TRPGをプレゼンしてみる:Far Roads to Lord

ローズ・トゥ・ロードは国産最古のファンタジーRPGであり、Farはそのシリーズ3作目にあたる。
このシリーズの特徴は「世界設定の比重の高さ」及び「世界設定とシステムの融和」にある。初期作品からルールブックとワールドガイドの分量がほぼ等しく、独自言語や神話の設定があるなど「指輪物語」に比肩し得る深さを持った世界であったが、Farではとうとうルール・ワールドガイド・データの3冊組となり、事実上世界設定がルールを上回った。この傾向は続くサプリメントによって更に強化されてゆく。


Farのひとつの特徴はランダムチャートの多さにある。最近では冒険企画局作品などを中心に珍しくない構成だが、1993年当時としてはキャラクター作成時の出自決定から成長過程、プレイ中の散策などまでランダムチャートを活用する構成はかなり珍しいものだった。
こうしたランダム性はややもすればセッションを滅茶苦茶に掻き回しがちではあるが、Farに於いてはむしろそれらが「数奇な運命に翻弄される」形で働いているように思われる。
とはいえ「掻き回されない」わけではない。Farでは能力値よりも「感情」の方がむしろ重要視されており、様々な状況で10種類(!)の感情が上下するのだが、これが上限値を上回れば「激情」となり、逆に0になれば無情となる。過去のセッションでは愛しさの激情により妻を娶り哀れみの激情により養子を迎えたPCなどの事例もあった。


前作であるBeyond Roads to Lordもそうだったが、ゲームシステムというよりは多分に実験的な「可能性を秘めた試作ツール」的な感が強い。数値的なバランスを取ろうという努力は当初から為されず、従って他のゲームのように「最後に戦闘で締める」といった方法はあまりお勧めできない。そもそも戦闘を問題解決手段の要と見做していない感がある。
では何をすれば良いか。ひとつの試みとして、サプリメント「剣と魔法」では、事件を「魔法的な歪み」と見做し、これを「調律」するという解決方法を提案している。
ローズシリーズでは、Beから「マジックイメージ」というカードが導入された。これは魔法をより幻想的に処理するための仕組みで、「リストから選んで効果を適用する」などという技術手段的なものではなく「イメージの断片を繋げて魔法を組み立てる」というもので、例えば大地の力であり防御的な力の源たる「真の赤」を核に呪縛を意味する「鎖」や不動を意味する「山」などを組み合わせて扉を封印したり、あるいは風の力である「真の紫」に移動を意味する「鳥」を組み合わせて飛行の魔法を生み出したり、ユーザのイマジネーションに任せた自由で幻想的な魔法システムなのだが、一方でプレイヤー間でイマジネーションの共有が図られないと魔法が巧く機能しない面もあった。
「調律の魔法」はこの仕組みを流用し、事件を表す歪みを一連のイメージの組み合わせとして提示、プレイヤーは各々これを打ち消す逆位相のイメージを捜したり別のイメージを撃ち込んでひとつの魔法として「昇華」させるなどして歪みを開放するというものだった。
これ自体は単なる提案のひとつに過ぎないが戦闘を伴わない問題解決手段を提供したという点ではなかなかに画期的であり、「幽霊を退治する」というシナリオに於いてプレイヤー提案により幽霊をひとつの魔法的歪みと見做し「成仏させる」という解決を見た時などは感動を憶えたものである。


Farは未完成のツールという感の強かったBeを調整し「遊び易さ」の方向に振ったものであったが、その分だけイマジネーション刺激力を落とした感は否めない。しかし、その部分をサプリメントによって見事に補い発展させた点は驚嘆に値する。
前述のサプリメント「剣と魔法」では調律の魔法だけでなく、タイトル通り剣術及び魔術を中心にシステムを膨らませている。剣術をもある種の魔法として捉え、マジックイメージの組み合わせによる奥義をサポート。また魔法についても同様に儀式的魔法の流派を提示してみせた。
更にシナリオ集にして都市地域サプリメント「月歌物語」、生物及び強大なる魔族の設定データ集「ユルセルーム博物誌」と世界設定部を拡充、ゲーム以前に読み物として魅力ある設定資料としての存在感を増した。


正直なところ「遊び易い」ゲームではない。世界設定が厚いということは、裏を返せばユーザ間でその厚い世界設定を共有せねばならぬということだ。GMが筆舌を尽くして説明するにせよプレイヤー各自に読ませるにせよ、相応の負担はある。また共同幻想に依る部分が極めて多いために深いレヴェルで認識を共有できないと面白みが薄まってしまう。
ただ、その苦労に見合う高揚が得られるゲームでもあると思う。共同幻想は正しく発動した時の効果が極めて大きく、それを得るためには膨大な情報が必要になる。
ライトノベル的な軽いノリの所謂「ファンタジー」ではなく、「幻想文学」的な物語がお好きならば、是非体験して戴きたい。


大変残念ながら、もう20年近く前の作品であり今更入手はほぼ絶望的である。しかし近年でもローズ・トゥ・ロードシリーズは発展を続けている。最新作W-Roadsに至っては、言葉を繋いで物語を紡ぐ、もはやTRPGの概念に収まらないような境地に到達してしまった。
既成概念に収まらないゲームであるから他ゲームの経験が活かし難くプレイは決して簡単ではないが、その苦労に見合うだけの経験が得られるだろうことだけは保障する。是非、幻想に浸って戴きたい。