太陽フレアと地震の関係

太陽フレアが大地震を引き起こす」という話は初めて聞いた。率直な感想を言えば「妄想乙」だ。太陽フレアによる磁気嵐は地球の磁場を乱し無線通信などに影響を及ぼしはするが、地殻に影響を与えるなんて聞いたこともない。
とはいえ、検証もせずに無碍に却下するのも気の毒なので、ちょっと可能性を考えてみる。


磁気嵐によって地球が受ける影響は主に地磁気の低下である。変化量は0.1%程度、極めて大きな磁気嵐でも精々1%程度だが、これが地殻にどの程度の影響をもたらすだろうか。
地殻は磁場内にあって磁化されているので、多少なりとこれの影響を受ける。磁力のエネルギーがどの程度のものなのかがよく解らないが、http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1140556756によれば「0.5Tで大気圧程度」とのこと。
またWikipediaによる地磁気の説明では「地磁気の強さは場所によって異なり、磁力は 24,000 - 66,000 nT(0.24 - 0.66 ガウス)。赤道では弱く、高緯度地域では強い。東京付近は約45,000nTである」とある。nTなので10億分の1、つまり日本は0.00045Tぐらいということになる。大気圧の1/1000かそこらの力しか受けていない。それが0.1%ぐらい変動する、つまり大気圧にして100万分の1相当の変動……
これで大地震が起きるぐらいなら台風で世界が滅びる。


なおhttp://www.kakioka-jma.go.jp/knowledge/qanda.html#13を読むと、地磁気地震の関係について書いてある。地震の前後で局所的な地磁気量に変化が見られる、と。ただしこれは「地磁気が変化すると地震が起こる」という話ではなく、「地震によって(地殻構造が変動して)局所的に地磁気が変化する」という話であるので「磁気嵐が地震を起こす」ことの根拠にはならない。

と、まあここまでは理論面の話。次に、実際のデータから調べてみよう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%AA%E9%99%BD%E3%83%95%E3%83%AC%E3%82%A2に大規模フレアの一覧がある。1800年以降の主なフレアについて、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%B0%E9%9C%87%E3%81%AE%E5%B9%B4%E8%A1%A8 からフレア発生の3ヶ月後以内に世界のどこかで大きな地震があるかどうか調べてみた。
実際に地殻へ(微弱ながら)影響があるのはフレア発生期間のみ、精々1週間程度だと思われるが、「その時の地殻の動きが引き金となって遅れて地震が発生する」可能性も考慮して、フレア発生から3ヶ月後までを見ている。またフレアによる影響は全地球規模であるので日本以外の地震記録も対象とした。

フレア発生時期 該当する地震の記録
2011年2月15日 2月22日 カンタベリー地震 - M 6.3。死者・行方不明者181人。滞在中の日本人に被害が発生。
3/11東日本大震災
2006年12月5日 フレアから3ヶ月以内に当該地震なし
2003年10月23日、28日、11月4日 フレアから3ヶ月以内に当該地震なし
2001年3月31日、4月3日 2001年6月24日 ペルー沖で地震 - M8.4、死者138人。
2000年4月7日 2000年7月1日 新島・神津島・三宅島近海でM6.5。
6月4日 スマトラ島沖地震 - M7.9、死者100人以上。
1992年5月 フレアから3ヶ月以内に当該地震なし
1989年10月19日、21日 1989年12月28日 オーストラリア、ニューカッスル地震 - M 5.6、死者13人。
1972年8月4日 フレアから3ヶ月以内に当該地震なし
1960年11月13日 1961年2月2日 長岡地震 - M 5.2、死者5人
1958年2月11日 フレアから3ヶ月以内に当該地震なし
1921年 1921年12月8日 竜ヶ崎地震 - 千葉県・茨城県県境付近で発生。M 7.0。家屋倒壊、道路亀裂。
1909年9月25日 1909年11月10日 宮崎県西部で地震 - M 7.6。
1872年2月4、6日 1872年3月14日 浜田地震 - M 7.1、死者552人。
1859年9月2日 フレアから3ヶ月以内に当該地震なし
1805年 1805年7月26日 イタリア、モリーゼ州地震 - M 6.6、死者5,600人。
1805年6月16日 コロンビア、トリマ県で地震 - M 6、死者200人。

1805年、1921年については発生年しか記載がないのでその年1年を見ている。実際には3ヶ月以内の現象ではない可能性の方が高い。
1859年、1958年、1972年、1992年、2003年、2006年は該当なし。特に2003年などは10/23〜11/4までと長い期間発生しているし、また1958年は過去500年で最大のフレアであったにも関らず地震を生じていない。また逆に、1960年チリ地震や2004年スマトラ地震など規模の大きな地震はほとんどフレアに関係していない。
従ってデータから見ても、フレアと地震は無関係と考えるべきだろう。
……そもそも「フレアから3ヶ月以内に世界のどこかで規模不明な地震が起きるかも知れない」なんて、地震予知としては全く役に立たないのだけれども。


まあ太陽フレア地震説を信じている人たちが例外なく地震兵器陰謀論について言及していることを見ても、これが単なるオカルトであることを疑う余地はなさそうだ。