RPGに於けるリソース配分

RPGはゲームとしての純度に於いてボードゲームに劣っている。


RPGでは普通、アクションの結果は乱数によって決定される。その確率を左右するステータスは予め与えられているが、多くのゲームではそれ自体がランダムに決定されている。言い換えれば、RPGは「ランダムに決定された初期状態から取るべき行動を決める」システムであると言えよう。
無論、そういう面は大体のゲームに当て嵌まる。例えばカタンの開拓者ではランダムに並べられた地形タイルとスタート順によって初期状態は大きく異なり、それを元に今回の手を組み立てる必要に迫られる。大筋に於いては同じことだ。
ただし、普通ボードゲーム類では初期状態による有利不利が可能な限り抑えられるように設計される。先の例で言えば、初期状態だけであるプレイヤーが一つの資源を独占したりするようなことにはならないようにできている。
それに対し、RPGでは初期状態のステータスを調整する術が無い。偶々結果が偏っていたら、極端に有利/不利な初期状態でスタートすることがあり得る。1回の試行が偏るのは大した問題ではないが、初期状態が偏るのは後々に多大な影響を及ぼすと言える。
更に問題なのは、RPGが継続する遊びだということだ。つまり一つの初期状態を長く続ける可能性が極めて高く、この「初期状態格差」はその後ずっと影響を残す。


ボードゲームの類いに於いてはリソースの配分が極めて重要な鍵を握っている。初期状態が公平なればこそ、その後の采配が全てを左右するのだ。そして当然ながらリソースの配分には常にディレンマが付き纏い、それがゲームを面白くしている。
然るにRPGではリソースの管理が重要な意味を持ち得ず、そもそも管理すべきリソースが多くない。管理できるものといえば、所持金(及びそこから得るアイテム)、経験点(及びそれにより変更される初期状態)ぐらいだろうか。
実はRPGは、ある意味で双六と変わらないほどランダム性の強い「運ゲー」である。


こんないい加減なシステム構成が許容されるのは、偏にRPGボードゲームの性質の違いに拠るところが大きい。プレイヤー同士の真剣勝負であるボードゲームに対し、RPGはプレイヤー同士協力して目的を成し遂げ、物語を紡ぐ遊びである。障害全般を管理するゲームマスターすら、この点ではむしろ協力者の立場であるから、偏れば偏ったなりに調整してのプレイが成立する。
とはいえそのランダム性の高さには(これまで明示されたことは無かったと思うが)多くのデザイナーが問題意識を持っていたようで、90年代の後半頃から急激にリソース管理性RPGが増加した。
一つの傾向は、初期値のランダム性廃止である。例えば『GURPS』では100ポイントの作成点を振り分けることでキャラクター作成を行ない、この段階でのランダム性は一切無い。
もう一つはプレイ中の行為判定に於けるリソース管理である。例えば『トーキョーN◎VA』はトランプのカードを判定に導入し、手札から判定に使用するカードを選ぶことで成功/失敗をプレイヤー自身が決められるし、『スペオペヒーローズ』のネガティヴヒーローポイントや『熱血専用!』の熱血ポイントのように、プレイヤーが行動によって自発的に入手し成功度をコントロールできるリソースを導入した例もある。
それはそれで一つの手段はあろう。だがRPGの本質が物語にある以上、RPGに於ける決定的なリソースは物語そのものを左右する存在であるべきだ。


RPGに於ける物語性は、現状かなりの部分をシナリオライターに負っている。プレイヤーの選択と判定の結果は最終的な出力形態を決めはするが、そこまでの筋道は予め決められており、そこへプレイヤーが介入する余地はまずない。
この点について大胆にも切り込んで行った希有な例が、『Beyond Roads to Lord』の魔法システムや『深淵』の運命カード+夢歩きではなかったか。
残念ながらプレイ中のストーリーに介入する試みはコントロールが困難で、目的達成手段としてはあまりに予測不能であることからほとんど顧みられなかったが、その最も困難な道の先にあるものこそが、RPGの新たなる世界なのではないかという気がしてならない。