広島県議が「東日本震災は地震兵器による攻撃だ」のようなことを言ったとかなんとか。
で、「地震兵器」という妄想を撃退できなければ「911陰謀論」は撃退できない ( その他社会学 ) - さつきのブログ「科学と認識」 - Yahoo!ブログにて
数ある陰謀論の中でも「地震兵器」は、その荒唐無稽さにおいては飛び抜けている。だから、まだ入信していない予備軍を説得するのは、他の陰謀論と比べれば比較的容易だと考えて良いのかもしれない。これができないようであれば、おそらく「911陰謀論」も撃退できないであろう。もはや「論外です」の一言で済まされる話ではなくなっていると思う。
との話が。
というわけで、飛び抜けて荒唐無稽な「地震兵器」陰謀論の、何がどう荒唐無稽なのかという話をしようと思う。
人工的に地震は起こせるか
これはまあ、できる。できるから地震兵器などという妄想が生じているわけで。
人工的な地震には2種類あって、ひとつは爆発の衝撃を震源に使うもの、もうひとつは地面に細工して地震が起きやすくするもの。
爆発型の代表例は地下核実験である。核爆弾のエネルギー量は結構なもので、史上最大の水爆「ツァーリ・ボンバ」ではマグニチュードにして7相当のエネルギーが観測されたという。ただし、実はこれらは瞬間的なエネルギーこそ少なからぬものの、震度としては大したことがない。恐らくは瞬間的なものであって持続的な振動を生じないからだろう。例えば北朝鮮の地下核実験が気象庁の地震計に捉えられたことがあったが、この時の推定マグニチュードは4〜5だったものの揺れは高精度な地震計に僅かに感知された程度だった。無論、距離の問題も少なからぬものはあるだろうけれど、同時に核を以てしても大きな揺れを生じせしめるのは難しいことを示している。
そもそも、日本近海で大きな地震を起こすということは日本の領土に侵入して地下に大型の核爆弾を仕掛けるということだ。しかも今回の震源は深海底、かつ複数箇所。さらにマグニチュードは人類史上最大の核爆弾であるツァーリ・ボンバのM7を上回るM9。マグニチュードは対数指標であり2上がる毎にエネルギー量は1000倍であるから、これを1000発も仕掛けて同時に起爆させる必要がある。ツァーリ・ボンバ - Wikipediaを見ると1発あたり27t、8m×2m。これ、日本にバレずに仕掛ける方法があるだろうか?
地下細工型は地面に深い穴を掘って地殻の割れ目に水を送り込み、その水圧や地熱で気化した水蒸気の圧力で岩盤を破壊するもので、地震発生を目的とした研究事例はないが地熱発電などにより弱い地震が誘発された例が知られている。
地震の発生のみを目的に大掛かりな超高圧注水装置を作り地下深くまで掘り下げて注水すれば大きな地震を引き起こす可能性も否定はしない……が、これはこれでやはり目立たないようにこっそりやれるような代物ではない。
しかも東日本震災の場合、震源は地下24kmと極めて深い。これほど深くまで掘るための技術を人類は未だ持ち合わせておらず(世界記録でも深さ6kmにまで到達していない)、そもそも物理的に不可能だ。
人工地震じゃなくて地震兵器?
米国の高周波活性オーロラ調査プログラムであるHAARPが「狙った場所に地震を引き起こすことのできる兵器」であるという主張もある。どうやら今回注目された地震兵器陰謀論も概ねこの路線を採っているようだ。
ただ、単なる高周波アンテナがいかなる原理で地震を起こすと考えられているのか、について説明のできた人はいない。「原理的には可能だ」ですらなく、単に「あの施設は何か怪しいから恐るべき陰謀が仕組まれているに違いない」という根拠のない漠然とした疑念だけがHAARP地震兵器陰謀論を支えている。
そもそもどこの誰による、何のための攻撃なのか
陰謀であるのだとすれば、そこには何らかの利害関係がある。日本が攻撃されたのだとすれば、それは「日本がダメージを受けると得する」存在の仕業である筈だ。得をするのは誰だろう?
損得は単純に考えてはいけない。ちょっと喩えが悪いが、あなたがとても嫌っている人物がいるとして、その人を殺害するとあなたは得するだろうか、損するだろうか?殺害そのものは自分にとってプラスであるとしても、そのことにより殺人罪で懲役に服すことになるのはどう考えても損だ。差し引きした時、それは得なのかどうか。
陰謀も同じで、単純に陰謀の成功時に得られるメリットだけを見て判断することはできない。それが露見した時のデメリットと露見可能性の程度(関わる人が増えるほどに秘密は漏洩し易く、陰謀のために金や資材が使われるほどに不審な動きを感付かれる可能性は高まる)、また陰謀によって得られる収益に対して実行に必要なコスト、そういうことを考えた上で、なおメリットが上回るのかどうか。
そういったことを考えた時、日本を攻撃することにメリットを有しているのはどこの誰か?
米国?日本は部品調達先としても市場としても大きな存在で、日本経済を壊滅させることにより米国が失うものは少なくないが得られるものは何もない。
中国?それとも韓国?日本は主要な取引先のひとつであり、それを減らすことにより得られるものはない。勿論、国際的にも注目されている状況で「この機に乗じて日本を占領」なんてのは全くもって不可能だ。
北朝鮮?なるほど確かに失うものは何もない、が得られるものもまた何もない。日本を占領しようとでも言うなら別だろうが、北朝鮮自身にもそんな余裕はどこにもないし、そもそも他国に先がけて地震兵器だかを開発運用するほどの国力がない。
冷静に考えれば考えるほど陰謀論は成立しないことが明らかになって来る。既に陰謀論者の半数は「宇宙人の仕業」やら「世界を牛耳る悪の秘密結社」といったオカルトに逃げ込んでおり、それはつまり「陰謀の理由なんて解らないけど、とにかく陰謀に違いない」という、非常に稚拙な主張に終始してしまっているということだ。
陰謀論の根本的な問題について
某所で「人工地震を起こしても誰も得はしない」というのはありえない
、公共事業と同じで 仕事さえ創出すれば、あとはマネジメント次第でペイはできる
なんて反論めいたものがあったので追記しておく。
陰謀というのは、大きければ大きいほど多数の人が関わるし巨額の金や資材が動く。規模に応じて直接的・間接的に情報の漏れる範囲が広がり、それだけ露見可能性が高まることになる。
一人二人でできる範囲の陰謀ならバレずに事を済ますことも可能かも知れないが、ツインタワーを事故に見せかけて爆破解体するだの日本の大深度地下に核爆弾仕掛けて人工地震起こすだのといった陰謀が企画立案から実行までに一体何人の関係者が必要で、それにどれだけの資金が投入されるのか考えてみるといい。
極めて大雑把に計算すると、例えば関係者が酒の席でうっかり口を滑らせるとか良心の呵責に堪え兼ねて告解するといった様々な要素で秘密が露見する可能性を、仮に1年あたり0.1%と見積るとしよう。すると1人あたり/年あたり99.9%はバレずに済むので露見可能性の計算は「1-0.999^(人数×年数)」となる。それでものべ関係者が10人になると年1%近く、100人なら9.5%、1000人なら63%。
先ほど「1年あたり」としたように年月が増えれば関係者ののべ人数は増える。100人しか関わっていなくても10年の間にバレずに済む確率は1000人で1年の時と同じだ。そしてまた、陰謀というのは何年経とうがバレたら身の破滅である。
え? 事が済み次第関係者を抹殺して露見可能性を下げる? いやいや、不自然死が増えたらむしろそこからバレる可能性が高まるだけだ。バレない工作なんてものはない。司法や警察もすべて抱き込む?買収できる相手ばかりではないので何をやろうがいずれバレる。
そこまで考えた上で、なおその陰謀には何かメリットがあるだろうか?