耳に挿れないイアフォンを

私の耳はどうも標準的な形状から外れているらしく、現在の主流となっているカナル型イアフォンが耳道に収まらず、押し出されて脱落してしまう。
昔ながらの耳介軟骨に引っ掛けるインナーイアフォンならば使えないこともないが、耳の硬い面に当たるのでしばらく着けていると痛くなってくるし、やはり脱落しやすい。
耳かけフックで支えるタイプは脱落の心配こそないが、眼鏡の蔓と干渉するため好ましくない。
ヘッドフォンもまた蔓を押し付けてしまうため、着用していると耳の上あたりが痛くなる。一応、イアパッドの柔らかい機種にすることで圧迫感を減らし、ヘッドバンドを長くすることでイアパッドの上側を開き気味にして圧を減少させ、また着用時は眼鏡の蔓をイアパッドの上にかけるようにしてみる……など工夫すれば使えないわけではないのだが、色々と気を使う必要があるのは若干面倒だ。
ついでに、雨具を傘からレインジャケットに替えたこともあり、フードを被るのにヘッドフォンだと邪魔になるという問題もある。

そういうわけで、「しっかり固定できて脱落しない」「眼鏡と干渉しない」「フードの邪魔にならない」を条件として新たにウェアラブルな音響装置を選定することにした。
基本的な候補としては、「肩に乗せるスピーカー」「骨伝導タイプ」そして「耳朶を挟んで止めるタイプ」の3種である。

ウェアラブルネックスピーカー

Amazon:ウェアラブルネックスピーカー
首から肩にかけて小型のスピーカーユニットを乗せ、耳に近い位置から音を鳴らす個人用スピーカー。
主に映画やゲームなどで、大型のサウンドシステムを導入できない場合に迫力をカヴァーすることを目的にしているらしく、重低音を「体感」するための振動板が入っていたりする。
音楽プレーヤーとの接続をメインにしていないため、専用のワイアレス送信機を据え付ける必要がある機種もあり注意を要する。また比較的高価格(2〜5万ぐらいが中心のようだ)。
これはこれで興味はあるものの、周囲に音が伝わるスピーカーでは通勤中の音楽再生用途に向かないので、今回は見送る。

サウンドイアカフ「Ambie」

これは耳を挟んで止めるタイプの、変わったイアフォンである。
ambie.co.jp
耳介を後ろ側から挟み、耳道の側まで伸びた管で音を届ける。耳を塞がないために外の雑音もイアフォンからの音も遮音されないという特徴があり、装着方法も含め良くも悪くも独特。
有線型とBluetooth型があり、今回はBTモデルを買ってみた。

以下、レビューする。

装着感

イアカフユニットとネックバンドはシリコーンで被覆されており肌触りが良い。緩く丸まった細身のネックバンドは柔軟で軽く、首に沿って抜け落ちないが締め付けもせず、装着感はほとんどない。
イアカフも耳朶をしっかり挟み込むが圧迫感はなく、4時間ほど着けっ放しにしてみても痛みなどは生じなかった。
動いてもずれない程度の強さで固定されているが、頬擦りしたら取れるぐらいの弱さでもある。あまりないとは思うが、ネックバンドと繋がるケーブルを引っ掛けられてもイアカフが外れて断線せずに済むのではないかと思う。

耳の窪みに嵌まるのではなく耳道の方向を向くように調節せねばならないので、装着には若干の慣れを要する。サウンドを再生しながら一番良く聞こえるポジションを探るといいだろう。

音量

ユニットが小さくパワーが少ないのと遮音性がないため周辺音に紛れること、また音の発生位置が普通のイアフォンより遠いことが原因かと思われるが、音量は小さい。これまで使っていたヘッドフォンと同程度の音量を得ようと思うと、Musicの再生音量制限(これまで最大ヴォリュームを50%程度に抑えていた)を75%程度まで引き上げる必要があった。
環境音も素通しなので音楽に没頭する感じではないが、そういうものと割り切って使い分けるのが良さそうだ。なお音管の上から指を添えて遮音性を高めてみると伝わる音量も上がるので、もう少し遮音性性を高める交換用イアピースとか出てもいいのではという気もした(有線モデルは取り外し可能だがBTモデルは接着されているので、外付けがいいのかも知れないが)。
音量を上げない限りは周囲の音を阻害することもなく、音楽を流しっ放しで普通に会話できる。自分にしか聞こえていないことを忘れそうだ。
なお、(恐らく通話時に声が遠い時の対策なのだろうが)ネックバンド左のボリューム+を押すとプレイヤー側の設定ヴォリュームを越えて音量を上げることが可能だ。ただし一時的なもので、プレイヤー側で音量を操作すると設定音量に戻る。

音漏れ

オープンエアなのでどうしても漏れるだろうと思っていたが、実際に試してみると意外なほど漏れは少ない。耳朶から抜き取った時点でもう聞こえなくなる、ぐらいに音の伝達範囲は限定的だ。
勿論これは音量にもよってくる。雑踏でもはっきり聞き取れるようにかなり音量を上げた場合は、耳から50cmほど離して机の上に置いても「何か鳴っている」ぐらいには感じられた。
まあ周囲がうるさい場合は漏れた音もまた雑音に紛れてしまうが、いずれにせよ音量は下げ気味に、感覚としては「店内でBGMが鳴っている」ぐらいのところに留めておくのが良さそうだ。あくまで集中して音を聴くためのものではなく、漠然と音楽を流しておくためのものと割り切った方がいいだろう。

音質

わかっていたことだが、低音はぜんぜん鳴らない。拍手の音さえ違ったものに聞こえる。
が、中高音域は結構クリアで、ヴォーカル曲などは違和感なく聴くことができる。反面、ドラムを多用するロックなどはどうしてもショボい。意外だったのは音域・音量ともにレンジの広いクラシックで、もっと貧相かと思ったら結構ちゃんと聴ける。
面白いのは音場感だ。イアフォンのように「耳の中で鳴っている」とかヘッドフォンのように「耳の側で鳴っている」感があまりなく、なんというか「前の方から音が来る」感じに聞こえてくる。最初はiPadのスピーカから音が出ているのかイアカフが鳴っているのか判別できなかったほどだ。
一人用のBGM装置としての効果が極めて高いので、たとえばゲームのサントラなどBGM用の曲がすごくマッチする。

使い勝手など

BluetoothのペアリングはNFCに対応しておりタッチで完了するらしいが、iPadにはそれがないので手動でペアリング。電源OFFの状態から電源ボタン長押しで起動→LEDが青く光ったらiPadの設定画面でBT機器をタップしてペアリング完了と、まあこの辺りは他のBT機器と特に違いはない。

通信の感度はかなり弱い。私はiPadなので普段は本体をショルダーバッグに入れて腰のあたりに下げておくのだけれど、イアフォンのBTレシーバ 部分と距離にして1mも離れていないだろうに、少しの姿勢差程度でそれはもうブツブツ切れる。「はっきり聞く機材ではない」特性が却って救いになるほどに切れる。
体の水分が通信を乱しているのか、手に持って使っている時などにはほとんど切れないので、リンク先がスマートフォンで胸ポケットに入れておくような使い方なら大丈夫なのかも知れない。しかし私のように鞄に入れて腰より下ぐらいに下げる使い方だと、少し首の角度を変えたとか手を下ろしたとか、その程度でも途切れる。正直なところ、Bluetoothモデルじゃなく有線モデルにするべきだったかと後悔するぐらいに切れる。ここは最優先で改善して欲しい。

充電はマイクロUSB、フル充電に2.5時間、連続再生時間は公称6時間。長くはないが、充電ポートがネックバンド側であり充電中も電源が切れることはないため、必要ならばモバイルバッテリーで給電しつつ再生することも可能ではある。
(なお実際の持続時間を調べてみようと朝から再生しっ放しで放置しつつiPad側でバッテリ残量表示を確認してみたが、4時間経過時点で70%、8時間で50%となっていた。フル充電後、ペアリングしっ放しでずっと使ってみたところ12時間ほどで電池切れとなった)
全体がシリコンで被覆されてはいるが、防水仕様ではない(充電用のUSBポートなどが開口しているためだろうか)。挟んで止める形式からずれ落ちにくくスポーツ向きであるように思われるので、この点はちょっと残念。将来的に防水モデルが出ることを期待したい。

骨伝導ヘッドフォン

Amazon:骨伝導ヘッドフォン
鼓膜を震わせるのではなく、骨を介して内耳まで直接振動を送り込むことで音を伝えるヘッドフォンである。
耳道を介したイアフォンとは異なり耳の中に固定する必要がない。ただ、左右の耳にそれぞれ振動を伝えるためにはだいたい耳の付近に押し付けるのが好ましく、耳道の前や耳介の後ろあたりに振動ユニットを押し付けるために耳かけフック式か頭を左右から挟むバンド形式のものが多く、眼鏡との相性はあまり良くない。
また、鼓膜を通す音とは聞こえ方が異なるため、音声の聞き分けはともかく音楽用となると厳しいのではという印象もある。

その中で、振動ユニットの固定に耳朶を挟むクリップ方式を採用した「earsopen」という製品がある。これなら眼鏡との干渉については問題ない。
www.boco.co.jp
耳に挟むイアピースとコントローラのみの有線型とネックバンドにイアピースが繋がるBluetooth型、それに一種の補聴器としての機能を有する会話用Bluetooth型の3モデルがラインナップされている。

ambieのBT接続が使いものにならぬほど酷かったので、こちらを買い直してみることにした。
以下、レビューする。

装着感

クリック感があり段階的に開き角を変更できるアームによって耳介軟骨を挟むようにしてユニットを固定する。アームの先端にはシリコーンのカバーが着けられておりクッション性を有するが、ambieに比べ装着感は固く、圧迫感による若干の痛みがある。earsopenの方がユニットが大型な分だけ重みがあり、しっかり固定せざるを得ないのも影響しているのだろう。付属のシリコーンカバーピースに異なる形状のものがあるので、場合によってはそれらを試してみるといいかも知れない。
また全体が丸みを帯びたambieと異なりearsopenのユニットは角張っているので当たり方によっては擦れて痛くなりそうだ。この辺りはデザインに再考を要する。
ネックバンドも太く、シリコーンで滑らかに覆われているため肌触りは良いが、ambieよりはかなり重い。それで疲れを感じるほどではないが、耳に装着するユニットの方はあまり長時間の利用はちょっと辛いかも知れない。

音量

ユニットはかなりパワフルである。どれぐらいパワーがあるかというと、ドラムなどの瞬発的な低音によってユニットが発する振動が耳朶で感じられるほどだ。むしろこの振動を目安として、音量を絞った方がいいだろう。

音漏れ

かなり漏れる。静かな部屋の中だと、耳から外して胸元に下げたユニットから漏れる音が、iPadの音量4でも小さく聞こえてくるぐらいに漏れる。ギリギリで音が聞こえる程度の音量調整が求められそうだ。

音質

ハイレゾ」を謳ってはいるものの、お世事にも「いい音」とは言い難い。もっとも、これはユニットの問題というよりも多分に骨伝導という方式の特性なのだろうとも思われるが、他の骨伝導ヘッドフォンと聴き比べたわけではないのでなんとも言えない。
中音域はクリアに聞こえるが、低音はかなり寂しい。また、どうやら聴こえにくくなる部分の音域について倍音強調で補うらしいのだが、その故か普段と音色が違って聴こえる感じがある。
まあこの辺りはどうしてもスピーカー>ヘッドフォン>イアフォン>骨伝導な感じが否めないので、相応に音質は厳しいという前提の上で「その割には結構聴ける」。

使い勝手など

イアユニットは片手で開いて片手で止められるので、ambieよりも装着は容易。
固定はしっかりしており、激しく頭を振ったりしても落ちる気配はない。
ただ、ambieよりもユニットが重いために取り付け位置によっては歩行の振動などで耳が揺れるのが若干気になる。

通信品質については、ambieの時ほど厳しい感じはなく、普段はiPadを鞄に放り込んだ状態でも問題なく聞ける。ただ、状況によっては頻繁な音飛びを生じる場合があって、原因がよくわかっていない。人混みの中と雨の日にそうなったので、もしかするとBTは宿命的に水分と相性が悪いんだろうか。

ネックバンドはambieのものよりも太く重い。その分だけ通信性能も高くバッテリ容量も多いのだが、細くしなやかで軽いバンドが首にフィットしたambieと異なり硬いものが首にかかっているだけなので、動きによっては鎖骨のあたりに軽い衝撃を生じることになる。せっかくイアユニットが激しい動きでも落ちないのに、これではジョギングなどの際には少々鬱陶しいのではという気もする。
またバッテリがambieよりも長く保つのに、イアユニットの長時間連続装着には不安がある(痛み的に)のがどう出るかは気になるところ。こちらも長期運用の結果によって追記したい。