法の不遡及はどこまで適用されるのか

著作権法の改正論議が進んでいるようだ。著作権侵害コンテンツのダウンロードも違法になるとか(これまではアップロードは違法でもダウンロードは違法とされなかった)色々言われているようだが、ふと疑問が生じた。いや直接的に今回の件と関係はないけど。


司法上の大原則として「法の不遡及」というのがある。ある時点で定められた法により、その時点より過去の罪を裁いてはならないというものだ。まあ当たり前の話で、事前に違法と知り得ない状況での行為を裁くわけには行くまい。
ただ、その時点より後にまで影響することについてはどう処理するんだろうと。例えば、過去には規制されていなかった著作物が法改正により表現に規制を受けた場合、その著作物の展示や流通は法改正以降制限を受けるんだろうか。


極端な例として、死の描写が違法になったとする。直接的な殺害シーンのようなものだけでなく、病死や老衰死なども含めて作品中に死のシーンが登場することは多いから、多分億じゃきかない数のコンテンツが法の対象となるわけだが、これ全部回収処分とするのは色々な意味で非現実的だ。
じゃあ以前のものは不問として、今後の制作のみを規制する?どれが規制以後のものか峻別するのも困難じゃないだろうか-----業務に拠らぬ著作は特に。
結果として、大量の「違法な」コンテンツがそのまま流通するようであれば、以後の法規制など何の訳にも立たない。これが本のようなアナログメディアであれば、新たな著作だけでなく出版も違法とすることで抑えようがあるかも知れないが、デジタルデータの場合は別に新たなものを作っているわけではないから禁じようもない。


ちょっと形は違うのだが、Youtubeの疑似ストリーミングが実際にはダウンロードである点について、現時点ではそれ自体違法ではない(公衆送信権を侵害しているのはアップロードした人であってYoutube運営母体の方ではないので)が、もし運営自体を違法とすることになったとして、それ以前にサーヴィスを成立させていたYoutubeはその規制を受けるんだろうか。無論、方式としては修正可能なわけだが、不遡及原則を考えると違法とはならないようにも思えるし、単に「過去にダウンロードさせていたことは不問だが以降は違法とする」のかも知れない。けれど、そうすると(前の話に戻るが)やっぱり出版された違法表現物はすべて回収させなければならない。


いや、「現実的な話」で言えばYoutubeのシステムひとつ変更だけで済む話とあらゆる出版物回収の話を同列に語っても仕方ないのだが、法律上の話としては、一方は非現実的なので不問/もう一方は現実的なので罪に問う、というのも変な話かと思って。