最低賃金引き上げの影響

民主党マニフェストで全国の最低賃金を平均1000円にすると謳っていたそうだ。既にそのネガティヴな影響については言われ尽くしていると思うが、ポジティヴな可能性、あるいは実現のための条件などはあまり議論になっていないようなので、ちょっと考えてみることにした。

ネガティヴな要素と課題

単純に考えれば、賃金が上がればその分人手を減らしてコスト削減することになり、労働需要が著しく減少しそうだ。正規雇用と一時雇用の格差は埋まるかも知れないが、失業が問題になっている現状でそれを推し進めるのは就労者と不就労者の格差を拡げることになり好ましくない。
とは言えその分を既存人員で賄えば労働時間延長により手当てが却って高く付く可能性が高い。そうするとサービス残業を強いるか価格に跳ね返るか廃業が増えるかで、いずれも見通しが暗い印象。
ただしこれは他の経済政策と密接に絡んでくる。企業に余裕ができれば1000円払っても大丈夫になり、その分が個人消費に跳ね返って業績も上向く流れができるかも知れない。
なんにせよ、まずは企業の現金プール放出を促して循環を作らねばならないんじゃないかとは思う。羽振りの良かった時分には現金は手元に残さず投資に回すのが常識だったが、不景気で投資が回収できなくなった昨今ではむしろ現金を溜め込み有事に備えるのが常識になった。言わば市民のタンス預金である。いや内部留保とは言っても銀行が預って投資運用に回してはいる筈なのだが、銀行にしても投資効率は劇的に悪化しており投資を渋っているわけで、実質これは経済に何ら寄与していない。

トレードオフワークシェア

いっそこういうのはどうか:最低賃金1000円以上を受け入れる代わりに税金を軽減するトレードオフ。税金の内訳を見ると所得税・消費税が大半を占めており、法人税収入はその1/10程度のようだ(例:2002年度税収は、所得税14兆8122億2700万+消費税45兆8442億(国税)+33兆3785億(地方税)=94兆349億に対し法人税9兆5234億3800万円)。実際には他に地方税である事業税が勘案されていないのでもう少し差が縮まるにせよ、法人からの税収が減少しても個人所得が押し上げられるなら意味がある。
ただ問題は配偶者控除額。現状ではたしか配偶者の所得が38万円を越えると控除が減少し、103万で完全に控除対象を外れるようになっている筈だが、最低賃金が1000円となれば年間1030時間、月単位で86時間程度で越えてしまう。月あたり20日の就労なら日あたり4時間ちょっと。逆に1日8時間の就労なら11日程度。つまり現状の半分の時間しか働けない話になる。逆に考えれば今までの半分だけ働けば良くなるわけで、その分負担が軽減されるし、また倍の人数が働けるので失業率も改善が見込める。所謂ワークシェアリング
ただ、これだと労働が軽減されただけで所得は増えないから、消費拡大には繋がり難い。そうすると配偶者控除対象額の拡大をセットにするか、また別の手を考える必要がある。

限定的ベーシックインカム

経済活性化は原理的には非常に単純だ。
企業の金払いが良くなれば個人までそれが行き届き、消費が刺激されて企業に戻ってくる。単純な図式だが、そこでリスクを冒して金払いを良くする役割を担わずとも消費拡大の恩恵は受けられるわけで、先鞭を付ける利点がないのが問題となる。少なくとも最近の自民党が行なってきた企業の立て直しは、企業の利益になりこそすれ個人まで影響してはこなかった。
地域振興券政策などは個人消費を直接ブーストしようというアイディアだったのだろうが、所詮は一過性のものであることが明白だったので企業の財布の紐を緩めるには至っていない。
一過性であることが問題だったなら、いっそベーシック・インカムにしてしまえば良いのだ。毎月一定額を地域振興券で配給する。期限があるから溜め込まず消費に回る。あるいは受け取った企業の側でも単純に現金と交換するのではなく公的機関への支払いに充当することで現金代わりに処理され、一定期間で権利消失する仕組みにしても良いかも知れないが、それをやると振り込みのようにデータのみでの手続きが不可能になり人手がかかるので善し悪し。
なんにしてもその分の資金源は問題になるが、やるなら現状の生活保護ほか条件付き手当ての代わりに無条件一定額支給となるだろう。審査ほかの手続きがない分コストが圧縮されるという見方もできるが、支給金額次第では結構な金額に上り(1億2千万の国民に支給するわけだから、1万円あたり1兆2千億円かかるのは確実なのだが)実質的にどの程度財政を圧迫するかはちょっと算出が難しい。生活保護は2007年度で約2兆7千億円だそうなので単純に計算して倍ぐらいはかかりそうな感じだが(最低でも5万円分ぐらいないと生活が不可能なのでベーシック・インカムの要を為さない)。