Inner Ear

暫く使い続けていたノイズキャンセリング・イアフォンの、イアパッド部分を片方無くしてしまった。こいつはイアパッドを耳穴に押し込んで固定するタイプなので、これは致命的である。
仕方なしにその前まで使っていた耳掛け式イアフォンを出して来たら、娘によって破壊されてしまったようで片耳から音が出ない。
どうしようもないのでiPodに付属のイアフォンを使ってみたが、なにしろハウジングが大きい。普通のイアフォンでも耳にあたる部分が痛くなって長時間の仕様に耐えないというのに、それに加えて大きすぎて耳のサイズに合わないので苦痛である。ついでに音も大きい。コーカソイドは耳の構造まで違うのか。


iPod用としては大変人気の高いイアフォンがB&OのA8であろう。これはイアフックを耳にかけてイアフォンを固定する構造で、耳全体で支持するため負担が小さく、長時間の着用が苦にならない優れものである。A8は為替相場の関係か値上がりしてしまったが、同様の構造を持つAudio-TechnicaATH-EC7はもう少し易く買える(それでも定価¥12,800だが)。


インナーイア型は最近流行りのタイプであるが、これは実のところ欠点が大きいように思う。耳の窪みに嵌め込むのではなく耳穴そのもので支える構造の為、イアパッドのサイズが合わないとすぐ外れてしまう。特に主流を占めるシリコンゴムのパッドの場合、大きすぎても小さすぎても巧くない。そのため多くの製品には3サイズ程のパッドが付属するが、なかなかぴったりと嵌るものではない。
また、耳に密着する性質上、骨伝導を伝え易いのは非常に気になる。歩いているだけでもコードが服に擦れる音や足の裏から伝わる振動が「聴こえて」しまう。食事ともなれば咀嚼音が耳に響く。
それほどの欠点を持ちながらも利用するのは遮音性に優れるからだ。電車での通勤、就中走行音が響く地下鉄では、音楽をかき消す騒音を遮断できる構造は大変有利である。音量を上げる事でノイズを打ち消す必要が無ければ鼓膜へのダメージも周囲への音漏れも抑えられる。
特にノイズキャンセリングタイプは、遮音能力に加え1500Hz程度までの低周波をほぼ完全に打ち消すため、雑踏すら静寂に変わる。一度その快適さを知ってしまったらもう手放せない。


そんなわけで、主にノイズキャンセリング・イアフォン復旧に主眼を置きながら代替案を探す。
装着時の快適さと骨伝導問題のない耳掛けタイプへの復帰も検討したが、新規に購入すると10kを超す。評価の高いShureのExcシリーズにも惹かれたが、いずれも10k〜40kと高価すぎて手が出せない。
そもそも音質面では、雑音の中での使用であり圧縮音源である以上、あまりこだわっても仕方ない。とすればいっそ、SONYのnudeシリーズあたりの低価格イアフォンもありか。
しかし「試着」させてくれるところは少なく、装着感が解らないインナーイアに手を出すのはリスクが大きすぎる。
結局、現在の結論は「低価格にイアパッドを入手する」であった。
試しに購入したのはポリウレタンスポンジの耳栓。低反発で、小さく丸めて耳に入れると膨らんで耳穴にぴったり詰まる奴である。


実は昔、KOSSのThe Plugにイアーウィスパーを移植する記事を読んだ記憶がある。それを思い出し、真似してみる事にした。
実際にスポンジパッドを作成する記事を見ると、ポンチで穴をあけた上でビニルチューブを差し込んで接着しているが、ポンチもビニルチューブも手元には無いので、取り敢えず耳栓に穴をあけて無理矢理装着してみた。
実のところあまり見栄えの良い代物ではない。元のイアフォンはダークグレイだが、そこに原色イエローのスポンジが付いている。先端には穴らしい穴も無い(貫通させてはあるものの刳り貫いていないので、圧力で復元してしまった)。しかしこんな代物でも、ちゃんと耳穴に密着して落ちないし、ノイズを遮断しつつ音楽はしっかり聴こえている。
今後まともなイアフォンについては引き続き検討するとして、取り敢えずはこれで行こう。


これが意外と具合が良い。固定時の不安定さが解消されたのみならず、イアパッドが柔らかい所為なのか(比較的)骨伝導が抑えられているように感じる。ただ穴をあけて被せるだけであれば、耳栓自体は100円ショップでも入手できる代物であるので、インナーイアの装着に悩んでいる諸兄は是非一度試されたい。