「情報リテラシー」のコツ

情報リテラシー:情報を、「探し出し」「分析・理解し」「利用する」能力。
本来ならば情報源たるマスメディアが持っていなければならぬものなのだが、今や偏向報道、煽り記事が当たり前で新聞やニュースと雖もさっぱり信用ならない。
だからこそ一人ひとりが情報の「確からしさ」を見分けなければならないのだが、残念ながら明らかなデマさえも何の検証もなく流布しており、正しい情報が数的にデマで埋められている状況だ。
人間、センセーショナルな煽り文句を見るとつい頭に血が昇って冷静な判断力を失ってしまう。とりわけそのデマが自分の信じたいものと一致していると無批判に鵜呑みにしがちなわけだが、それこそデマ広めたい連中の思う壺なので、きちんと情報の信頼性確認を行なう癖を付けたい。

検索

検索技術については割愛。

分析

集めた情報は、そのままでは玉石混淆で使いものにならない。この中から石を捨て玉だけを拾い上げる必要がある。
まずは、情報を「事実と確認できるもの」「事実かどうか確認不能なもの」「事実に基づく推測」「根拠の不確かな憶測」「個人の価値判断」に分離してゆく。


たとえば先日可決されたばかりでなにかと話題の「子ども手当」を例に挙げよう。
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100329/plt1003291201000-n2.htm
この記事はそもそも掲載媒体がかなりゴシップ寄りであり、信頼できる情報源として挙げるには些か難があるが、はてなブックマークでは掲載時点で400近いブックマークを集め、コメントも大半が記事内容に賛意を示すものになっている(→http://b.hatena.ne.jp/entry/www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20100329/plt1003291201000-n2.htm)
では、以下に情報を分離しながら信頼性を検証してゆく。


まず、この中で確認可能な事実に分類できるのは以下の点。

  • 在日外国人も含む15歳以下の子どもの保護者に、子ども1人あたり毎月1万3000円を支給する「子ども手当て」が26日、国会で成立した
  • 東京都荒川区は人口約20万人のうち、1万5000人が外国人居住者(2009年3月1日現在)。人口の実に約7%を占める。
  • 「海外に子どもがいるなら、現地の銀行の発行した送金通知書などが証明書代わりとなります。ただ、書式が決まっていないので、いくらでも偽造が可能。手渡しで受給する場合はもっとザルで、『国に帰る友人に書類を預けた』と言って、友人のパスポートの出入国記録を見せても、通ってしまう。本当に子どものために使われているのかなんて調べようがありません」(川口市職員)

まあ3つ目のは匿名の証言に過ぎないので信頼性にはやや疑問が残るものの、実務を担当している市役所の職員であるとすれば概ね事実なのだろう(少なくとも標記上は「市職員」なので業務上まったく無関係の可能性も否定できない)し、実際に窓口で質問すれば確認は可能だ。
逆に言えば、これ以外の情報はすべて伝聞であったり憶測であったりして、信頼性がない。


では、事実に基づく推測について考えよう。
実はこの記事では事実に基づいた情報がなにもない。というか、事実が僅かに3つしかないのだから推測の立てようもないと言うべきか。この記事が如何に信頼できないか、この点だけでも解る。


「事実かどうか不確かなもの」と「根拠の不確かな憶測」はこの記事の大半を占める。というか、不確かな情報を事実であるかのように掲載し、それを元にした憶測を結論としている……というべきか。
勿論、不確かであることが即ち間違いであるということにはならない。根拠が示されていないだけで事実であるかも知れない。次にそのあたりを検証しよう。
記事中での不確かな情報は概ね「外国人が児童手当及び子ども手当の受給申請に殺到している」「日本語の通じない人もいるなど、窓口が対応で混乱している」ぐらいのものだ。これが事実かどうかは実際に市役所に行って調査するしかなくWebで確認可能な範囲ではないし、そもそも「殺到」「混乱」などに明確な定義がない以上、その判断は「個人の価値判断」の域を出るものではなく、客観的情報とは言えない。
ひとまず事実の確認は後回しにして、「仮に事実だとしたら」という条件付きの推測をしてみよう。
「在日外国人が申請に訪れている」という情報から推測されるのは次の通り。

  • 税金が外国人に払われる

これは間違いない。そもそも受給者の国籍を問わない(国内定住者に限られるが)法なので、勿論我々の税金は外国人にも払われる。推測もなにも、法の文面という確認可能な事実に沿った、事実に基づく推測だ。
これだけだと他に何も言えないので、「殺到」「混乱」あたりの定義を仮定して、憶測を追加してみよう。
「在日外国人が日本人よりも多く受給申請に訪れている」だとどうか。
正直なところ、この仮定は多分正しくない。荒川区の例でも人口の7%に過ぎない外国人の全員が受給対象者ということは多分ないし、仮にそうであっても日本人の受給対象者がそれを下回るとは考えられないからだ。そこで更に条件を追加する。
「今年になってから、在日外国人が日本人よりも多く受給申請に訪れている」
時期を限定したことで、漸くこれが事実である可能性が出てきた。短期間に多く訪れるという点で、「殺到」とも合致する。
すると、ここから次の疑問が導かれる:「何故これまで生じなかった『殺到』が発生したのか」。
合理的な仮説は次の2つ。

  1. 今まで受給対象でなかった在日外国人が新たに受給対象に含まれたから
  2. 今まで在日外国人に、彼らが受給対象であることが知られていなかったから

これは子ども手当法の前に施行されていた「児童手当」を調べればわかることだが、実は児童手当と子ども手当で受給対象者の範囲にはほとんど違いがない。実質的な違いは、「子供の年齢が12歳まで→15歳までに引き上げられた」「所得制限が撤廃されたので金持ちにも支払われる」の2点だけで、在日外国人への支給や海外の子供を対象とした親への支給なども児童手当の頃からまったく変わっていないのだ。
ということは、1ではあり得ないので、2である可能性が高いことになる。


もし2が正しいのだとすれば(これ自体が仮定から導かれた結論であることを忘れてはならない)この記事の印象はまったく異なったものになる。一見して受ける論調は「与党の無茶苦茶な法案成立に振り回される自治体の悲劇」のようなものだと思うが、「殺到」が単に今まで受給できるのにそれを知らなかった人たちによって起きているのであれば、逆に「それを周知すべき自治体は何をやっていたのか」ということにならないか。正当な権利を有しているのに、自治体がその権利の存在を知らせなかったが為に行使する機会を逸していたのだ。


憶測ついでに、書かれていないことから想像される「読み手側からの憶測」も書いておこう。
この記事では、「外国人が大勢受給しに来ている」ということの説明に紙面の大半を費している。また数少ない事実は「在日外国人にも受給資格がある」「海外に子供がいるかのように偽ることが可能」であることを挙げている。このことから、記事の論旨が「外国人に税金が使われる」「税金が騙し取られる」であるかのような印象を受ける。
にも関らず、結論は単に「窓口は混乱必至」のみで、紙面の多くを割いて説明してきたことには触れていない。これが狙ってのことであるならば悪質な印象操作をしながらはっきりデマと断言できる内容を避けることで責任逃れをしていることになるし、わざとでないならこの記事を書いた記者もこれの掲載を許したデスクもとんだ間抜けということになる。


さて、最後に「個人の価値判断」の話を少し。
事実そのものには個人の価値判断の入りようがない。が、そこからの推測には必ず価値判断が混入してくる。上の例でも、「外国人にも支払われる」という単なる事実の影に、どうしても「それが気に入らない」のような価値判断が潜む。
単なる好き嫌いの問題だが、これがしばしば善悪という言葉で、さも万人の認める事実であるかのように語られることがあるので注意。「外国人にも払われる」=「だから悪」ということにはならない。人によっては「だから善」と言うだろう。この辺りを見誤って、唯の価値判断を事実と誤認すると、結論が歪められてしまう。「あいつは悪いやつだ」→「だから殺していい」みたいになりかねない。
自分がどう思うかと、それが事実かどうかをきちんと分けて考えること。これが一番大事なこと。