国籍法改正と参政権問題を計算する

国籍法の改正案について、改悪として反対する運動は概ね沈静化しつつあるようだ。何しろ主要な論拠がhttp://blogs.yahoo.co.jp/isikeriasobi/55815187.htmlあたりで論破されてしまっているわけで、心配すべきことは何もないように思われる。
が、これについて「参政権に触れていない時点でアウト」との謂いがあったので検証してみたい。


まず、あまりに簡潔に過ぎて元の主張がよく判らない感じはあるのだが、国籍法"改悪"議論の方向性を鑑みるに参政権の問題とは恐らく「日本人以外が政治に干渉できる」ことを指すのではないかと思われる。まあ用語からすれば今回のそれは「外国人に参政権を与える」のではなく「日本人になったので参政権が与えられる」のでそもそも間違ってはいるのだが、突き詰めれば「日本以外の国益を優先するような法案が通ってしまうのではないか」という不安であると理解しよう。
さて、選挙でこれを通すということは要するに

  1. 外国の"手先"が政治家を抱き込んで法案を通すよう工作する
  2. 日本国籍を取得した「元外国人」が政治家となり、出身国に都合の良い法案を通そうとする

のいずれかであると思われる。
このうち1は国籍法の改正に何ら無関係に実行可能なので、ここでは2の可能性のみを検証したい。


政治家になるということは、まず選挙で一定数以上の票を集める必要があるということだ。国政に影響を与えるのだから当然国会議員ということになる。では国会議員になるためには何票必要なのだろうか。
http://www.election.co.jp/database/2007/0729.htmlに2007年参院選選挙に於ける当選者の最低得票数ランキングがある。これによると高知県での166220票が当選者のうち最低得票である。ということは比較的得票数が少ない地域でも17万票ほどが必要になるということだ。これは参院選であって、より影響力があり注目を集めるであろう衆院選ならもっとハードルは高いかも知れない*1。ひとまず20万票を目標とすることにしよう。
さしあたり、票の買収による当選可能性については無視して、これらを改正国籍法を悪用して賄うと考えると20万人の「認知」が必要となる。
これにはどれぐらいのコストが必要だろうか。


まずは謝礼を払って虚偽認知してもらう方法。こういうことの相場というのはよく判らないが*2、虚偽認知がバレた時の罰則は懲役1年または20万以下の罰金だそうだ(刑法の常として懲役と罰金が量的に酷く乖離しているような気がするが)。ひとまず罰金を賄うぐらいの金額は必要だろうから一人あたま20万とすると全部で400億円が必要となる。
「法案を通すためのコスト」ではなく「一人を当選させるためのコスト」でこの量。議会内に一人では何の工作もできはしないし、選挙資金なども考えねばならないわけだから実際にはこの数倍〜数十倍が必要だろう。2000億〜1兆円ぐらいか。それだけあるなら政治家抱き込みの方が遥かにてっとり早い。
それに、一度に1選挙区だけ20万人も増加したらどう見ても怪し過ぎる。全体に散らし、少しづつ「潜入」させる必要があるだろうが、そうすると毎日一人づつ送り続けるとしても300年かかる計算だ。なんと気の長い陰謀だろう。
まあこれほど長期の計画だと日本で家庭を持ち子を為して行くだろうから人数自体はもう少し低コストに増やせるのかも知れない、がスリーパー*3当人はまだしもその配偶者や子孫までが工作に協力する可能性は決して高くない。


なお、実際に妊娠し認知させる方法については現行法でも可能なので改正反対の根拠にはならない。


以上、参政権問題が国籍法改正反対の根拠とはならないことがご理解頂けただろうか。



反論が来た、がいくらなんでも読めてなさすぎる。「できるけど現実的じゃない」って話に「できるから大問題」と返してどうするんだ。
虚偽認知についても「一人分バレても100人分バレても罪は同じ」そうじゃなくて100人分もまとめて申請したら一発でバレて100人分差し止められるから意味ないし、100人分まとめてもコストが1/100になるわけじゃない。
まあ「売国奴」とか言っちゃう人にまともな論者のいたためしはないので、この話はこれまで。

*1:衆院選の最低得票の方が低いとの指摘。なるほど参院選は半数入れ替えだから候補者一人あたりの有権者数はむしろ多いのか

*2:真偽は不明だがhttp://www.gekiura.com/pickup/pu043.htmlに拠れば1年間の偽装結婚で50万ぐらいが相場のようだ

*3:長期間に渡り潜入し潜伏する工作員