MM9というSFがある。
- 作者: 山本弘
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2010/06/25
- メディア: 文庫
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その一節に、
注意報や警報が空振りに終わったことや、怪獣出現を予測できなくて惨事を招いたことばかりが、人々の記憶に強く焼き付けられる。
予測を誤れば、何千、何万という人命を危険にさらし、何百億円もの被害を発生させる。彼らの責任は重大だ。にもかかわらず──いや、だからこそと言うべきか、世論からしばしば激しい非難を浴びる。実際には多くの人命を救っているのに、あまり報われない。
というのがある。何事もなくて0点、被害を出したら減点。報われない仕事だ。
現実にも、そういう存在は少なくない。災禍を防ぐようなものはほとんどがそうだ。それでも自衛隊の存在や治水工事のようなものはまだしも効果がやコストが解り易く、また滅多に深刻な被害を生じないから減点を受けることは少ないが、日常的に接する存在ながらコストが理解され難く、その上被害を確実に防ぐものでない、例えば予防接種などは些か不憫な扱いを受ける。
ワクチンは、
- 元々、感染を100%防ぐものではない
- 免疫があっても罹るときは罹る
- むしろ罹っても軽く済むことや、他人に感染さないことを主眼に置く面もある
- 副作用がある
- 「軽く病気に罹っておく」ようなものだからその影響はあって当然
- 確率的には極めて少数ながら重症化例や、ワクチン製造時の品質トラブルによる被害も例がある
- 封じ込めが成功しつつある病では感染防止目的の接種に個人としてのメリットが低い
- 「接種しなくても感染しない」「接種の副作用の方が怖い」と見える
- そうやって接種率が低下すると爆発的に流行したりする
……ような代物なので、減点機会が極めて多い。いきおい、しばしば利点がまったく理解されず、失点のみが取り沙汰されがちとなる。
勿論、そんな「欠点だらけ」の代物が半ば義務的に接種されべきものとされるのは非常に不自然なことであるのだが、「だから実は意味があるんだ」とはならないのが不思議なところ。「欠点しかないのに広く接種を促している=何かの陰謀に違いない」などの突飛な理論で不自然の短絡的な解消を図る。
冷静になって事実を確認すれば陰謀などないことも予防接種の必要性も解りそうなものだ、が「一度思い込んだことは容易に訂正されない」のが人間というもので。
多数派の意見は、すでに対立する見解を持っている人には受け入れられない - GIGAZINEなんて研究もあるようだが、否定されればされるほど思い込みを強化しがちなので、この手の否定論はなくならない。またそこにつけ込むビジネス(ホメオパシーやなんたら水など)に食い物にされ、この過程で強迫観念は更に強化されてゆく。
こうした状況の打破は容易ではない。減点評価が改められれば良いのだろうが、これは制度の問題などではなく個々人の感情論であるから、恐らく地道な啓蒙以外に解決策などないと思われる。