立ち読み書店と通販のビジネスモデル案

Twitterで呟いてた話なのだけれど、もうちょっと纏めておくべきかと思ってこっちに書いてみる。

電子書籍の情報量

kindleiPadにより、漸く電子書籍市場がまともに成立する感じになってきた。電子書籍は検索性や空間占有量などの点で優位性があるので、いずれ紙書籍に取って変わるだろうと考えられている。けれども、すぐにその未来が訪れることはなさそうだ:何故なら、今のところ電子書籍は視認性の点で紙に叶わないから。
一般的な印刷物は普通、解像度350dpiで作られている。つまり1インチあたり350ドットだ。対してkindleにせよiPadにせよ、解像度は150dpi前後。距離あたりの密度が1/2ということは面積あたりで1/4ということ。実際には1/2より低いから、面積あたり情報量は1/5以下といったところだ。
実用化されている高密度液晶では300dpiを越えるものもあるから、この辺りはいずれ改善されるだろうと思われる。もっとも350dpiはカラー印刷の網点の密度であって、文字など基本オブジェクトは大体1200dpiぐらいに相当するらしいのだが、これに関しては現行のPC用ディスプレイ程度の解像度でも充分に印刷物と同程度サイズの文字が読めるわけだから、アンチエイリアス技術でスペック以上の解像度相当に補うことは可能なのだろう。


印刷物と電子書籍は良くも悪くも色々違って、例えばディスプレイの表示ではメタリック印刷やエンボス、紙の質感などは出しようがない。精々、画像として擬似的に表す程度だ。その代わり電子書籍ならば、印刷と違って動きを与えるようなこともできる。この辺は一長一短で、電子書籍が一般的になったとしても印刷書籍の需要がすぐになくなるようなことはないだろう。
要するに紙書籍には電子書籍では補えないだけの情報量というものがあり、それは本来的な役割であるコンテンツの情報のみに留まらないということ。

書店の情報量

今や書籍の大半はAmazonで購入、という向きも少なくないかと思う。自宅や職場の近辺に品揃えの良い書店があるという恵まれた環境でもない限りは、下手に店を回るよりもワンストップで欲しいものが全部揃うAmazonの方が何かと便利だ。
それでも、機会があれば書店を回って新刊を確認するという人も決して少なくはない。Amazonでもおすすめ機能により「発売に気付かなかった」商品を知ることはできるが、残念ながらその精度は決して高いとは言えない。特にマイナ商品の場合、サンプル数が少なすぎて精度が出ない問題がある。


そもそも、一覧性に於いてWebは実店舗に決して敵わない。ひとつの書棚で数百数千の背表紙を一度に目にできるということ。人間の峻別力というのは大したもので、それをざっと流し見ただけでもセンサーに引っ掛かる作品を瞬時に選り分けることができる。そして手に取ってみれば、装丁の情報密度から大体面白い本かそうでないかを見分けられる。中身が見えなくても、タイトルと表紙だけで好みに合致するかどうかを嗅ぎ分ける……この方法で外れることは経験上ほとんどない。

書店の今後

今のところ電子書籍が劣勢にあるとは言え、いずれその勢力が逆転するだろうことは目に見えている。書籍流通に関しては既に通販が完全に実店舗を凌いでいる。
そんな中で、紙書籍と実店舗はどう生き残ってゆくべきなのか。
私としては、こんなスタイルを提案したい。


まず、店舗に無料のWi-Fiスポットを設置する。これは店に人を集める目的と共に、その場からの通信販売利用を助けるものでもある。
書籍にはそれぞれ、QRコード電子書籍の(あるいはAmazonのでもいいのだが)販売ページのURLが貼付される。客は気に入った本のコードを読んで、その場で購入することができる。この時、アクセスポイントの情報を取得することで販売店舗を特定、売り上げの一部が店にキャッシュバックされる仕組みだ。
勿論、その場で紙書籍を購入して持ち帰ってもいい。


ここでは紙書籍の意義を基本的に見本用と考え、立ち読み自由での運用を想定している。ちょっと抵抗があるかも知れないけど、書籍ではごく普通のことだし、漫画でも「1巻だけは見本用に立ち読み可能にしてある」という例は少なくない。「読まれたら買われないのではないか」というのは多分杞憂だ:図書館は100年以上に亘り無償で本を貸し出し続けているけれど、書籍の販売業は続いている。無料で一度読んだら気が済む人は今までもそうしてきたし、これからもそうするだろう。逆に読んで面白かった本を手元に置くために買う人は少なからず存在するし、そうして作家を開拓して新たに買うものを拡げることにも繋がる。
今までの立ち読みの問題点は「それで出版社が利を得るとしても、読ませた店の利にはならない」ことだったんじゃないかと思う。でもその場で通販分が売れて、その利が店にキャッシュバックされるならば、所謂Win-Win(この場合は出版社-通販市場-書店-客のWin-Win-Win-Winだ)な関係になれるような気がするのだけれど、どうだろう。