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打ち切りと自己出版とロック付き電書アプリ

書物

DeNAWebコミック配信サイト「マンガボックス」にて連載中だった漫画「境界のないセカイ」が、講談社による単行本販売が行なわれないことになり、収益が見込めないため打ち切られたという。打ち切りの経緯が(作者の説明に拠れば)かなり無茶苦茶であるために講談社に対する非難が巻き起こったが、これに関してはひとまず措こう。外野が何を言ったところでそうそう覆るものではないし、仮に覆ったとして作者が気持ち良く連載を続けられるかも疑問だ。いずれにせよ、そう決まってしまったものは仕方がない。
作品の権利がどのようになっているのかはよくわからない。出版しないことを決めた以上は出版権ともども引き上げられ、以降は作者の自由にできるのだろうか。だとすれば道は2つ、ひとつは他にこの作品を掲載し/単行本販売してくれる出版社を見付けること、もうひとつは自費出版の道だ。
前者は我々には如何ともし難い話なので、後者の話について考えてみよう。

自己出版のかたち

当該作品は既に16話分、およそ単行本2冊相当が描き上がっている。作者の制作環境については知らないが、連載終了のお知らせ画像などを見てもデジタルでの作画を行なっているであろうことは伺えるし、Web掲載を前提に描かれた作品であるから恐らく写植まで一括で処理済みなのではないかと考えるに、ほぼそのまま出版が可能な状態が想像される。
問題は印刷コストだ。たとえば製本直送.com / 料金表でA5サイズ表紙カラー+本文モノクロ200ページ程度で見積もると1冊あたり1,306 円となった。もちろんこれはあくまで原価であり、この価格で販売できるわけではない:常識的には2〜3倍は付けないと著者や販売店の収入が0になってしまう。
まあこれは小部数向けオンデマンドでの見積りなので、オフセットでそれなりの部数出せるのであればまた違ってはくるだろうが、なんにしても市販のコミックに比べかなり割高になるだろうことは間違いないし、正規の出版社と違い通常の販路に乗せられない場合どうしても販売可能部数は小さくなる。あらゆる条件を鑑みて、印刷による自費出版はかなり分が悪い。

しかし、いっそ電子書籍ならば製本コストの問題はほとんど考えなくて良くなる。KDPで自己出版するのだとしたら、直接的なコストは1MBあたり1円のダウンロードコストと30%のAmazon手数料だけだ。同著者の過去作品は電子版でだいたい1000円ぐらいで販売されていたようなので、同額で設定するとして1冊あたり620円の収益。800円での販売なら480円、600円なら360円だ。通常の印税ならば10%あるかないか、定価が1000円でも100円にしかならないわけで、単純に行って本来の見込みより1/5しか売れなかったとしても同程度の収入が見込める。

とはいえ売れ行きの見積りが難しいというのは結構な不安要素だ。また同作品は完結しておらず、今後1巻分で完結を見込むのだとしても8話程度の連載あるいは描き下ろしが必要になる。当然ながら、その間の収入をどうするかという問題が付き纏う。
ならば、クラウドファンディングを利用してみるのはどうだろうか。

クラウドファンディングによる出版プロジェクト

漫画に特化したクラウドファンディングとしては絶版マンガ図書館の「Jコミファンディング」や未完結漫画の完結プロジェクトなどを行なっている「MANGA ARTS」などがある。たとえば完成電子書籍1話分の閲覧権を販売、1話稿料相当が集まったら1話分を掲載……といったスタイルで運用するというのは割と現実的に可能なのではないだろうか。賛同が充分に集まれば、それこそ自費印刷による出版すら視野に入るし、そうでなくとも電子出版までは可能だろう。

ロック付きの電書アプリを提供しているのは

ところで今回打ち切りになった作品の前に、作者は同様の設定で成年コミックを描いている。単行本のタイトルは「性転換教室」と随分異なるものの、収録作品名は「境目のない世界」と、本作にかなり近い。
応援的な意味もあるが「性を自由に決定できるようになった社会」というSF設定にも興味があったので、せめてこちらを買っておこうかと思ったのだが、ひとつ問題が。
我が家では蔵書の大半について電子化を進めており、基本的に単一のアカウントで購入した書籍を複数の端末によって家族で閲覧している。つまり、普通にその流れで買ってしまうと子供にも成年コミックが閲覧可能な状態で渡ってしまうわけだ。別に私がそれを読むことについて疚しさはないが、だからといって見せてよいわけでもない。
これに限ったことではないのだが、書籍というのはそれなりにプライヴァシーの高いコレクションであるわけで、閲覧範囲を切り分けて管理したいとう欲求は少なからず存在するのではないかと思う。しかしほとんどの電書サーヴィスでは、そのような機能を持ったアプリを提供していない。
いくつか調べた中で、成年向け電書を販売しており、かつパスワードロックによる一部コレクションの閲覧制限機能を有するアプリを提供しているのはコミックシーモアだけのようだ。ただし同サーヴィスでは「性転換教室」を取り扱っていなかったため、今回の目的には合致しなかった。
ヨドバシカメラがDolyという電子書籍サービスを開始した。専用アプリには「プライベートモード」があり、有効にすると一部書籍をアプリ上に表示しなくなる。解除にはパスコードが必要。
このアプリはシャープのGALAPAGOSベースだと聞いたので調べてみたら、そちらにもシークレットモードが存在した。