「オタクが経済を回している」という言葉がある。
はじめは「生活費を削ってまで趣味に注ぎ込むことを揶揄する自虐ネタだった」という話もあるが、現在では「オタクが日本経済を支えている」といった文脈で語られがちだ。
まあそりゃ誰しも「自分たちは役立たずではない」と思えた方が嬉しいわけだが、実際にはかなり大袈裟な表現という気もする。
とはいえ、肯定するにせよ否定するにせよ「実際どれぐらいの経済規模なのか」をはっきりさせないことには何も言えないので、少し調べてみることにした。
自認オタクの人数と消費総額
まず、「オタク市場の規模」を調べる。
矢野経済研究所のアンケート調査に拠れば、2024年時点でのオタク総人口は3313万人だそうだ。
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/3668
この数字は公表されたデータを元に、31分野の自認オタク人数を単純合計したものだが、アンケートの詳細が不明なためこの計算が正しく実情を反映しているかどうかはわからない。
たとえばこれが複数分野への回答可であるなら、人数は重複しており実際の規模はもっと小さい可能性もある。
ともあれ、わからない部分には留保を付けつつもこのデータを元に考えてみよう。
分野ごとに平均支出額と人数を掛け合わせて支出総額を割り出したものを合計してみると、1兆2千4百億円程度となった。ひとまずこれを「オタクの経済規模」であるということにしよう。
1兆円というと途轍もない金額に思えるが、国家規模の金額感では「1億円は1円、1兆円は1万円」という目安がある。これはつまり「国民一人あたりに直すと」というやつだ。何にでも適用できる目安というわけではないが、今回のように国全体の経済規模とオタク単体の経済規模を比較しようというならそれなりに有効で、「年間で1万円ぐらい経済を回した」という個人経済感覚はわりといい線行っているのではないかと思われる。オタク一人の支出は大きいようでも、全体に均すとこの程度でしかないということになる。
実際、国内経済の規模を示すGDPは名目670兆円/実質590兆円で、つまりオタクの消費総額1兆2千億円は、国内経済規模のうちおよそ0.2%程度に過ぎない。
(実際には、GDPの計算は単純な消費支出金額ではなくその分野への投資額や政府支出・輸出入額などが加算されるので、比較すべき金額は個人消費のみの合計額よりも大きくなるだろうが、流石にそのあたりを正確に見積もることは難しい。)
業界分野別市場規模
別のデータも見てみよう。
たとえば下記は就活情報サイトに拠る「業界別の市場規模」であるが、50位の「ゲーム」業界は5兆3千億円規模となっている。
https://reashu.com/shijokibo_ranking/
こちらは出典不明につき情報の正確性については不明だが、流石にまったくのデタラメというわけでもないだろう。ただ、ランキング1〜10位の市場規模合計のみでも580兆円ほどにもなっており、下に行くほど額が小さくなるとはいえすべて合計するとGDPの2倍ぐらいはありそうに見える。
なので、GDPとの比較値としては雑に1/2として扱うことにしておこう。
オタクの消費額が全分野の総額で1兆2千億円、ゲーム3分野(スマホ・コンシューマー・PC)のみの合計では2千億円程度なのに、オタク消費の一分野であるゲーム業界の市場規模が2兆6千億円もあるのは奇妙に思えるが、「自認オタクではない層」からの売上がそれだけ大きいということなのだろうか。だとすると他分野に於いてもアンケート調査と実態とではこれぐらいの差が出ている可能性はあり、実際の「オタク業界」の経済規模は1兆2千億円ではなくその13倍、15兆円ぐらいあるのかも知れない。
もちろん、これは精度の低い雑な推論なので誤差も非常に大きいかとは思うが、これが事実ならオタク市場全体としては先ほどのランキング比で10位前後の巨大市場だということになる。
総括として
GDPの0.2%では「経済を回している」というには烏滸がましいが、2.5%もあるならばだいぶ違ってくる。オタク市場が国内経済を牽引しているとまでは言えずとも、それなりに経済を支えているというのもあながち間違いではないと言えよう。
他方、「自認オタク」の規模感と実際の市場にこれほど大きな乖離があるということは、実際にオタク市場を支えているのが「少数の熱心な自認オタクではなく、オタク自認のない大勢の一般人」であるという証左でもあろう。だとすれば、オタクは「経済を回している」どころか実際には「自ジャンルの経済すら回しきれていない」ということになる。