魔法少女まどか☆マギカの魔女システムを考察する

まどかマギカの核を成すQBとの契約及び魔女錬成システムについて考える。
QBの目的が魔女を生むことであるのは間違いない。希望が絶望に変わる時に莫大なエネルギーが回収できると説明されている。
原理はよくわからないが、エネルギーが生成されるのが魔女化の瞬間であることは確実だ。ワルプルギスを倒したまどかが変じた「最強の魔女」を「僕たちには関係ない」と見棄てていることからも解る。魔女自身が結構なエネルギーを持続的に生成していそうな気もするのだが、惑星表面に収まる程度では宇宙のエントロピーを支えんとする彼らの目論見には不足なのかも知れない。
それはともかく、これは「魔女を生み出す」ことを目的に構築されたシステムであるわけだ。原理的には魔女さえ生めれば討伐の方法など考えなくても良いのだが、生み出された魔女を利用して魔法少女を持続的に生み出す構造はエネルギー転換装置としては都合が良い。なにしろ元手は不要、魔女の生じる局所的な絶望とそれを打破可能な能力の付与は大きな希望を生み出し、希望が大きいほど魔女化の絶望も深く、より大量のエネルギーとなるわけで。


まあ炉の調整が自律的な安定化作用ではなく継続的なQBの干渉によってのみ動作してる点で設計に不安があるというか、遥かに進んだ技術を有する筈の連中がずいぶん原始的な手法で運用しているものだとも思うが、実はこいつら結構馬鹿なのかも知れない。なにしろほむらやまどかの願いを聞き入れてしまうんだから。


「奇跡」は魔法少女化の代償として与えたものであって魔女化のための必須機能ではなく、単に一時的な希望を作り出すための処置に過ぎない。ここであまりエネルギーを使ってしまうと魔女化に際しエネルギーが回収し切れず赤字になってしまうだろうと思われる。
そう考えた時、時間を遡るほむらの能力は魔女転換炉の採算上好ましいものではない。まどかに至ってはそもそも魔女化というシステムの前提条件から否定しにかかったわけで、普通ならこういう動作は設計時点で回避されべきものだ。
にも関らずそれらは受容されたし、その結果生じた変化をシステム管理者自身も認識できていない。
そもそも地球の歴史の中に於いてさえシステムの基本構造を改変する試みが出現しなかった筈がないし、人類種のみならず他の知的生命体に対しても同じことをしているであろうと考えたら、システムを破壊するような要素を防止する構造になっていない筈がないではないか。


思うに、QBはこの魔女転換炉の管理者ではあるがこれを生み出した存在とは別で、システムに組み込まれたモジュールの一つに過ぎないのではないか。そしてほむらが様々な可能性世界線を渡り歩いている以上それを可能にしているシステムの設計者が多世界宇宙を認識できぬような存在である筈もなく、つまり魔女転換炉システムは単にこの宇宙のエネルギー回収に留まらず多世界宇宙すべてからエネルギーを抽出する装置なのではないか。
その中のちっぽけな要素に過ぎないほむらが宇宙間を渡り歩いたとしても大した影響はないし、そのうち一つの世界構造が魔女化しない可能性世界へ収束しても全体には影響がない。そして魔女はなくとも類似する構造は発生し、魔法少女は何らかの形でエネルギーに転換され続ける。
QBモジュール自身は各可能性世界線の中でしかアクセス権を持たないため他の可能性世界を認識できないが、魔法少女自身はその軛を外れて他の世界にアクセスする権限を獲得し得る。QBモジュールにより実現されるフェイルセーフ機能には願いの曲解作用があり、「約束を寸分違えず、かつ少女の思ったようにはならない」ように働く。これは恐らく絶望の蓄積のために必要な処置であると同時に、システムを破壊しかねない願いが発せられた時に効果を限定し、致命的な影響を逸らす意味があるものと思われる。


この強大なシステムそのものに対抗しようと思ったら、恐らく「システムを作り出した存在そのものをあらゆる可能性宇宙に於いて発生時点の過去にまで遡って消去する」とでも願うしかないのではなかろうか。あるいはそれでも、QB曲解機能により正常に叶えられずに終わることだろうが。