レビュー:推理ボードゲーム「幻影探偵団」

推理パズルというジャンルがある。たとえばこういうものだ。

ある条件に当て嵌る対象は一つだけ、という前提条件の下に情報から候補を絞り込み、マトリックスを埋めてゆくパズル。
「幻影探偵団」の基本メカニズムはマトリックス型の推理パズルである。ただし、候補を絞り込むための情報は限定的な質問と回答に依る。

■『幻影探偵団』:ハッピーゲームズBLOG:So-netブログ
登場人物は12人。これをプレイヤーに均等分配し、それぞれの探偵団の団長と団員が決まる。ただし団長のうち一人は13人目の登場人物である変幻自在神出鬼没の「影男」となり、その分で余った一人がこの事件の犯人である髑髏王ということになる。我々探偵団の目的は、髑髏王の正体を暴き、囚われの令嬢惨殺を未然に防ぐことだ──他の探偵団に先んじて。
登場人物らは館の室内に配置され、尋問が始まる。とはいえ犯人である髑髏王は直接的な証拠を残さない。従って調査は「髑髏王ではない人物を全員特定する」ことを目的として進められる。

尋問は探偵団を指名して行なわれ、その中の特定の団員について「指定した範囲内にその人物がいるかどうか」という漠然とした形で執り行われる。つまり「事件当時、団員1は館の二階の、東側にいましたか?」といった具合だ。
尋問への回答は全員の知るところとなり、これによって「ここにいた人物のいずれかが当該の団員である」あるいは「このいずれもが当該の団員ではない」ことが確定する。
尋問に代わり手元のカードを用いた捜査を行なうこともできる。なかには質問への回答を自分だけが得ることのできるものもある。そうやって一早く事件のあらましを解明する手掛かりを得なければならない。

ただし時間はあまりない。尋問の度に時間が経過し、1時間経つとおぞましき鋸の刃が徐々に文字盤を進んでゆく。これが12時のところに達した時、囚われの令嬢は哀れ真っ二つ……

単純といえば単純な構成ながら、時間の経過によって得られる「宝石」と、それに伴う団員の死(という名の情報公開)、確定的情報を攪乱する「影男」の存在が事件を攪乱する。唯一攪乱情報の影響を受けない影男はその代わりに「自らが事件の真相を解明せねばならぬ」という使命を背負う。

このゲームは2014年秋のゲームマーケットで購入したものだが、実は作者についてもゲーム内容についても碌に調べもせず、ほぼ完全にコンポーネントデザインの雰囲気買いであった。
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元々私はルールより雰囲気でゲームを選ぶ傾向があるのだが、これはその判断が功を奏した例。
プレイ中を通して昭和初期の探偵小説めいた雰囲気があり、きちんと推理している感が味わえて、遊んだ後に満足感と再戦への意欲が得られる。更には今後の拡張への期待も持てる。
ビジュアルに一切の妥協なく、しかしそれがプレイアビリティを損なっていない。敢えて言うならば箱をコンパクトに抑えるため記録シートがA5サイズに収められており、それが故に些か細かい書き込みを余儀なくされること、情報をマトリックスで整理する必要性から探偵手帳らしい雰囲気にはできなかったことが少々残念なぐらいか。ターンプレイヤー表示と尋問時の範囲区切り指定を兼ねたマーカーカードの裏までも(ゲーム的には使用しないが)犯人からの予告状になっているこだわりがとてもいい。

当初、ルールを誤解して「尋問への回答はYes/Noカードで尋問者のみに与えられる」ものとしてプレイしかかった。この方が秘匿情報が多く自分だけが推理の手掛かりを得られてもっともらしいかと思われたし、これでも結構絞り込めそうな感じだったので正式なルール(尋問およびアクションカードによる情報取得は基本的に公開情報、シークレットカード使用時のみ秘匿)では容易に解けてしまわぬだろうかと思えたのだが、実際にそれでやり直してみたところ初期はざっくり絞り易かったものが後半だんだん絞れる範囲が狭まり、確信を持てるのは時間ギリギリになってから、ということが判明。つまり絶妙なバランスに調整されていたということか。
また防御カードの運用で少々混乱した。「団長はこの3人の中にいますか?」「それには答えたくない」のように質問を受けてから受諾/拒否を選択するのではなく、尋問対象として指名された(つまり、まだ質問内容は明らかになっていない)段階で防御カードによる拒絶の有無を決め、拒絶があれば対象を変更するなどの定められた手順に従い進行、受諾されれば尋問内容を宣言、という手順であったのだが、それが少々読み取り難かった。
改めて整理すると、手番プレイヤーによる尋問は以下の手順で実行される:

  1. 手番プレイヤーは「通常アクション:尋問」or「アクションカードによる情報収集」のどちらを実行するか選択する
  2. 手番プレイヤーは選択したアクションをどの探偵団(=プレイヤー)に対して行なうかを宣言する
  3. 対象となったプレイヤーは「防御カードを適用する」or「アクションを受諾する」のどちらかを宣言する
    1. 防御カードが使われた:カードの効果に従い情報収集を無効化、または対象を変更する(これに対する再度の防御は行なえない)
    2. 受諾:尋問の内容が宣言され、対象プレイヤーがそれに回答する

それと尋問カードの使い方。最初「この行に団員がいますか」などと行/列をひとつ指定するのかと思ったが、そうではなく「館をどこの壁で2分割するか」の指定なのだった。つまり「ここから南にいますか」などと尋ねるのである。区切り位置は必ず壁に沿った東西または南北のラインのみで、斜めに切るなどはできない。
最初ちょっとわかりにくい点があるとすればこの2つぐらいだろうか。基本的にはとてもシンプルで明瞭な、それでいて悩みの多いゲームである。

遊びながら「探偵団にそれぞれ独自の設定があるのだから固有の能力があってもいいのでは」「ボードを差し替えれば別の事件を遊べるだろう」などと思ったが、作者によれば

とのことで敢えてシンプルな構成にしているようだ。不確定要素が増えると推理ではなく当てずっぽうになってしまうし、初期条件の有利不利が取り沙汰されるのも好ましくないので、これはこれで正解なのだろう。

類似作品との対比

Clue/Cluedo

Cluedo/Clue/クルー
古くからある探偵ゲーム。1949年には商業出版されている。
館の中で事件が起き、その場に居合わせた全員が容疑者で、消去法で真相を絞り込む……というあたりは似ているが、進行や推理のパターンは随分違う。Clueは(被害者ははっきりしているが)犯人、凶器、犯行現場のいずれもが不明で、「自分の手元にあるやつは違う」ことしかわかっていない状態で当てずっぽうによる推理を繰り返し、「その手札は持ってる」と公開されることで絞り込むやり方であり、あまり推理している感じはしない。

惨劇RoopeR


2011年のゲームマーケットで初公開されて以来名声を博した同人ボードゲームで、マトリックス式の消去法による真相推理に共通点がある。ただし「ゲームマスターvs他のプレイヤー全員」の協力対戦型である、真相の解明だけでなく犯人行動の阻止を目的とするなど、ゲーム構造にはかなりの違いがある。

人狼

正体当て系のゲームとしては、すっかり定番となった感がある。
2陣営に分かれ異なる勝利条件を持ち、他プレイヤーがどちらに属するのかを言動から推察するゲームだが、論理的な推理情報はほとんど得られず、推理よりも周囲の人間を説得し自らの意を通す政治ゲームという方が適切だろうと思われる。

シャドウハンターズ

Shadow Hunters [シャドウハンターズ] [並行輸入品]

Shadow Hunters [シャドウハンターズ] [並行輸入品]

2陣営に分かれた正体当てゲームという点で人狼と近いが、限定的な質問を突き付けて自分だけに判る状態で情報を得たり、数値的な条件から情報を絞り込んでゆく点でもっと論理的ではある。とはいえ全員の正体を確定させることが目的ではなく陣営の勝利条件を満たすことが目的なので、推理ゲームではない。