奇想小径車展覧会

自転車の中でも小径車というのは奇妙なジャンルである。走行性能では700Cのロードバイク、走破性では26インチMTB、経済性と搭載力ではシティサイクル、剛健さでは実用車。小径車はそれらのいずれも持ち合わせていない。
じゃあ何のためにあるのかと問わば、「折り畳んでコンパクトになるように」と答える他ない。つまり小径車=折り畳み自転車ということになるのだが、にも関らず結構な数の「折り畳めない小径車」が存在している。私が乗っているのもそんな一台だ。
そうするとこの、性能的には何の取り柄もない自転車を何故選定したのかということになるのだが、これに対する唯一の回答は「見た目」であろう。単純に見た目に惚れたから、他は二の次なのだ。


そう開き直ると、小径車には一定の利点が見えてくる。即ち、「性能を気にしないから多様なデザインが期待できる」という特性だ。
ロードバイクなどはレースのために特化したことで大体同じようなスタイルのまま100年ぐらい動いていない。細部では形状の最適化や素材の変化など鎬を削る進化があるわけだが、見栄えという点では変化の小さなジャンルだ。マウンテンバイクなどはジャンルとしての歴史が浅い分まだ進化の余地が残されているしファッション的側面も強いので変わった形状も出てくるのだが、シティサイクルではもう30年ぐらい基本的なラインは変化していないし、実用車に至っては100年前に既に完成されておりまったくといって良いほど変化がない。
そんな中、小径車だけが独自の奇妙な進化を遂げている。さながら哺乳類の亜種としてオーストラリアだけで発達した有袋類の如く。
まあ、前置きはこれぐらいにして実例を御覧戴こう。

機能美の極地

http://www.dynavector.co.jp/moulton/mframe/tsr_series.html
細身のトラスフレーム構造によるストイックな美しさ。小径ならではの走行性能を追求した先にある、ひとつの完成形である。
小径乗りなら誰しも一度は憧れる高嶺の花。安価なライセンス生産モデルですら実売30万から、本家で手作りされる最高級モデルは100万超。

ビーチクルーザーの中でも異質

http://item.rakuten.co.jp/nextbike/folding-and-cb163bb-fk/
見た目重視のデザイン自転車として知られるa.n.design-worksによるアメリカンスタイルブランド「カリンバ」の商品。湾曲したフレームに小さくて太いタイヤ。
ビーチクルーザーとはアメリカ西海岸で独自に発達したジャンルで、バイクを模して作られた、ガソリンタンク部分を思わせる(時にはダミータンクすら装備する)湾曲したフレームと太いタイヤが特徴の自転車だが、このCB-163BBは既にバイクの模倣からも脱却してしまった。

アメリカンなチョッパー風。

http://item.rakuten.co.jp/nextbike/052-out/
ビーチクルーザー同様にバイクを模倣したスタイルとして、チョッパーが登場するのはそう不思議でもない。ただエンジンより前方に足を投げ出すようなライディングスタイルを模倣した結果として、クランクから駆動輪までが長くなりロングチェーンで繋ぐ、自転車としては奇妙なスタイルが確立された。

半分に折るだけが能ではない

http://item.rakuten.co.jp/zitensyadepo/strida-07/
走る三角形。たった3本のパイプフレームで構成されたストライダは、下辺前方の接合部を外すことで前後のタイヤをぴったり重ね合わせ、3本のパイプをひとつに纏めて細く折り畳んでしまえる妙な自転車である。胸をフレームに預けるライディングスタイルも異質。

http://www.louisgarneausports.com/bike/09lgs_68-sk_2.html
フレームを下げてスカートでも跨ぎ易いステップイン構造はいくつかのシティサイクルで見られるが、これは更に一歩進めて、低くなった部分を足置きとすることでスクーター(原付ではないアレ)のように蹴りむこともできる。
機械の扱いに不慣れな女性を意識してか、自動変速付きで「漕ぐだけで最適なギア比に」。

折り畳み時のサイズを追求

http://store.shopping.yahoo.co.jp/nextbike/145.html
http://www.abike-uk.com/
http://www.smartcog.co.jp/Products/koma.htm
この辺になってくると最早自転車という括りすら危うくなってくる。畳むことができず嵩張りの原因となるタイヤを極限まで小さくして、多段折り畳み構造でなるべくコンパクトに。部品もアルミや樹脂を多用することで重量を軽減。その代わり走行性能はお世辞にも良いとは言えない。A-bikeの方などは重量わずか5.5kgと、100万もするようなレーサーモデルより軽いぐらいだが、段差に当たれば前転するような不安定な乗り物でもある。

超小径という遊び方

http://www.rintendo.com/Products/Robin/index.htm
極小タイヤに短かいフレーム。サイズはほとんど子供用三輪車である。
組立キットとしての販売で、好みに応じて部品を取り替えてカスタマイズも可能。もはや自転車とは別次元の何か。

ワンタッチ折り畳み

http://www.cso.co.jp/bikeshop/bridgestone/tcp12.html
http://www.mobiky-japan.com/
折り畳みは結構手間がかかる。小さくするためには前後に長いメインフレームの分割、上下に長いハンドルポスト・シートポストの分割が必要なのだが、そうすると最低3箇所を折り畳み構造とせねばならないので、3箇所それぞれに止め金を外す→フレームを折る→折った状態で固定するという作業が必要になり、これが結構煩わしい。そのうち折って仕舞うのが面倒になって外へ放置するか、逆に出すのが面倒になって乗らなくなってしまいがち。
そういうわけで「5秒で畳める」コンセプトで作られているのがこれら。折り畳みは超簡単、その代わり折り畳みサイズはあんまり小さくなかったり重量は結構重かったり走行性能も大したことなかったりする、が「気軽に近場を乗る」ならベストチョイス。

リカンベント

http://www.loro.co.jp/item/rec_tri/optima/race-stinger.html
http://www.loro.co.jp/item/rec_tri/ice/monster.html
「サドルに跨って上体を倒し、首だけ起こす」乗車スタイルというのは乗馬姿勢を引き継いだもので、自転車としての必然性は薄い。むしろ苦しい姿勢を強いられ、肉体能力を活かし切れないという側面もある。
自転車の固定観念を捨てて「楽な搭乗姿勢」「力の入れ易いポジション」を考えると、「シートに体重を預けて前に投げ出した足で漕ぐ」というスタイルに行き着く。これがリカンベントである。
安定して走れるようになるまでちょっと慣れが必要だが、乗り熟せるようになるとロードバイクより早いし楽な姿勢で長く乗れる(らしい)。
更に突き詰めると2輪である必然性もなくなってきて前2輪の間に座るトライクになってゆく。車幅が広くなり重心が低いので小回りは利かなくなるが直進は安定する。

ハンドサイクル

http://www.are-jpn.com/products/handcycle/invacare/force.html
これは小径車とは別の変わり種。本来は足の不自由な人のための「手で漕ぐ」自転車である。車椅子に組み込むタイプと専用に作られたレーサータイプがあるのだが、レーサータイプはそのスマートなデザインから健常者にも愛好家がいる。たしかにメカニカルで格好良い。
ハンドルが方向舵とブレーキとクランクを兼ねるという一極集中デザインで普通の自転車よりハード。