風物詩G

「……は早ければ明後日にも近畿地方へ上陸の見込みで……」
ネットラジオからストリーミング放送されるニュース番組が、進路予想を告げる。またこの季節がやって来たのだ。
南の海に出現し、日本を襲う災害。年に一度の風物詩。
そう、ゴジラだ。


発見から50年が経過し、その間常に研究の対象として観察されているにも関わらず、その生態はほとんど判っていない。
爬虫類と思しい外見ながら、従来の常識では考えられなかったサイズ。口から吐き出される放射能混じりの熱波。
熱源として放射性物質を取り込んでいるらしいこと、そのために高純度の放射性物質が集中する原子力発電施設を襲うらしいことが判明しているが、あの巨体をそれだけで賄っていける筈もなく、鯨でも食べているのではと推測される。
普段は衛星での探査も困難な深海中に潜んでおり、概ね1年に1度程度の頻度で浮上して日本方面へ向かう。なぜ日本ばかり襲うのかは不明-----確かに日本には原発が多いが、周辺国にないわけでもない。にも関わらず、日本以外へ上陸した例は数えるほどしかない。
これまでに発見された個体はわずか3例。最初の1例(G-1と呼称)は強力な化学兵器により死亡したことが確認されている*1。このとき海中から骨格の一部が引き上げられ、おおよその構造研究が行なわれた。
次の1例(G-2)は自衛隊*2により三原山火口に誘導され死亡。これは骨も発見できていない。
最後の1例は以前の個体より巨大で*3、これまでに考案された攻撃法のほとんどを退けた。
江戸記の伝承に目撃談がある以外は極めて長期に渡り発見例がなく*4これまでどのように生存していたのか、何故最近になって頻繁に出現するようになったのかなど謎が多い。そもそも化石の出土例もなく3個体以外の存在が知られていない。一体どうやって繁殖しているのか、個体寿命はどの程度なのか。我々はいつ頃まで、この脅威に晒され続けるのか。


マグマに滅したことから熱攻撃は有効と思われるものの、口中より高熱を発していることなどから熱耐性は高く、G-2は粘性の高いマグマに絡め獲られ窒息したのではないかとも考えられている。
酸素供給妨害も提案されたが、巨体故に全範囲での無酸素化は困難であり、また長時間海中に没していられることから酸素貯蓄能力も高いものと推測されたため実施には至っていない。
米国は核攻撃を主張したが、極めて高い耐熱性を有しているであろうこと、G-2が旧ソ連からの核攻撃で勢いを取り戻したと思われる事例があったことなどから有効性が疑問視され、その割に悪影響が強いことからこれも実行されていない。
これまでの数少ない成功例は対核バクテリアによるゴジラ体内のエネルギー低下を狙った1990年の事例ぐらいだが、これは体温上昇のためのマイクロ波照射や人工落雷など極めて大掛かりな補助攻撃あってのことで、再度実施は非常に困難と考えられている*5


実のところ、何にでも順応してしまう日本人は既にこれをひとつの風物詩として認識しており、地震や台風と同程度の「よくある災害」に数えられてしまっている。
夏頃になるとニュースでは進路予測が報じられ、毎年のようにドキュメンタリーが放映される。無論若狭湾付近など頻繁に襲撃される土地の住民にとっては悲惨な災害だが、それ以外の地から見れば「またか」といった程度の認識だ。
ゴジラを題材とした作品も多く作られ、「光の国からやってきた巨人によってゴジラが撃退される」といった荒唐無稽な子供向け特撮番組から古代に遡ってゴジラの始祖を断とうといったものまで枚挙に暇がない。中には「ゴジラフリーメーソン生物兵器」などといった陰謀史観と結びついたものやゴジラを神の使いと崇めるようなものもある。
対応策にしても、最近では一撃必殺を狙ったものから国土への被害を最小限に抑えるための嫌がらせにシフトしつつある。それでも食欲は何者にも勝る本能なのか、放射性物質を得ずして帰巣した例はまだなく、そのため囮案なども考えられている(実際には毎回の上陸ルートが違うことから囮を用意しても誘導は困難との意見が強く、実施は見送られた)。
現在は新たに、対ゴジラ用新怪獣の開発が進められているところだ。今度の怪獣はちゃんと機能するといいが。

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*1:海中での使用によりその後10年以上にわたり、広範な海産被害が生じた。水産国家である日本にとっては相当なダメージであり、その後攻撃手段としては封印されている

*2:既に対ゴジラ戦力に特化され、国防戦力としての機能は形骸化している

*3:個体差で済ませるには常軌を逸していることから放射線の影響による変異体との見方が有力視されている

*4:シーサーペントほかの海獣伝承のいくつかはゴジラによるものだったかも知れないが、実証は困難だ

*5:余談だが、この対核バクテリアは残留放射線問題をほぼ解決する未曾有の大発明であった。ただしそれが広まることは核攻撃の問題点を一部解消し、抑止効果が減少する恐れがあるとの判断により最重要の国家機密として厳重に保護されており、今のところ国外には提供されていない