バンカーバスター幻想

どうも軍事技術は秘密主義故に誤解され易い。ある程度その方面に詳しい人なら一笑に付すような妄言が堂々とまかり通ることがある。
とりわけバンカーバスターは「地下施設を破壊できる凄い爆弾」という面だけが独り歩きし、妙に超兵器扱いされているようだ。


バンカーバスター(GBU-28)は湾岸戦争で初めて投入された新兵器である。コンクリートで固められた地下施設を破壊するためには表層で爆発する通常爆弾では不足であり、かといって核兵器投入というわけにも行かないため、対地下施設専用の爆弾が開発された。
主として退役したM110 8インチ自走榴弾砲の砲身を加工して作られたもので、その主体は2トンにも及ぶ鉄柱である。先端を尖らせ、誘導装置を搭載している。尾部には630ポンドの炸薬。推進剤はなく、単に自重で落下する。
これを上空から投下し、その位置エネルギーを利用して地面を貫くわけだ。言わば地中深く杭を撃ち込むようなものである。
地下施設の天井を貫通、あるいは貫通しないまでも肉薄したバンカーバスターは尾部の炸薬により施設を破壊する。


こうして見ると、これが超兵器どころかまったく単純な仕組みの通常兵器に過ぎないことがお判りかと思う。しかし「どのようにして地下施設を攻撃するか」という情報のないまま「通常爆弾では届かない地下さえも攻撃できる」のような形で情報を得てしまうと、これが謎の超兵器に思えてしまうのだろう。
剰え「弾頭に水爆を搭載」なんて情報まで出てくる始末だ。
水爆は、超高温高圧により重水素三重水素を無理矢理核融合させるもので、その構造上小型化がほとんど不可能である。最初に作られた水爆は総重量65トン。その後小型化したものでさえ10トンを下回ることはない。
そんなものを、直径8インチの空洞にどうやって収めるというのか。
同じ核兵器でも、核分裂による熱反応を利用する原子爆弾核融合を引き起こす水素爆弾は動作原理からして全く異なる。原爆はかなり小型化することが可能であり、実際に歩兵が無反動砲で発射する戦術核なども作られたことがあったので、それと水爆を混同し、小型化技術を幻視してしまうものと思われる。
まあ理論上原爆を搭載したバンカーバスターなら作りようもあるのだが。