TRPGという特異な遊びの大きな特徴として「非対称な複数のプレイヤーによるゲーム」という点が挙げられる。大きな権限を持つ「ゲームマスタ」が達成すべき目標と排除すべき障害を設定し、他のプレイヤーはそれを探りながら目的達成の道を模索する。
多くの場合ではプレイヤー同士は協力関係にあるが、それは必ずしも必須要素ではない。ただ、ゲームマスタはどんなシステムでも必須とされてきた*1。
よく言われることだが、ゲームマスタは低次のゲームデザイナである。アルゴリズムだけが実装されて初期状態/目標/障害が定義されていないツールを用いてひとつのゲームを制作運用するのがゲームマスタの任務であり、その労力は重い。
ある意味では、ゲームマスタの存在(を必須とする構造)こそがTRPG市場を狭める要因なのではないかとさえ思える。
これは本当に、TRPGの必須要素なのだろうか。
RPGの定義にも拠るのだが、実際にはプレイヤー側から見ると「障害を排除し目標を達成する」という要素については必ずしもゲームマスタを必要としない設計が可能である。実際に、協調型ボードゲームなどが実践しているし、TRPGとして設計されたものの中にもそれに近い構造のものが存在した:MAGIUSスレイヤーズ「だんぢょん大作戦!」がそれである。
このゲームはダンジョンに侵入し宝を持ち帰るというオーソドクスなテーマを取り扱うが、ダンジョンはトランプによるランダム生成であった。スートごとに「部屋」「通路」などが規定され、数字によってイヴェントが定義されている。プレイヤーには明かされない情報も含まれているためゲームマスタ不在の設計にはなっていないが、これはちょっとした改変でクリアし得る。
ただ、これはむしろ「極めてボードゲーム寄りなTRPG」という変種であり、この例を以て単純に「TRPGにはゲームマスタ不要」との結論を導けるものではない。
多分に主観的なものではあるが、恐らくこうした「限定シナリオ自動生成型RPG」を作っても、プレイヤーはそれをRPGと認識しないのではないかと思う。構造的にゲームマスタ不在に違和感を覚えるからかも知れないし、生成されたものをTRPGシナリオと認めないということかも知れない。
プレイヤーがゲームマスタという存在に要求/期待するものは何だろうか。それはどうしても自動化できない性質ものだろうか。
ツールの精度を高めることで、ドラマティックなシナリオを自動生成したりサプライズを演出したりといったことは不可能ではないかも知れない。しかしそれは、システムデザイナがシナリオまですべてデザインしておくということと大差ない。そのツールから吐き出されるシナリオには限界があるし、その限界に比して制作の労力は格段に高まる。とてもじゃないが、今の市場規模はそのようなシステムの存在を許容できそうにない。
それよりは、現状のように労力(それは楽しみでもあるのだが)の一部をユーザに委ねる方がベターだろうと思われる。
ただ、可能な範囲でゲームマスタの労力を軽減する模索は為されて良いだろう。シナリオ集などのサプリメントやハンドアウトなどセッション運営を容易化するツール、またシナリオ生成を容易化する迷宮キングダムのような試みなど、この方面はまだまだ発展途上である。
*1:単に私が知らないだけという可能性を否定するものではないが、存在するとしても無名な実験作に留まるのではないかと思われる