マスコミと圧力

先日明るみに出た三重県伊賀市の公金横領と在日韓国/朝鮮人に対する減税措置の件で、「マスコミはこれを知りながら圧力/抗議を恐れて報道しなかった」というような話が出ているようだ。それでちょっと疑問に思ったのだが、マスコミに対する圧力というのはどの程度の実効性を持つものなのだろうか。


マスコミというのはそれ自体が一つの権力である。大きな社会的影響力を持ち、情報の出し方ひとつで大企業や大物政治家の立場さえ揺るがしかねない。従って、それへの圧力というのは諸刃の剣と言える。圧力をかけるということは、それを公開されては都合が悪いのだという事実を相手に知らしめることでもある。生半可なことでは逆に自身が弱みを握られるだけだ。
「下手なことを書くと内部の情報源との関係が悪化して困る」ということはあるのかも知れない。けれど、それは主にマスコミと情報源(あるいは取材対象)とが良好な関係にある場合だけだ。関係悪化も辞さない状態ならば自粛の理由はないし、情報源がむしろ所属組織へのダメージを望む場合だってあるだろう。
また、マスコミの権力というのは要するに自身が発する情報の信頼性によって成立している。従って事実を歪曲または隠蔽するというのは権力基盤を自ら弱める行為であり、よほどの事情がなければ要求を呑むとも思えない。
以上を踏まえると、マスコミに対し圧力をかけて報道を握り潰すというのはかなり困難ではないかと思えてくる。


フィクションとしては「上層部を通してさる筋から圧力がかかった」などという話も聞くが、これ内部的には本当にあることなんだろうか。事が事だけに信頼できるソースの提示も困難な話だとは思うが、それだけに私としては実在を疑っている。デスク判断で公開を差し止めた記事などは存在するかも知れない、けれどそれは圧力によるものではなく単に「事実誤認の可能性」または「証拠不十分」だったのではないだろうか。


ただし、組織としてのマスコミとは別に、それなりの地位にいる一部個人が弱みを握られており、脅されるがままに情報を操作する可能性は否定しない。これは「マスコミへの圧力」とはちょっと事情が異なるけれども。


実際の外圧ではなく同調圧力による自粛ムードがあるというのは理解する。しかし、それはマスメディアが最も避けるべき状態なんじゃないかと思うわけだ。上で書いた通り、攻撃を恐れての情報差し止め/歪曲は自身の存在価値を弱体化させる悪手でしかないから。
実際のところ、そんな論理的判断人は動かないという現実も知ってはいるつもりだけれど、それはそれとして「その判断を下すべきではない」という結論に変わりはなく、またそんな単純なことも理解できないような人間が責任者になれるものだろうか、なれるとしたら会社として存続が危ういのではないかと……