電子ブックリーダーは電子ブックが受け入れられない限りは本体の需要もない。かつてソニーやパナソニックが電子ブックリーダーを(それもかなり出来の良いのを)作っていたけど、事実上撤退状況にあるのは、結局のところコンテンツが充実しなかったからだ。
何故充実しない?これまた非常に単純な話で、出版側に電子ブック発売のメリットがないから。
何故出版側にメリットがない?それは勿論、電子ブック市場が極めて小さいから。
何故市場規模が小さい?誰も端末を持ってないから。
循環してしまったけど、新規市場というのは常にそういうものだ。そこを将来性を説きベンダーかき集めて魅力的な初期ラインナップ揃えてみせることで端末を売って市場を一気に拡げ、ベンダーの参入を促して市場を充実させることでまた端末の売り上げを伸ばす……常にそうやって回ってきたし、それができなかった機器は消えていった。
でもiPadは電子ブックリーダーじゃない。機能としては主力であるとしても、それ以外にも色々使える。ということは、純粋な電子ブックリーダーよりも端末としての普及率は高くなるだろうと予想できるということ。
専用の書籍販売システムが存在する前に潜在的な市場が膨らんじゃうわけで、これは格段に有利だ。まあ米国ではAmazonのkindleが先行しちゃってるので予断を許さないけど、日本ほかKindleが手をこまねいてる市場で言えば、「まだ市場はできてないけど本売りませんか」より「これだけの市場が既にあるんで本売りませんか」の方が説得力は段違いに上なわけで。
ところで日本で今までに電子ブック市場がそういう風に形成できなかった理由は、たぶん主として出版取次という制度にあるんだろうと思う。たった2社しかない取次が一度本を「買い上げ」て、それを書店に卸して、書店から返本が来た分だけ出版社に戻して、「買い戻」させる仕組み。これは売り上げが立つ前に資金が回収できるベネフィットと、手元に資金がない時に買戻金が発生するリスクがセットになってて、出版社はこの構造から逃れられずにいる。資金を作るために本を刷り、その本の戻りを相殺するためにまた本を刷るような自転車操業が実際に行なわれているらしい。
その潜在的な負債をどう処理するかという問題はあるのだけれど、今や全国への一挙流通を担うAmazonと、今後訪れるKindle/iBookストアによって出版社は取次をすっ飛ばして書籍流通させることが可能になりつつある。取次がなくなればその分だけ取り分も増えるというもの、これはこれで悪い話じゃない。勿論全国の書店への流通網をどうするかという問題は暫く残るから紙書籍まで取次なしとは行かないかも知れないけれど、少なくともそういう枠組みに一切縛られないiBookストアはかなり身軽に動けるだろうと思う。
とは言え、電子書籍が本格的に普及するかどうかの半分は「実際の書籍同様に扱えるかどうか」にかかってくる。数百ページもの小説をパソコンの画面で読む気になるかどうか。それには文字の視認性が大きく関ってくるわけだけど、その点では紙同様の反射型であるe-ink採用のkindleの方が有利だ。でも、どちらにしても未だ印刷物の解像度の半分にも満たないから細かいところが良く見えない問題は残ってる。その辺は将来的な性能向上に期待。