量子暗号通信の謎

量子暗号というのは本来の意味-----つまり通信内容を秘匿するために攪乱するアルゴリズム、という意味-----では暗号ではない。それは物理学的現象を利用して「傍受されない」通信を実現したシステムである。日本語で言えば手法と装置の違い……と言うと余計解り難いか。


量子とは何か、をここで説明するのは止めておく。ただ量子暗号の原理のようなものを概説しておくと、それはキャッチボールに似ている喩えとして適切ではないらしいのであまり参考にしないように
AとBがボールを投げ合い、そのタイミングにより通信しているとする。これを傍受するには空中でボールを奪うしかないが、そうすればA/Bは通信が傍受されたことに気付いてしまう。しかも途中で止めてしまうことでタイミングが計れず通信内容を得ることもできない。
現実の量子暗号通信では光子1個単位での放出/検知を行なう。これで具体的にどうやって意味ある信号を送っているのかは良く解らない。考えられるのは、例えば1秒に1個を放出し続けておいて(ビットが0の状態)、8秒単位で放出した秒/しない秒をカウントすれば1バイトの信号になる……といった手法だ。放出間隔がどの程度か知らないが、あまり密度を高めると0と1が混同されかねないからどうしても送信は非常にゆっくりしたものになってしまう。事実、現在の量子暗号通信は遅すぎて実際のデータ通信に使うには適さないので、128bit程度の共通鍵をこれで送信し、その鍵で通常の暗号通信を行なう形で運用するのが精一杯のようだ。


ところで先程キャッチボールと書いたが、これが傍受できないのはあくまで「途中で止めてしまう」からだと言えよう。すると、経路の中間に量子暗号傍受装置-----光子を検出すると同時に反対側へ光子を放出する送受信機-----を挟んだ場合、A/Bは通信の途絶に気付かず通信が行なわれ続け、完全に傍受可能なのではないか(或いはプロトコルさえ明確なら偽通信への擦り替えすら)。無論通信中には不可能だろうが、専用の量子暗号通信回路を必要とする現在の形式では、通信していない時期を見計らって予め傍受装置を仕込んでおくことはできなくもなさそうだと思うのだが。
と考えるとむしろ「絶対破れない暗号」ではなく、むしろ脆いものに見えてこないだろうか。
どなたかその筋の専門家による解説求む。

解説を頂いたので追記

ひとつ判ったことは、なにかの喩えでこれを説明するのが困難ということだ。
理解の範囲で要約すると、

  1. 送信者は1bitごとに+型かX型のいずれかで送信。この二つの型は同じ1bitを反対の状態として扱うようなものと言えようか。つまり+型で0のbitがX型では1になる。
  2. 受信者は送信されたbitがどちらの型か解らないので適当に決めて受信。そののちどのbitをどの型として受信したか、その情報だけを通常回線で送信者に送り返す。
  3. 送信者は正しい型で受信されたbitがどれなのかを返信。受信者は誤った型で受信した部分のbitを反転させ正しい情報を取り出す。

これは送受信のみの手順だが、ここへ盗聴が絡むと、次のようになる。

  1. 送信者は1bitごとに+型かX型のいずれかで送信。
  2. 盗聴者は送信されたbitがどちらの型か解らないので適当に決めて受信。そののち受信に仮定した型で同じbitを受信者に送信し傍受の事実を秘匿しようとする。
  3. 受信者は送信されたbitがどちらの型か解らないので適当に決めて受信。そののちどのbitをどの型として受信したか、その情報だけを通常回線で送信者に送り返す。
  4. 送信者は正しい型で受信されたbitがどれなのかを返信。受信者は誤った型で受信した部分のbitを反転させ正しい情報を取り出す。
  5. 盗聴者は型に関するチェックの情報も傍受、それを元に自分の傍受したデータを訂正。

問題は盗聴者の絡む部分だ。
量子力学に於いては観測という行為が状態を破壊する。非破壊的観測は有り得ない。従って盗聴が情報を「抜き取る」のではなく「強奪する」、即ち受信者に届くはずだった情報が届かない、というのは理解できる。そのためにキャッチボールの喩えでは盗聴者による受信者への送信を付け加えることで隠蔽工作を試みた。
しかしどうやら、量子暗号では受信したbitと同じものを送信できないらしい。ここが良く解らないのだ。


光子の偏光状態-----波長の傾きとでも言えば良いか-----が水平垂直方向の+型では0を─方向の波で、1を│方向の波で表し、45度方向のX型では/で0を、\で1を表す。+型の│をX型として受信すると/、即ち1が0として認識される。それは判った。
しかし、仮に盗聴者がX型と誤って受信した0のbitをX型の1として送信したとすれば、それを本来の受信者が「正しく」+型で受信したとき0のbitとして認識され、情報に齟齬は生じないのではないか。
また、受信型訂正のための通信(これ自体は通常回線で送信される)を傍受すれば適切な受信型が判明するわけだから、容易に正しい情報が取り出せるのではないか。

8ページ図3では同じことが2回繰り返されているように見える。この意味もよく解らない。

更に調べる

http://www5.ocn.ne.jp/~report/news/qteleportation.htmでは量子もつれに言及して量子テレポーテーションや量子暗号の解説をしている。この説明がどの程度精確か(またそれを私がどの程度理解しているか)調べる術はないが、これによると量子暗号では通信に際して光子のやりとりすら発生しないように見える。