屍者の帝国 用語集II

目次

第一部

I

Rebooting…
フライデーの汎用ケンブリッジ・エンジンと拡張エディンバラ言語エンジンの起動。
ラジャバイ時計塔
1874年に開校したばかりのボンベイ大学(現ムンバイ大学)図書館入口に付随する時計塔。英国の建築家ジョージ・ギルバート・スコット設計によるゴシック・リヴァイヴァル様式の建物で、塔の完成は1878年。ワトソンが目にしているのは恐らく落成直後のものだろう。→Rajabai Clock Tower - Wikipedia, the free encyclopedia
筆記体
英字で筆記体といえば1単語をほぼ一筆で書くための変体アルファベットだが、漢字に於ける草書もまた筆記体と呼ばれ、準筆記体という表現は行書を指すものであるようだ。アルファベットとして準筆記体に相当するものを見付けられなかったのだが、フランケンによる清書速記のために生み出された書体なのか、あるいはフライデーは実はこれを中文あるいは日本語で記したのだろうか。
フライデー
従者のフライデーといえば1719年出版「ロビンソン・クルーソーの生涯と奇しくも驚くべき冒険」で従者となった現地住民が真っ先に浮かぶが、それを意図しての命名かどうかは明らかにされていない。
Noble_Savage_007
Noble Savageとは18世紀頃の文明批判論の中でしばしば登場した表現で、戦争を繰り返す腐敗した文明に対し平和と寛容を旨とする「気高い未開人」を指す。自ら争うことをしない屍者とも重なるものがあるかも知れない。末尾の番号はジェームス・ボンドのそれを想起させる。
メルツェルの将棋指し
1770年にヴォルフガング・フォン・ケンペレンによって制作され、後にケンペレンの死後メトロノームの発明者ヨハン・ネポムク・メルツェルがこれを買い取った。史実のそれは台の下に(見せかけの機械装置に隠れて)プレイヤーが潜みチェスを指すものだったが、ここでは単に付随する(見せかけの)トルコ人チェスプレイヤー人形の動作を指すのか、それとも真に自動機械として設計された設定なのかは不明。
エディンバラ
スコットランドの首都エディンバラに存在する、オックスフォード・ケンブリッジに続いて古い大学。1582年創設。
Q部門
英陸軍に於いて兵站部門のうち需品(補給、装備調達など)を担うセクションはQuatermasterと呼ばれ、その略称もしくはコードネーム。007に於いても装備担当者は『Q』であった。
大英博物館の図書閲覧室
大英博物館は帝国が世界各地から略奪収集した美術品、書籍、資料などを収蔵する世界最大規模の博物館のひとつである。ブルームズベリーは大英博物館などの存在するロンドン中心地区。その図書閲覧室は円形の巨大ドームで知られる。→画像
ボンベイ
インド最大の都市、西海岸のマハーラーシュトラ州州都。1534年にポルトガルにより城塞都市が築かれ、「善き港」と呼ばれた。1661年、英国チャールズ2世に嫁いだポルトガルのカタリナ王女が持参金としてボンベイをインドに委譲、東インド会社が借り受けたことで都市として大きく発展した。
引き船
タグ・ボート。港に於いて小回りの利かない大型船舶を外側から押して操船を補助したり、自走能力のないはしけを曳航する用途に使われる小型作業船で、サイズに見合わぬ大出力のエンジンを持つ。
はしけ
水深の浅い湾や河川で大量の荷を載せるための平底船で、動力を持たずタグボートに曳航される。
三十八の星をあしらったアメリカ合衆国
コロラド州が加盟した1877年から5州増える1890年までの間使われたもの。→画像
英領インド帝国
1877年に成立した帝国。形式的には独立国だが英国の君主が皇帝を兼ね、事実上イギリスの植民地であった。
アフガニスタン派遣軍
1878年7〜9月にかけ、アフガニスタンに於いてロシア使節を受け入れ英領インド帝国使節を拒絶する事件が発生、ロシアの影響力増加を警戒する英国はただちにアフガニスタンに対する宣戦を布告、第二次アフガン戦争準備のため英国から英領インド帝国へと軍を派遣した。
ヴィクトリア・ステーション
ヴィクトリア・ストリートに因んで名付けられたターミナル駅。この当時はロンドン・ブライトン&サウスコースト鉄道(LB&SCR)及びロンドン・チャタム・ドーバー鉄道(LCDR)が乗り入れていた。
ヴィクトリア・ターミナル
1887年に落成したばかりの、ゴシック・リヴァイヴァル建築とインドの伝統的建築による折衷建築のターミナル駅。フレデリック・ウィリアム・スティーヴンス設計。現在ではチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅と呼ばれている。
ビスケー湾
英国から真南、フランス西岸とスペイン北岸に挟まれた大きな湾。ビスケーという英名はスペイン側の名称に因む。
ジブラルタル
スペインの南端に突き出た2マイル程度の小さな半島で、スペイン王位継承戦争の末に1713年のユトレヒト条約で英国に割譲され、現在に至るまで英国領。地中海の出口を望む良港であり、交通・軍事上の要衝となっている。
ヘラクレスの柱」とはヘラクレスがこの地にあった巨大な山を棍棒で両断し地中海と大西洋を繋げたという伝説にちなむ。
フィリアス・フォッグ
ジュール・ヴェルヌ80日間世界一周」に登場する英国の資産家。様々な作中人物が実在として描かれるこの世界では彼もまた実在の資産家であるようだ。
トマス・クック
ホテルの予約や旅客切符の手配などを代行する、最初の旅行代理店。バプティスト派の伝道師だったトマス・クックが1841年の禁酒運動大会に信徒を動員するため切符の一括手配を創案、団体割引を可能としたことに始まる。
アルビオン
ラテン語の白を語源とするブリテン島の古名。大陸側に面した白亜層の崖が由来とされる。
回転のぞき絵
円盤あるいは円筒にコマ送りのアニメーションを描き、回転させてスリットから覗くことで断続的な静止画の切り変わりを動画として見せる装置。→回転のぞき絵 - Wikipedia
ゴシック・サラセン調
英国式のゴシック・リヴァイヴァル様式とイスラムのサラセン様式の折衷建築。
ペシャワール野戦軍
ワトソンの従軍した第二次アフガン戦争では遠征軍をペシャワール野戦軍、カラム渓谷野戦軍カンダハル野戦軍の3軍に分割しカブール及びカンダハルを攻略する予定であった。
第八十一北部ランカシャー連隊
連合王国である英国の軍は、建前上「貴族が所有する私兵連隊の寄せ集め」という型式を採る。
第二錬金中隊
魔術と科学が渾然一体となったこの世界には、どうやら錬金中隊という組織形態が存在するようだ。察するに屍者を扱う部署ではないかと思うが、判然としない。
インド副王
英国インド植民地はこの時代、英国女王が英領インド帝国女帝を兼ねており、総督は「副王」と俗称された。
ロバート・ブルワー・リットン
第5代英領インド帝国総督。
レッド・コープス
CorpseでありCorpsであるのだろう、英陸軍の赤い制服をまとったフランケン。
ユリシーズ・グラント
南北戦争時代の北軍将軍および第18代アメリカ合衆国大統領。大統領としての評価はすこぶる悪いが、軍人としての評価は高い。
ピンカートン
1850年に私立探偵アラン・ピンカートンが設立した、民間の探偵・警備会社。一つ目をトレードマークとする(→画像)。ここでは南北戦争後の余剰屍兵を大量導入して警備会社からPMCとなっている。
プライヴェート・ミリタリー・カンパニー
戦後の軍縮などで職を失った元軍人や余剰の機材などを元に設立された総合軍事請負。傭兵と異なり単純戦力に留まらず、必要に応じ後方支援や兵站まで一括して担当する、「営利軍隊」。
ニトログリセリン
グリセリンを硝酸と反応させた爆薬。原料となるグリセリンは当時、石鹸の廃液を精製して作られていた。
露土戦争
16世紀半ばより20世紀初頭まで、ロシアとオスマン帝国は何度も戦争を行なっている。地中海側に港を持たないロシアにとって、黒海と地中海を繋ぐボスポラス海峡を押さえるオスマン帝国は是が否でも支配下に置きたい地域であった。20年前のクリミア戦争での手痛い敗北以降、着々と準備を進めたロシアが圧勝。
サン・ステファノ条約
1878年露土戦争講和条約。多額の賠償金と共にロシアへの領土割譲、及びセルビアモンテネグロルーマニア、大ブルガリア公国及びマケドニアの独立などを迫った。
ベルリン会議
サン・ステファノ条約の結果としてエーゲ海に面する地域に親露国が成立しロシアが地中海まで影響を伸ばすことを警戒した英国やオーストリアが条約に強く反対、オーストリア=ハンガリー帝国ともロシアとも同盟を締結していたドイツ帝国が仲裁に入る形で会議が開かれた。その結果サン・ステファノ条約を大幅に修正する形でベルリン条約が締結され、マケドニアオスマン帝国に戻された。
シェール・アリ
アフガニスタンの国王(在位1863年 - 1866年、1868年 - 1878年12月)。二人の兄に王位を簒奪されたが取り返し、後に第二次アフガン戦争で英軍に敗北し退位。
グラッドストン
ウィリアム・エワート・グラッドストン自由党党首。全4期にわたり首相を務めた。遠方にあって財政への負担が大きい植民地を放棄し貿易に力を注ぐ小英国主義を支持し、英領インドについてもその防衛を天然の要害たるヒマラヤ山脈に任せておけば良いとした。
ディズレイリ
ベンジャミン・ディズレーリ、保守党出身でグラッドストンの宿敵、首相を2期務めた。積極的な植民地拡充を唱える大英国主義を支持し、インド防衛については前進主義を支持した。
前進主義
積極的な国境の前進を以て防衛と為す、つまり「攻撃は最大の防御」を唱える思想。
プレブナ要塞
トランシルヴァニア地方から南に位置するオスマン・トルコ帝国の要塞。露土戦争に於いて唯一、ロシア軍に対し優位に戦った拠点。
正教
395年の東西ローマ帝国分裂によって東西に分かれたキリスト教のうち東方に伝わったものを総称して正教(オーソドクス)という。様々な点で西側のカソリックともプロテスタントとも異なるが、あくまでローマ帝国の国教たるキリスト教そのものであり、分派のようなものではない。
ノーチラス級
H.M.S.ノーチラスの名を冠した英海軍艦艇は複数存在し、史実では1914年のノーチラス級が英海軍最初の潜水艦だが、当然ながら1870年にジュール・ヴェルヌが記した「海底二万リーグ」のノーチラス号を想起せずには居られない。同作中でも艦の構造についての説明中に「既にロンドンで同じ種類の各構造物に利用されている」といった表現があり、このノーチラス号の同形艦が英国で建造中であったのか、それともH.M.S.ノーチラスの建造が史実より50年ばかり早まったのかは判断しかねる。
クリミアの亡霊
本書に於ける「クリミアの亡霊」の意味するところとは別に、これはどうやらM.J.トローがシャーロック・ホームズの主要登場人物であるレストレード警部を主人公に書いたシリーズの一作「Brigade: Further Adventures of Inspector Lestrade」の邦題でもあるらしい。
セヴァストーポリ要塞
クリミア半島南端のロシア軍要塞。かつてクリミア戦争に於いてロシア海軍の要衝として両軍が布陣、泥沼の塹壕戦の末に多数の死者を出した。
トランシルヴァニア
ルーマニアの西側、ハンガリーと接する地域。ドラキュラという名の元となったワラキア公ヴラド3世の出身地。
獅子と一角獣
英国の国章。→画像