対運動が度々話題になる。が、何を不服として反対しているのかがイマイチよくわからない。
何が不満で、どうなれば満足なのか。いや、反対側運動なのだから廃止を目的としているのだろうとは思うのだが、「なんのために」廃止したいのかが見えてこないのだ。
女性専用車両とは何なのか
古くは戦前から何度か「ご婦人専用車両」の導入例はあったが、それらは主に過度の混雑から弱者を保護する目的であったのに対し、近年の女性専用車両は(弱者保護の目的もあり、小学生以下の男の子や体の不自由な人とその介助者なども乗れるとアナウンスされているが)明らかに女性の痴漢被害対策という意味がある。
独自調査、痴漢検挙の82%が鉄道内だった! | 通勤電車 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準 では警視庁からの開示を受けてデータをまとめているが、これを見ると一般に痴漢としてイメージする行為のうち「体に触れる」については8割近くが電車内で発生していることがわかる。男性が(原則として)入らない空間を設けることは、接触性痴漢被害の発生しにくい状況を成立させるための簡便な手段として充分な効果が見込める方法と言えるだろう。
一方、「盗撮」についても駅構内で4割超と高いものの、こちらは階段・エスカレーターなどで狙われることも多いと思われ、単純な対策はなかなか難しい。それでも車両単位で分けると待機列も分かれることになるので、待っている間に盗撮されるようなことは少なくなるかも知れない。
上記のデータによると3年間での電車内被害総数は3262件、1年あたり平均1087件ということになる。
一方、痴漢に関する資料のまとめ - うさうさメモ によると「大規模都府県(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、大阪府、京都府、兵庫県のことだそうだ)警察において電車内の痴漢行為で検挙・送致された者」は1ヶ月のうちに219人にのぼり、7都府県に均等に分かれたとすれば31人ほどが検挙されたことになる。被害者数91人/月に対し31人の加害。
(なお同記事では女性の「被害にあった人数/届け出た人数」には10倍の開きがあるとも)
ともあれ、痴漢対策としての女性専用車両には充分な意義がありそうだ、ということはわかった。
女性専用車両の存在意義が確認されたところで、では反対意見について考えてみよう。
とはいっても私自身が反対派ではなく、反対派を身近に知ってもいないため想像を元に書いている。そのため当事者から見ると「それは違う」という部分もあろうかと思われ、その節はご指摘頂きたい。
男性すべてが犯罪者扱いのようで気分が悪い
女性専用車両は痴漢犯罪の発生を抑えるために男性を一律排除するというやり方を採った。見ようによっては「男性を犯罪者予備軍と見る」とも言える。そりゃ気を悪くもしようというものだ。
だがちょっと考えて欲しい。
- 痴漢はほとんど男性である
- 痴漢被害者はほとんど女性である
- 痴漢する男性と痴漢しない男性を分ける方法はない
という条件下で、痴漢被害を抑えるために取り得る方法は「女性と男性を分ける」以外になく、「男性が気を悪くする」と「女性が被害に遭う」とでどちらが深刻であるかを考えれば、最適解は自ずと明白になるはずだ。
女性専用車両は「男をすべて犯罪者扱いしている」のではなく「男と犯罪者を区別できないので被害者を守る方を優先する」ものに過ぎない。鉄道事業者にとって重要なのは被害を減らすことであって、犯罪者を見付け出すことではないのだ。
男性専用車両も用意されるべき
女性専用があるなら男性専用もあるべき、という平等論。そもそも女性専用車両がなんのために登場したのかを考えていない発言と言える。
女性専用車両は女性を優遇するサービスではなく、被害を抑制するための保護策である。被害が(0とは言わぬとしても対策を要するほどでは)ない男性を満足させるためだけにサービスとして男性専用車両を設けるべき理由がない。
これについては反論として女性から男性への「痴漢冤罪」が挙げられることがあるが、対策を要するほどに件数があるのだろうか。
痴漢冤罪数あるいは冤罪率を明らかにするデータがないのでなんとも言えないが、前述の 痴漢に関する資料のまとめ - うさうさメモ には「裁判で冤罪を主張した事例」は年間200件ほど、実際に無罪となった事例は(痴漢冤罪が話題となった2000年の事例で)8件とある。
同じ資料から大規模都府県の検挙数で考えると、年間2500人ほど(各県で360人程度)が検挙され、うち8%ほど(県あたり30人弱)が事実を争い、そのうち4%ほど(県あたり1人程度)が冤罪と認められたということになる。
都内の年間痴漢被害数が1000を越えるところ、冤罪数が1ぐらい、ということは「痴漢被害抑制のためには女性専用車両を導入するが、痴漢冤罪被害抑制のために男性専用車両を導入しない」という鉄道会社の判断はおよそ理性的であろう。
男は死ぬほどの混雑を我慢しているのに
そもそも通勤ラッシュ時の死ぬような混雑自体が問題なのであって、その責は鉄道事業者よりも同じ時間帯に一斉出勤を求める企業側にあるのではないかと思うが、それはさておき「女性専用車両は快適」なのかどうか。
これについては「女性専用車両の乗車率」自体がデータとして見当らないのではっきりしたことは言えないが、一例として横浜市営地下鉄の女性専用車両乗車率についての証言を。
女性専用車両の利用状況ってどんな感じ?[はまれぽ.com]
これによると2012年時点で「現在では区間により多少乗車率に開きはあるものの平均で130%になっています。一般車両のラッシュ時の平均乗車率が125%なので、一般車両よりは女性専用車両のほうが混んでいるという状況」と、大きな差はないものの女性専用車両の方が若干混雑しており、少なくとも「女性専用車両だけが空いていて快適」とは言えないことがわかる。
男性だって乗っていい
「男が女性専用車両に乗ってはならない法的根拠はない」「同じ運賃を払っているのに男だけ乗れないのはおかしい」
これらは典型的な論点ずらしである。一見すると男性の被る不平等を訴えているようにも思えるが、女性専用車両に乗れないことで受ける具体的な不利益については示されない。
実際のところ、真の意図は不利益の是正などではなく「女性専用車両の実質的な無効化」なのだと思われる。気に食わない理由は別にあり、しかしそれをストレートに開陳すつことは憚られるために「不当な運用である」ことを訴え存在を有耶無耶にしてしまいたい、という行動であろう。
なお法的には、女性専用車両の目的を考えれば男性の乗車を拒むことには充分な正当性があり、私人である鉄道事業者の裁量範囲と認められるとの判例もある。
女性専用車両の違法性を否定した事例(消費者問題の判例集)_国民生活センター
また運賃については「同じだけ払っている」ことを根拠に等しい権利を主張するならば逆に子供料金や障害者割引など運賃の割引を受けた人は権利が制限されることになってしまうが、無論そんなことはない。いずれにせよそこは鉄道事業者の裁量範囲であり、「不服があるなら利用するな」ということになる。
悪意
これは当初すっかり失念していた……というか、意義を考える上では完全に想定外だったのだが、どうやら批判などではなく「純然たる悪意に基づく」嫌がらせのケースを想定しなければならないらしい。つまり「女性を/(女性に便宜を図る)事業者を困らせる」こと自体が目的であるというパターン。
上記判例でも、「健常な成人男性も乗車することができる旨をあえて掲示せず」とあり、法的には「女性専用車両には実は男性も乗れる」ことが否定されているわけではない、という辺りを根拠に強行しているようなのだが、しかし嫌がらせ目的である時点で営業妨害には問えるわけで……
普通に考えて、悪意に基づいて行動することに賛意が得られるとは思えないのだが、どうも彼らの中では「男性も乗れる」ことを周知すれば当然みんな乗るようになり女性専用は有名無実化するのだ、という理論があるらしい。