多分唯一の"ピンボール漫画"「FLIP-FLAP」

とよ田みのるピンボール漫画「FLIP-FLAP」がKindleで出版された。作者自身の手によるKDPである。

単行本には未収録な販促絵なども追加収録、通常電書では切り捨てられがちなカバー裏おまけ漫画なども全部入り(詳しくは作者自身による紹介を参照)。

ピンボールというのは所謂メカトロニクス時代の、「アナログなアーケードゲーム」だ。存在は知られているし、ちょっと体験したことのある人も少なからず居られようが、ゲームとしてやり込んだ方は少ないのではないか。
先日、地元の科学館で特集が行なわれ、内部構造の解説と共に2台のピンボールマシンを自由に遊ぶ機会があったが、現在主流なデジタルゲームにはない工夫が面白い。
ボールの射出機構は手で引き戻すだけのバネ仕掛け。点数カウントは金属球が各所のスイッチを押すことによる通電で行なわれ、触れた球を弾き飛ばすバンパーや落ちてくる球を打ち返すフリッパーは電磁石で動作。台の揺れを感知するセンサーは錘と電極だけで、接触による通電で動作。

ピンボールは一見、左右2つのスイッチで台下部のフリッパーを動かして落ちてきた球を打ち返すことしかできないように思われる。しかし実際には、アナログ故の芸当として「台を揺らして球の軌道に干渉する」テクニックが認められている。これによって「あとちょっとで届かない」位置を届く位置に変え、死に球を生かし、ゲームをコントロールするのだ。
ただしやり過ぎると台にダメージを与えてしまうので、その抑制のために前述の揺れ感知センサーが働き、一定の範囲を越えると警告やスコア没収などの措置が取られる。そのギリギリを見極めることもまたゲームの一部だ。

本作はそんなピンボールを愛し、未踏のハイスコアに恋する少女と、そんな彼女に愛を告白したが為にそのスコアに挑むことになった少年の話だ。
とよ田みのるの作風は「普通の人と変わり者のカップリングによる率直な恋愛モノ」であり、本作もその流れにあるが、しかし恋の話はほとんど切っ掛けに過ぎない。物語の主役は明らかにピンボールであり、憧憬の対象はほとんど謎のスコアラー「UFO」と、その人物が至ったであろう境地に集約されている。

連載ながらたった4話(+連載前の読み切り1話)、しかしその4話がとても濃密。長らく絶版であったものが、今こうして気軽に入手できるようになったことはとても喜ばしい。

ところでとよ田みのる短編集には他にも「アメリカでは知られているが日本ではマイナー」な遊びを扱ったものがある:短編集「CATCH & THROW」に収録された表題作がそれで、こちらはフライングディスク(フリスビー)のフリースタイルを扱ったお話。