カメラ遍歴


いつの間にか所有したことのあるカメラも増えてきたので、メモ代わりに。

ポケットインスタマチック

最初の自分用カメラは小学生の頃、たぶん父がくれた110カメラだったと思う。厚みより前後方向が長い箱型ボディで、色は黒だったか銀だったか、もちろんメーカーなんて憶えていない。
他にも、父のOM-1を借りて撮ったりもしたが、どうも私はファインダを覗いた状態では自身の認識する視野と実際の撮影範囲をうまく切り分けられないようで巧く撮れず、次第にカメラからは遠去かっていった。

その後、写真趣味に復帰するのはずいぶん後のことだ。

SONY Cyber-Shot DSC-F505V

rikkie-camera.sweet.coocan.jp
2000年か2001年ぐらいだったろうか。どういうきっかけで買ったのかはよく憶えていないが、単にガジェット趣味のひとつだったような気がする。当時としてはハイスペックな260万画素、光学5倍ズーム機で、本体と同じぐらいの大型レンズを備え、ヒンジで上下に回転できてローアングルやハイアングル撮影が容易というフラグシップモデルだった。たぶん7万円ぐらいしたと思う。
ここで初めて「撮影イメージを確認しながら撮れる」デジカメの楽しさに目覚め、インターネットで知り合った人たちとカメラを持ち寄って撮影会をやったりした。新婚旅行の時もこのカメラを使っている(妻用にはCyber-Shot DSC-P1を買い足した)。
当時のデジカメは接眼ファインダがなく背面液晶のみで撮影するのだが、それが却って私には合っていたようだ。特にF505のようなスウィーベル機構を持つ機種では画面を上向きにしてウエストレベルで撮影するスタイルを取りやすく、その後の撮影スタイルに大いに影響を与えている。
この頃は空模様などを多く撮っており、広角側38mmでは画角が足りなかったため外付け魚眼レンズなども導入。

SONY Cyber-Shot DSC-F828

www.itmedia.co.jp
後継のF707はスルーしたが、2003年に発売されたF828は即日購入。画素数が800万となり、レンズも換算28-200mm F2.0-2.8という大口径に。しかもRGBに加え青緑画素を持つ4色CCDで色再現性を向上させた、現在でいえば「ネオ一眼」に当たる立ち位置の高級機である。実売で13万ぐらいだったか。
残念ながらこの後ソニーは(というか他社も含めて)デジカメの構造をフィルムカメラスタイルに近付けてゆき、レンズ回転機構を捨ててしまったため、乗り換えるべき後継機も出ることはなかった。今ではバリアングル液晶などで需要が満たされてはいるが、「左手を鏡胴に、右手をシャッターボタンに固定したままモニター角度を変更できる上、各種ファンクションボタンにもアクセスできる」使い勝手に優れたデザインだったと今でも思う。
既に使うことはないが処分するにも忍びなく、コレクションとして保管してある。

ローライMiniDigi

Rolleiflex MiniDigi (ミニデジ) AF5.0 ブラック 24611

Rolleiflex MiniDigi (ミニデジ) AF5.0 ブラック 24611

ローライフレックスを模倣したミニサイズのトイカメラ。デジカメとしては安物だが外装は凝っており、トイデジの範囲に収まらぬ価格だった(たしか5万ぐらいしたのでは)。
デジカメなのにフィルム巻き上げレバーを回さないとシャッターが切れないという無駄に凝った構造などに遊び心が見られる。ファインダもちゃんと上部に小さな正方形液晶があり、ウエストレベルファインダで撮影可能である。
CCDが安物のため色再現性は悪く、しかも読み出しの遅さにより風景撮影ですら手ぶれによるローリングシャッター現象を生じたが、それが却って面白く昼休みに首から下げて付近をうろついたものである。
後にCCDの性能を向上し300万画素パンフォーカスから500万画素オートフォーカスになったモデルも登場し、こちらも買い足した。またローライではなくライカM3を模したモデルもあったが、こちらは所有していない。

iPhone 3GS

カメラ遍歴としては外せない。それまでもカメラ付き携帯は所有していたが積極的に撮るようなものではなかったところ、iPhoneはカメラとしての機能それ自体よりも「画面が大きい」「撮ったものをすぐ加工/共有できる」強みで完全にメイン機の立ち位置を奪っていった。この後長いことiPhoneでの撮影を中心にして、デジカメはお蔵入してゆく。
それが覆るのは、スマートフォンでは撮りにくい接写などの需要が増えてからだ。

SONY Cyber-Shot DSC-T900

これはまあ私のというか、主に妻が使うためのものとして買ったのだが。
名刺サイズの薄型ボディに光学手ぶれ補正付きの4倍ズーム屈曲光学系を仕込み3.5インチタッチパネル液晶という、なかなかに盛り込んだ仕様で重量わずか150g、鞄に入れて邪魔にならない日常携行用カメラとして優れた代物だった。しかしこの後「スマホカメラの方が取り込む手間もないし即座に加工・共有できるし」という時代になり、この手の小型コンデジは居場所を失ってゆく。

リコー GXR

RICOH デジタルカメラ GXR+P10KIT 28-300mm 170550

RICOH デジタルカメラ GXR+P10KIT 28-300mm 170550

2013年購入。
仕事用にマクロ撮影などを主体として新たなカメラを物色していた時期で、しかしレンズ交換式は沼だと聞いていたので手を出しかねていたところ、既に事実上のディスコンだった本機が処分価格で流通しているのを発見。キットの10倍ズームユニット付きで2万弱だったと思う。これにAPS-Cセンサの50mmマクロを追加購入してしばらく使った。
「センサーとレンズが一体化したユニットごと差し替える」機構にはギミック趣味を刺激されたし、マクロレンズユニットの描写は充分に満足行くものではあったが、AFが不安定であるなど使い勝手としてはイマイチだった。
結局これが沼の始まりで、なんのかんのとレンズ交換への警戒心が薄れたことでこの後マイクロフォーサーズに傾倒してゆく。

リコー WG-3

これも2013年。なんで買ったのだったか既によく覚えていないが、レンズ前1cmまで寄っての強力マクロとレンズ周囲LEDライトはGXRのマクロとは別方向に強力だった。また落下高度2mの耐衝撃性と水深14mの防水はラフな扱いに耐え、屋外の水辺などで結構重宝した。
とりわけ小学校低学年の次女が自由に写真を撮るカメラとして活躍したが、のちに彼女に自前のiPadが割り当てられたことで役目を譲った。

Panasonic LUMIX GM1

GXRに見切りを着け、次の機種への乗り換えを再度検討していた2013年末に発売された新機種。なんといってもオールドスタイルに寄せたシンプルなデザインと、マウント径ギリギリまで削ぎ落としたスリムなボディは魅力的であり、なんとコンデジサイズの小型センサー機であるPENTAX Qよりも本機の方が小型軽量であったという。付属の12-32mmレンズも沈胴式でコンパクトなパンケーキサイズに仕上がっており、望遠の不足はあるものの広角〜標準域を押さえている。
逆に本体がコンパクトすぎるためレンズとのアンバランスが問題になる傾向があり、マウント径以上に拡がらない細身なレンズを中心としてM.Zuiko 12-50mm F3.5-6.3やLUMIX G X 45-175mm F3.5-5.6、LUMIX G 30mm F2,8 MACROなどを追加していった。
鞄に入れても邪魔にならず首に下げても負担ない小型軽量さは散歩カメラとしてたいへん重宝したが、とはいえコンパクトさ故に機能性を犠牲にした感は否めない。とりわけ方向キーの周囲をダイヤルとしたデザインは、F値シャッタースピードなどを回転で切り替えたい時に方向キーを押して機能選択が切り替わってしまうことが多く、またレバー部が飛び出した電源リングは鞄の中で引っ掛かって外れがちで2回も紛失。そうした操作性や耐久性の改善を求めて機種変更に至る。
今でも強い愛好者がいるのだろうか、発売から半年後の時点では新品で5万ぐらいだったかと思うが、ディスコンになって久しい現在でも8万ぐらいで販売している店があるようだ。

OLYMPUS PEN E-PL8

LUMIX GM1を3年ほど使った後、2017年に6万ぐらいで購入。
既にGM1用にレンズを増やしていたのでマウント替えは考慮外であり、マイクロフォーサーズ機から選ぶことは決定事項である。またGM1の欠点である方向キーとコマンドダイアルの複合構造を避けることは重要だったため、後継機であるGF9は候補から外した(GM1譲りの小型軽量デザインにチルト液晶を追加した、魅力的な機種ではあったのだが)。
コマンドダイヤルさえ使いやすくなれば、他の機能はそれほど重要ではなかった:今やどの機種でも背面液晶は可動式だし、GF9を除けばすべての機種で手ぶれ補正を備えているので、GM1より機能性が向上することは間違いないからだ。あとはサイズと価格次第ということになるが、ハイエンド機を除けば大きさも重さもさほど大きな差はない。
金額面ではLUMIX GX7が最安だがボディサイズはやや大きめ、また外観があまりに素気ない。カメラはある意味でファッションの一部であり、外観は意外に重要なファクタだ。
デザイン上の好みからすればモダンなLUMIXよりもクラシックスタイルのOM-DやPENが好ましいが、撮影スタイルから接眼ファインダ不要派であるためPENが最適と判断。オーードクスなブラック+シルバーと悩んだが、妻との共有も視野にオレンジブラウンを選択。
GM1の倍という本体重量に最初はやや抵抗を感じもしたが、代わりに得た手ぶれ補正(3軸ではあるが)とチルト液晶は撮影幅の向上に大いに役立ってくれた。

OLYMPUS PEN F

OLYMPUS ミラーレス一眼 PEN-F Body SLV

OLYMPUS ミラーレス一眼 PEN-F Body SLV

PENへの買い替え時には価格面と不要なEVF装備の点で候補から外していたが、ニコンZ登場前の「新型ミラーレス予想」の素材として使われたPEN Fが思いのほか格好良く見え、またPENよりも直接制御できる範囲が広く、手ぶれ補正も強くなることを考えると急激に魅力が増した。
当時オリンパス創業100周年で記念モデルの登場が噂されており、既にヨーロッパで限定販売されていたPENのブルーモデルがPEN Fにも来るのでは、という噂と共に花文字のFを彫り込んだボディの画像が出回っており、期待を込めてこれを待っていたのだが結局フェイクで、それどころかPEN Fがディスコンとなり買い時を逃がしてしまった。
買えないとなると却って欲しくなるもので、マップカメラの入荷情報に網を張って良品を確保。
往年のハーフカメラPEN Fとほぼ同サイズ同重量で、露出補正ダイヤルやトーンコントロールダイヤルなどマニュアル機の手触りを残した独特の操作感が好ましい。

紙幣の肖像権

20年ぶりに一新される新紙幣のデザイン案が色々と話題である。従来の紙幣レイアウトからは趣を変えた、見慣れぬデザインゆえに少なからぬ反発も生じているようだ。
デザインの善し悪しはさて措いて、五千円札に使用される津田梅子の肖像がオリジナル写真から反転されていることについて批判が出ている。




ちょっと気になったので考えてみる。

著作人格権と肖像権

著作者人格権は、大雑把に「著作権」と括られる権利のうち、譲渡できない「著作者の名誉」に関わる部分の権利である。この中に「同一性保持権」があり、著作者は改変を禁じる権利があることになっている。
写真の反転も改変であるには違いなく、従って新札のデザイン案は同一性の保持に抵触している。
ただし、この写真の場合に著作権が存続しているかどうかは疑わしい:現在もなお著作権が存続しているためには2019年の50年前(1969年)まで撮影者が存命である必要があるが、当該の肖像写真は津田梅子が開校した津田塾大学開校当時(1900年)撮影のものであるらしく、1900年当時に撮影技術を有した人物が1969年まで生きられたかというとかなり怪しくなる。仮に撮影当時に20歳だとして89歳まで、有り得ないというわけではないが今よりも平均余命の短かかった時代の生まれであり、なおかつ数度の戦争や震災などの激動を鑑みると、存命可能性はかなり薄そうだ。
そもそも、仮に著作権が存続していたとして、反転使用に異議を唱える権利があるのはあくまでその遺族のみである。外野がどうこう言うべきところか。

(ところで今回の話とは直接関係ないが、写真の反転と同一性保持の関係性について言えば、「裏焼きかどうか」は重要ではなく、「発表された形態と差異があるかどうか」の問題になる:写真はあくまで表現の道具であり素材に過ぎないので、撮影者自らが発表に際し反転させたり修正したような場合、そこを含めて適用したものこそが「オリジナル」であり、軽々に素材の状態へと戻すことは許されないという話になる。)

肖像権の方は更に微妙だ:肖像権自体が、法的な定めの明確でない代物であり、「人権の一概念として提唱されつつある」域を脱していない代物なので、どこまでがOKでどこからがNGなのかの線引きは難しい。
そもそも顔写真の反転使用はどこまでNGなのか。人の顔は厳密ではないがおおよそ左右対称に近い構造であり、反転の違和感はさほど強くない。無論、ほくろなど目立つ特徴がある場合や髪の分け目などを非対称にしている場合、また服が左右対称なデザインでない場合などの問題は発生し得るが、当該の写真について言えばおおよそ左右対称で着物の合わせが問題になる程度でしかなく、写真をそのまま使用するのではなく絵に描き起こした上で細密銅版画に起こすのだから当然ながら着物の合わせなど修正済であり、それが肖像権を侵害すると言えるかどうか。
www.youtube.com
更に言えば、津田梅子自身は1929年に亡くなっている。著作権でさえ死後50年で消失する以上その肖像権もとうに失われていると考えるべきだろうし、だいたい生涯未婚を貫いた津田梅子には肖像権を受け継ぐべき遺族もない。

肖像の反転はNGか

「たとえ著作権や肖像権が許しても文化的にNG」的な反応も少なからず見られるのだが、他国の紙幣や日本の過去紙幣でも反転は見られる。
たとえば米1ドル紙幣のジョージ・ワシントンや2ドル紙幣のトーマス・ジェファーソンは、その元となった肖像画から反転されている。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/7/7b/United_States_one_dollar_bill%2C_obverse.jpg/2880px-United_States_one_dollar_bill%2C_obverse.jpg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b6/Gilbert_Stuart_Williamstown_Portrait_of_George_Washington.jpg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/c/c5/US_%242_obverse.jpg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/44/ThomasJefferson-Painting.jpg
あるいは日本の新旧500円札に使用された岩倉具視も反転である。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/67/Series_B_500_Yen_Bank_of_Japan_note_-_front.jpg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/26/Series_C_500_Yen_Bank_of_Japan_note_-_front.jpg
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/26/Tomomi_Iwakura_3.jpg
https://kotobank.jp/image/dictionary/nipponica/media/81306024000792.jpg
とすれば、少なくとも「紙幣の肖像画を元写真から反転で描くのはNG」ということはなさそうだ。

もちろん、写真を反転使用すること自体、原著作物としての写真の撮影意図を損ねる場合があるし肖像権の侵害となる場合もあり、軽々にすべきことではないが、それと今回の新札デザインでそれが許されないかどうかとは別の話である。

なぜ反転しているのか

反転してはいけないわけではない、という点はご理解いただけたかと思うが、それはそれとして「なぜわざわざ反転させたのか」についても考えてみよう。
新五千円紙幣のデザインは、右側に肖像画、左に額面および透かしというレイアウトになっている。この配置であれば、人物像は左向きであるべきだ:一般に顔が描かれる場合は見る者の視線が肖像の視線方向に誘導される傾向があり、それは左側の額面に向かうのが正しい。
ならば左側に肖像を配置し右に額面を置くようにすれば、わざわざ反転した肖像を作る必要もなかったのではないか、というのはもっともな疑問である。これについては「他の紙幣に合わせた」のだろうと思われる。
これまでに発行された日本円紙幣を確認すると、いずれも右側に左向きの肖像を配置していることがわかる。唯一の例外は肖像画のない二千円紙幣だが、これも右に置かれた守礼門が左向きになるようレイアウトされており、肖像と同様の視線誘導効果を発揮している。
従って新紙幣についてもこの基本レイアウトを崩さぬ形でデザインする都合で肖像の反転が行なわれたものと考えられ、この点についてはデザイン技法上妥当な判断であると思われる。

踵の高い靴を探す

左足を痛めた。
怪我というわけではない。整形外科医の説明によれば「骨密度が低下してきているため腱に引っぱられて骨が変形する」ことによる症状、なのだそうだ。アキレス腱付着部症、なのかな。
https://www.jssf.jp/pdf/pamph_akiresu.pdf

ともあれ、整形外科的症状というのは病原体による症状などとは異なり、投薬でたちどころに病原が消失し症状が治まるようなものではなく、基本的には「痛みなどの自覚的症状を緩和させつつ自然治癒を待つ」しかない。私の場合も、「骨密度を上げるためにビタミンDとKを処方するので毎日飲んでください」「痛みの方はロキソニンテープ出しときます」「あまり動かさないでください」ということで、しばらくは左足をひきずる生活となる。

要するに「腱の引っ張る力に骨が負けた」のであると思われ、実際のところ足首から下について、アキレス腱が伸びる方向に曲げると痛みを生じる。激痛というわけではないものの、自然な歩行動作の度に痛むので、自然と歩行が制限される。
逆に言えば踵を伸ばさないようにすれば痛くはない……ということがわかってきたので、歩き方が「左足を鉛直より後方に出さないように」半歩づつ歩く、もしくは「左足を前後に振らないように」外向きに90度開くことで足首に対して左右方向に振る形で歩く、といった妙な動きとなる。
常歩行よりも移動力は落ちるものの、慣れればそれなりに移動できるので日常生活に大きな支障があるわけでもない……と思っていたら、3日目にして右下半身の筋肉に硬ばりが生じた。左足を庇って動くことにより負荷が右側に集中、腰=尻=腿のラインおよび脹脛までの筋肉が張ってしまう。
わりと由々しき事態である。早急に痛みをなんとかして、歩き方を戻し、負荷のバランス改善を図らねばならない。

で。
要するに爪先=足首=膝の成す角が90度よりも鋭角になる時に痛むのだから、踵側が高く爪先側の低い靴があれば足の振り幅制限をかなり緩和でき、存外普通に歩けるのでは……と考えた。
つまり、ハイヒールである。

妻のサンダルを借りて(彼女とは背格好が割と近いため、衣類履物はサイズ的にある程度共用が可能である)歩いてみたところ、履き慣れぬ踵=爪先の高低差(およそ7cm)に起因する若干の歩幅制限こそ生じるものの、痛みに伴うバッドステータスについては概ね解除可能との知見を得た。これは僥倖。

というわけで自分用のハイヒールを物色することにした。私服ならばまだしも、流石に出社時のスーツ姿に妻のヒールサンダルを履いてゆくのは若干気が引けるので、さほど違和感のない革靴系でヒールの高いものを探さねばならない。
男性向けにもヒールのある靴というのは存在しないわけでもないのだが、わりとパンクロックな方向に走りがちで、これはこれでスーツとは合わせにくい。むしろ女性向けのものからサイズの合うものを探した方が選択幅は広そうだ。

ただ、女性用の靴というのはどういうわけか非常にサイズ幅が狭い市場で、大半は22.5-24.5cmの範囲、大きい方で25.5cmぐらいまでしか展開がない(それもサイズ表記はS、M、L、LLの4段階で0.5cm刻みでのサイズ表記がない)場合が多く、男性の足に合うサイズを手に入れるのはなかなか難しい。海外ブランドではもっと大きなサイズも普通にあるのに、国内には上記の幅しか輸入されない……などということも珍しいことではない。
大きいサイズを謳う販売店のページでも、「取り寄せになるので3〜5週間かかります」というような場合が多い。つまりは需要が少ないために国内製造がなく、在庫も持たず、注文が入ってから海外の商品を買ってくる、ということなのだろう。それはそれで致し方ないが、今回は既に出つつある体調不良への対応が目的であるから、悠長に1ヶ月も待ってはいられない。
そんなわけで無数の候補から「ヒール高さが適度なもので」「サイズが合うもので」「数日のうちに発送してくれる」商品にアタリを付けて発注する。しかし「2〜3日で出荷」とあるのに注文時に通達された到着予定日には1〜2週間の幅があり、「すぐ発送するとは言ったがすぐ到着するとは言ってない」まあそれでも1ヶ月待たされるよりはマシか。

結局期限ギリギリで半月待たされることになったが、とりあえず靴が届いた。6cmヒールは丁度良い高さで踵の痛みもなく快適に歩ける。ただ、女性用の靴はどうも幅が狭めなことが多く、甲高幅広な私の足だと圧迫感は否めない。
2足買ったうち、ボア付きのショートブーツは内側がふんわりしているせいか圧迫も少なく履ける。

ただ、折り返し部分がスーツと合わせにくい。とりあえず上部を立てて裾に入れてみたが、そうすると脱ぎ履きが若干面倒になる。
他にも、もう少し革靴らしいデザインのものも買ってみたのだが、同じメーカー(と思われる)でも素材の違いによるものか、若干キツくて甲の部分や指の付け根あたりが当たって痛む。こちらはやめておいた方が良さそうだ。やはり靴の通販は難しい。

仕方がないので路線変更する。
要は踵側が高くなりさえすれば良いわけで、「そういえば昔シークレットブーツてのがあったよね」調べてみると今でも「背を高く見せるための靴」というものは存在している。なるほど、その手があったか。
ただこれら、「なるべく自然に見せる」ために踵の内側を高めにしてはあるのだが、根本的には底上げが目的なので全体が厚底だったりする場合もあり、どの程度の傾斜が付けられているかは履いてみないとよくわからない。
東京駅八重洲口側に専門店があるとのことで、行ってみた。
www.tallshoes-s.jp
特殊需要向け製品であるので、店舗もそれほど大きくはない。壁には代表的な製品がワンサイズだけ展示してあって、それ以外のサイズは声をかけて探してもらう感じのようだ。
スエードのショートブーツ風のものを履いてみた。傾斜はゆるめだが用途的には十分か。靴底はエア入りなのか弾力感があってクッション性が高く、負担は少なそうだ。サイドジッパー付きで、靴紐をしっかり結んでも脱ぎ履きに問題はない。

歩いてみた感じ、問題なさそうだったので高さは確認しなかったのだが、どうやら+8cmのようだ。「もっと高さが必要ならインソールを追加もできますよ」とのこと。

ところで世の中にが「素足を3cmぐらい底上げする」ためのシリコーン製付け踵というものも売られているらしい。

これはこれで、室内でも踵を上げ気味にしたい私には良いような、いちいち付けておくのも鬱陶しいような……

軽くてコンパクトな三脚を探す

桜の季節である。




昼の桜も良いが、夜桜も撮りたい。そうすると暗いのでシャッタースピードを落とす必要が出てくる。必然的に、手持ちでは撮影が難しいので、三脚を導入することにした。

今まで三脚を持っていなかったわけではない。しっかりしたやつはひとつ持っているのだが、如何せん重くてデカいので家の中での使用ならばともかく、持って歩く気にはなれない。
だいたい、写真というのは一期一会だ。撮りたいと思ったその時に撮れる機材が手元にあるかどうか、は非常に大きい。だからこそ画質より携帯性を採ってマイクロフォーサーズを使っているのだし、三脚についても同様に「普段から携行できる」ことが望ましい。
色々と機材を持ち歩いてみて、つくづく重さが堪えることは身に沁みている。日常の鞄は肩掛けのメッセンジャーバッグだが、その中に500g弱のiPadと400g弱のカメラ、日によってレンズ1〜3本ぐらいが入っている。鞄と合わせてだいたい2.5kg前後、これぐらいならばまあ行動に支障はないが、あと1kgも増えると重さが肩にのしかかってきて体が痛くなってくる。
つまり欲しいのは、鞄にすっぽり収まって重量も1kgを切るような軽量三脚だ。

要求性能

求めるスペックとしては、だいたい次の通り。

縮長

なるべく短かくなるもの。具体的には、普段使用しているバッグのサイズが幅だいたい35cmぐらいなので、そこに収まる程度の長さ。多少長くても斜めにすれば収まりはするが、できれば横にしてすっぽり収まるのが望ましい。よって縮長35cm以内を目安として探す。

重量

なるべく軽いこと。可能ならば500g程度だと望ましい。重くても1kgを越えない範囲としたい。

伸長

屋外で立って使うことを想定しているので、テーブル三脚のような短かいものは無視する。目の高さにレンズを合わせようとすれば150cm以上の高さが必要になるが、そこまでとは言わぬものの1m前後は欲しい。

耐荷重

少なくとも望遠レンズ付きのミラーレスを載せるのだから、せめて800g程度は支えられる剛性と安定性が欲しい。

候補を探す

軽量三脚というのは意外に多くない。そもそも三脚を必要とするのは主にレンズ交換式の大型カメラで、その重量を最上部に載せる以上はトップヘヴィで転倒しないよう三脚側にも相応の重さが求められる傾向があり、逆に軽い三脚の需要は主にスマートフォンなどを用いてセルフタイマーで撮るような方向がメインとなるため脚の短かいテーブル三脚で足りてしまう。
「小型のミラーレスと軽量三脚を携帯する」という需要自体が少ないために製品の数も少なくなってしまうようだ。
それでも、いくつか候補を探し当てたので、軽い順に紹介する。

自重500〜600gの超軽量三脚

とにかく軽さを最優先した選出。その分だけ他の性能には妥協があるが、他カテゴリに比して200gぐらい軽いというのはそれだけでアドヴァンテージだ。

SLIK 450G-8

伸長
900mm
耐荷重
1kg
縮長
315mm
自重
510g
雲台
3Way

軽量コンパクト三脚の大本命。縮長わずか315mmなので鞄に入れて邪魔にならず、重量510gという驚異的な軽さで負担もない。
その代わり耐荷重1kg、伸長900mmとやや物足りなくはある。スペックに妥協してでも軽さを求める人向け。

KING Fotopro DIGI-204

伸長
~1200mm
耐荷重
1.5kg
縮長
380mm
自重
570g
雲台
3Way

SLIKの450Gに比べ縮長が長く鞄への収まりには不安があるものの、その分だけ伸長には余裕がある。また自重はほとんど同じなのに耐荷重は1.5kgにまで増えており、そしてなんといっても安い。この金額なら駄目で元々、気軽に手を出しやすい。

SLIK Baby

SLIK 三脚 ベビースリック GR 4段 旅行用三脚 215388

SLIK 三脚 ベビースリック GR 4段 旅行用三脚 215388

伸長
970mm
耐荷重
2kg
縮長
360mm
自重
600g
雲台
2Way

ほとんどが黒一色の三脚界隈にあって水色、黄緑、ピンクのパステルカラーが特徴的な軽量三脚。自重600gながら耐荷重は2kgと、結構余裕がある。ただ雲台は縦向きに開けない2Wayなので使い勝手はやや劣る。

縮長を抑えたコンパクト三脚ファミリー「エアリー」シリーズ

縮長のコンパクトさを念頭に作られた三脚で、わずか300mmから伸長1014mmという伸び率が魅力的。同じSLIKの三脚としては450G-8に比べやや重いが、これは削り出しの金属球を用いる自由雲台の採用が影響しているものと思われる。脚を大きく開くことができるため最低地上高158mmでのローアングル撮影も可能で、運用の自由度は高い。流石にLサイズでは縮長40cmを越えてしまうが、その代わり伸長1543mmのアイレベル撮影が可能。

SLIK エアリーS100

伸長
1014mm
耐荷重
1.5kg
縮長
300mm
自重
750g
雲台
自由雲台
SLIK エアリーM100

伸長
1241mm
耐荷重
1.5kg
縮長
350mm
自重
895g
雲台
自由雲台
SLIK エアリーL100

伸長
1543mm
耐荷重
1.5kg
縮長
417mm
自重
980g
雲台
自由雲台

機能性を突き詰めた超コンパクト三脚

パイプ断面の形状により、ひねるだけで固定できる脚ロック機構を持ち、素早くセッティング可能な三脚。またロック金具が省略された分だけ縮長を稼ぐことができ、300mmを下回る驚異的な縮長を実現している。コンパクトさを求める場合の本命。

Velbon UT-3AR

伸長
1355mm
耐荷重
1.5kg
縮長
295mm
自重
786g
雲台
自由雲台

耐荷重2kg以上

軽量三脚の中では比較的重いカメラを支えられるカテゴリ。使うカメラによっては再軽量だけが最適解とも限らない。

SLIK スプリント MINI II

SLIK 三脚 スプリント MINI II GM N 4段 旅行用三脚 106556

SLIK 三脚 スプリント MINI II GM N 4段 旅行用三脚 106556

伸長
1090mm
耐荷重
2kg
縮長
350mm
自重
780g
雲台
自由雲台

エアリーS100ほど縮長がコンパクトでないが、その分耐荷重に余裕がある。こちらも脚を開いて最低地上高150mmのローアングル対応。

KING Fotopro X-Aircross 1 Carbon

伸長
1315mm
耐荷重
2.5kg
縮長
380mm
自重
820g
雲台
自由雲台

カーボン三脚。耐荷重2.5kgと比較的余裕のある方だが、縮長380mmとやや長め。

KING Fotopro X-Aircross 1 Aluminum

伸長
1315mm
耐荷重
2.5kg
縮長
380mm
自重
960g
雲台
自由雲台

Fotopro X-Aircross 1のアルミ版。重量がわずかに増えた代わりに金額は2/3。65gの重量差にこだわるのでなければこちらの方が手軽ではある。

Manfrotto Compact Light

伸長
1310mm
耐荷重
1.5kg
縮長
398mm
自重
816g
雲台
自由雲台

耐荷重が足りていないが、他のカテゴリに入れるに入れられなかったので暫定的に。
どうにも競合に対して優位性が見られない微妙な性能。

高級カーボン三脚

このカテゴリは重いカメラを支えるに充分な剛性と安定性を、それにしては極めて軽くコンパクトに持ち運びたいという、プロ向けの機材である。その分だけ価格も相応に高価い。

SIRUI T-1205X

伸長
1305mm
耐荷重
10kg
縮長
340mm
自重
900g
雲台
別売
GITZO GT0545T

GITZO 三脚 トラベラー 0型 カーボン 4段 脚のみ GT0545T

GITZO 三脚 トラベラー 0型 カーボン 4段 脚のみ GT0545T

伸長
1225mm
耐荷重
10kg
縮長
366mm
自重
1055g
雲台
別売

選定

縮長が35cm以内に収まるのは軽い順にSLIK 450G-8、SLIK エアリーS100、Velbon UT-3AR、SLIK スプリント MINI II、SIRUI T-1205Xの5本のみ。
もっとも軽い450Gは次点のエアリーS100の2/3しかなく、この点で圧倒的といえる。その代わり耐荷重も2/3になってしまうので、それを許容できるかどうかが分かれ目だろう。
逆に耐荷重1.5kgは欲しいということになればエアリーS100とUT-3ARには重量も縮長もほとんど差がないが、それだけに「ひねるだけで脚を固定/解除」というクイック操作のUT-3ARに軍配が上がる。
耐荷重2kg以上の枠ではコンパクトさを採ってSLIK スプリント MINI IIか耐荷重の高さと伸長を採ってFotopro X-Aircross 1 Aluminumか。重量ほぼ変わらず価格が1.5倍のカーボン版にする理由は薄い。

異世界禁忌

小説家になろう」などを中心に異世界ものを色々読んでいると、話の面白さとは別のところで「粗が目に付く」場合が少なくない。
基本的には物語の大筋には関わらない、重箱の隅をつつくような話ではあるのだが、実は意外に世界設定の根幹と関わってくるような部分が適当に扱われていると、細かい積み重ねが全体の迫真性を損うことにもなりかねないのではないかと思う。
以下はそうした「私が気になる」部分を列挙したものである。

単位

単位系は量を想像する目安として使いやすいため、意識的にせよ無意識にせよ慣れた単位を安易に使いがちである。しかし世界が違えば基準も違うのが当然であり、どうしても現世地球の単位系に寄せないと説明が難しいというのでもなければ、異なる基準単位を設定しておくか、あるいは単位には言及しないようにするのがいいだろう。

長さ

日本では一般的にメートル法が使われるが、これは元来「地球の大きさを計算し、子午線弧長(つまり「赤道から極までの長さ」)を一千万分割した長さ」を基準としたものである。従って異世界に於いてメートル法を基準とした距離単位、センチメートル・ミリメートル、キロメートルなどが存在するはずはない。
もちろん、「偶然にも」およそ1メートル程度の距離単位が採用されている……という可能性がないわけではないが。

現実世界の単位の中では、1ヤードが0.9mほどと比較的近い長さを持つ。が、副単位フィートとの関係性は1yd=3ft、更に副単位インチとの関係性は1ft=12inとなるためセンチやミリなどの単位とはまったく合わない。

伝統的な長さの単位はだいたい「身体尺」すなわち体の大きさを基準として決められたようなものが多い。たとえば「指先から肘まで」を基準とするキュビト、足の大きさに由来するフィート、他にも「太陽が地平にかかっている間に歩ける距離」に由来するスタディオン、などがある。
こうした単位は身体感覚にフィットして扱いやすい反面、基準が厳密でないために人によって、地域によって、時代によって単位が変動する扱いにくさもあり、商取引などの発達に伴い「どこの地域でも共通で使える明確な単位」が要求されるようになってゆくのだが、逆に言えば国際共通単位が協議されるような近代的時代性でもなければむしろ国によって違いがあるぐらいが普通ということでもある。

重さ

日本で扱われるのはグラム単位で、これは「水1立法センチメートルの重さ」が基準となっていた(正確には1リットルの重さである1キログラムの方が基準単位なのだが)。
異世界でも水は水として存在すると思われるので水を基準とした重量単位が作られても不思議ではないが、長さの単位が違えば基準となる体積も異なるため、グラムに近似した単位系が作られる可能性は小さい。

伝統的な単位系では1ポンドが450gほど、1貫が3.75kgなど単位がぜんぜん合わない。しかしこの400g前後の単位系はむしろキログラム単位よりも手に持った時の重量感とマッチするという話もあり、感覚的単位系としては相応しいのかも知れない。

重量単位は穀類の取引などに用いられるものが起源となったため、たとえば「麦180粒の重量」などが基準単位として用いられ、そこから「一定単位の穀類と等価で取引される量の貴金属」が貨幣として定量化され、同時に重量単位にもなったりしてきた。その名残りなのかどうか、たとえば日本の五円玉は1匁=3.75gなのだそうだ。

時間

時間の単位は地球の自転周期を基準に定められており、1周期=1日を24分割して「時」、60分割して「分」さらに60分割して「秒」が定められるが、異世界の1日が地球の1日と同じ長さであるとは限らない。24や60で分割されたのにはそれなりの理由があり、これは異世界でもそうなる可能性があるものの、必ずしもその長さが丁度良いとも限らない。たとえば江戸時代までの「一刻」は現代のおよそ2時間相当だったし、ついでに日の出と日没を基準に分割するため時期によって長さが変化した。
また1年が365日程度であるのは地球の公転周期がたまたまそうであったに過ぎず、1ヶ月が30日程度であるのも月齢の周期に合わせたものであって、異世界の1年や1ヶ月がそうであるとも限らない。
1週間が七曜であるのは更に理由がなく、単にバビロニア天文学で定めた天体の守護日が各地に伝わったに過ぎない。江戸時代まで日本は六曜だったし、五曜制や十曜制を採った地域もあった。もちろん「月」曜日や「日」曜日はまだしも、火や木などが曜日に使われるべき理由もない。

ところで時間の問題とは少し異なる話だが、実は地球に於ける月というのはなかなかに特異な存在である。主星たる地球のサイズに比して衛星である月が過剰に大きく、地上から見た時の視直径が太陽とほぼ等しいという偶然の故に、月と太陽の重なり具合によっては輝きを完全に覆い尽くせず「金環蝕」などが生じる。他の世界では、同様の光景が見られる可能性は低い。

数字

現在の世界では主に十進法が用いられているが、古くは十二進法も少なからず用いられてきた。今でも1ダース=12や1グロス=144などの個数単位はその名残りだし、1フィート=12インチなど長さの単位としても残存している。
言うまでもなく十進法は両の手指を折って数えたことによるものだが、10という数は分割しにくい。翻って12は4分割できるために(少なくとも10よりは)都合が良く、それもあって時間単位は12分割および10と12の公倍数である60分割を用いたのではないかと考えられる。つまり異世界でも(人類の手指が5本ならば)10進数と12進数が混在し、時間がそれらを基準に分割されるとしても不思議はない。

ところで数の進法は当然ながら物量の単位系や貨幣単位にも影響する。十二進法を基準とした数体系を持つ文化では12個がひとまとまりの単位となるし、通貨も12枚単位で両替されるだろう(そもそも桁の繰り上がりが10ではなく12ごとなのだから当然だが)。
とはいえ、必ずしも10や12単位であるとは限らない。日本は古くから十進法だが、通貨は金貨の単位である「両」の下は1/4にあたる「分」、更にその1/4である「朱」と十進数に沿っていない。銀貨は重量単位で使われていたため銀1貫=1000匁=10000分と十進数基準であり、「銭」の方は枚数で扱うために十進数準拠でありながら(少額貨幣であるため)しばしば紐に通して一定数をまとめて扱う習慣があり、100枚をまとめた「銭緡」はどういうわけか96枚1セットで100枚分として扱われる慣習があったそうだ。
翻って現代では、通貨単位はほぼ10進法に準拠しているが、両替単位は必ずしも1:10のみではなく、日本円では5円・50円・500円など半額通貨が存在するし、20ドル紙幣のように倍額通貨も使われる。

方位

方位は身体を基準としたローカル座標としての「上下前後左右」と、グローバル座標である「東西南北」が存在する。
このようなローカル方位になるのは、人間が重力圏内という「上下」のある場所に生息し、また移動方向である前後軸に対して左右で対称な構造を有しているからだ。これが水を漂うクラゲのような生き物だったら上下の別はあるが前後左右の区別はないし、重力のない世界だったら進行方向の区別による前後があるだけで上下左右がなくなるだろう。
グローバル方位が4分割であるべき理由はそれほど強くないが、「ある方角の逆」を示すために線対称構造ではあるべきだろうし、また均等分割であるべきとは思われ、従って5方位や7方位は使われにくいと考えられる。
まあ現実問題として「東西南北」の4方位以外の方位を作ると、それを示すための語を当てる必要に迫られるため描写も読解も困難になるという事情もあり、こればかりは現実と同じ4方位を継承するのが妥当だろう。

言葉

当然ながら異世界で現実世界の言葉が使われているはずもないが、作者も読者も現実世界の言葉しか理解できないのだから、ある程度は「翻訳」と考えれば飲み込める。もちろん「明らかに異世界にはないもの」に由来する言葉の使用は避けた方が良いが、そうとは意識しにくい言葉も少なからずあり、切り分けは容易ではない。
むしろ単語そのものよりも、「異世界の語にはないはずの概念」が使われる方が雰囲気を壊すだろう。たとえば等級を示すのに「一等」や「特級」などはわかるが「S級」のような使い方は「そのSってなんだよ」という気分になる。それよりは「金/銀/銅」などの方が相応しかろう(異世界でも金属の希少性評価が同じなのか、という別の疑念は持ち上がるものの)。
逆に言えば、そういった部分に「現実世界とは違う」概念の適用を演出できれば、それだけで異世界感をぐっと高めることができる。

もちろん転生ものなどでは、主人公視点に限れば異世界にない概念を用いても問題はない。しかし他のところでは使われないよう、切り分けが必要になる。

本好きの下剋上 ブックガイド

累計部数100万、2017年・2018年の「このラノベがすごい!」で連続1位という人気作「本好きの下剋上」が、ようやくアニメ化されることになった。
booklove-anime.jp
話題となったので、今から読んでみようという人も多いだろう。しかし刊行数の多さで混乱しがちと思われるので、ガイダンスを書いてみた。

本好きの下剋上」とは

2013年9月から2017年3月まで、3年半にわたり「小説家になろう」で連載され続けた異世界転生ビブリオ・ファンタジー。「本のためなら死んでもいい」書痴娘が、本の手に入らない世界に転生し「だったら自分で作ろう」と奮闘する物語である。
原作となる「小説家になろう」版のほか、TOブックスから刊行中の書籍(現在第四部の半ば)、ニコニコ静画ほかWeb漫画サイト各所で連載中のコミカライズ(第一部完結、現在第二部・第三部平行連載中)がある。

書籍版公式サイト

www.tobooks.jp

漫画版(ニコニコ静画)

seiga.nicovideo.jp
seiga.nicovideo.jp
seiga.nicovideo.jp

本好きの下剋上」はそのタイトル通り、なんの力も持たない貧しい平民の病弱な幼女が、「好きなだけ本を読める世界」の実現を目指して成り上がってゆく物語だ。出世のたびにできることが増え、関わる世界が拡がり、引き起こされる事件が大きくなってゆく。
本作は全五部で構成され、それぞれに主人公の立場が変化し、それを取り巻く環境も大きく変わる。
そのうち第一部および第二部までがアニメ化されるのは確実と見られるが、第三部以降がどうなるかは今のところ不明。
各部の概要を解説する。

第一部

平民編。本を作るために、まずは紙(もしくはそれに代わるもの)を作ろうと奮闘する主人公が、しかし生来の虚弱ゆえに自分自身では何もできず周囲を振り回す。
当初は本を読めないことの絶望と、「見知らぬ家族」への馴染めなさから本作りへの希望に逃げ込み、身勝手な振る舞いを見せるものの、徐々に周囲の人との絆ができ、助け合うようになるまでの成長物語……なのだけれど、序盤の身勝手さで嫌気がさして読むのを止めるという人も少なくない。とりあえず中盤からの重要キャラ、商人ベンノが出るぐらいまでは読んでいただきたいところだが、どうせなら完結済のコミックス第一部(全7巻)から読み始めた方がマイルドかも知れない。

漫画

第二部

神殿編。厳格な身分差のあるこの世界で、貴族社会と平民社会の間に位置する神殿を舞台に、高級品である紙の主要顧客となる貴族との付き合いや、その貴族相手に商売する高級店のやり方を学んでゆく。
第二部もコミカライズされている(第一巻が4月末に刊行予定)が、書籍版で3冊分の第一部を描き終えるまでに3年かかったことを鑑みるに、第二部4冊分も完結までには4年ほどかかると思われ、アニメ放映までに第二部を漫画で読み終えることはできそうにない。ここは書籍版で予習しておきたい。

第三部

貴族編。平民のままでは守り切れなくなったため、貴族としての経歴を与えられ、領主の養女として生きることに。一気に権限が大きくなったので製紙・印刷が急進する一方、取り巻く社会も拡がり、関わる事件も大きくなってゆく。
コミカライズは第二部と平行で進められており、第三部の方が若干早くに刊行されているため漫画で追う人は買い間違いに注意。

第四部

貴族の子供たちが通う魔法学校編。ここからは大人の庇護を離れて子供だけで貴族社会を乗り切ってゆくことになるが、なにぶん貴族の(というかこの世界の)常識に欠ける主人公はあちこちで騒動を巻き起こし、その報告を受けて保護者たちが頭を抱える。
現在書籍が刊行中、コミカライズは未定。また、外伝が1冊刊行されている。

書籍

E-M1X:手ぶれ補正のウェイト/コストパフォーマンスを考える

オリンパスが世界最高の手ぶれ補正を誇るフラグシップ機「OM-D E-M1X」を発表した。
www.olympus-imaging.jp
ボディ内手ぶれ補正機能のみで7.0段、レンズ側の手ぶれ補正機能との連動によって7.5段という飛び抜けた性能である。7段の補正があればISO25600が必要だった明度をマイクロフォーサーズの基準感度であるISO200で撮影可能だということになり、増感ノイズに不利のあるマイクロフォーサーズにとっては大きな意義がある。
反面、マイクロフォーサーズ機とは思えぬサイズと重量、そして価格に対しては懐疑的な声が少なくない。「マイクロフォーサーズのくせに」 的な表現はともかく、要約するならば「これだけの重さを我慢してでも使うべき/この金額を払ってでも手に入れるべき性能なのかどうか」に尽きる。

カメラというのは高いものでも安いものでも基本的な機能自体にそう大きな差はない。ならば何に対してその差額を支払っているのかといえば、要するに「限界の高さ」、性能ギリギリを攻めた時に「どこまで使いものになるか」の余裕の違いだ。普段そこまで使うことはないとしても。
個々の性能について優劣を競うことは可能でも、「大きさや金額に見合う性能か」を問うことは難しい。そのあたりは価値判断の問題で、どうしても必要な性能ならば重量も価格も障害とはならないし、逆に制約があるなら性能を諦めざるを得ない。
つまり価格や重量と性能は比例的関係になく、個々の要不要は段階的であるため価値を相対化するのが難しい。
しかしそれでは「性能の割に高い/安い・軽い・重い」といったことを判断しにくいので、乱暴なやり方ではあるが「補正力1段分あたりの重量および価格」を計算してみた。

手ぶれ補正力の重量・価格比

現時点でボディ単体での販売がある、5軸手ぶれ補正搭載の全機種について、価格.comに記載された最安価格とカタログスペック上の重量(バッテリ等を含む起動時の重量)を手ぶれ補正の段数で割って、補正力1段あたりのパフォーマンスを算出した。

メーカー 機種 手ぶれ補正 重量 重量比 価格 価格比
オリンパス OM-D E-M1X 7段 997g 142g/段 ¥328,530 ¥46,933/段
オリンパス OM-D E-M1 mk2 6.5段 574g 88g/段 ¥159,988 ¥24,614/段
オリンパス OM-D E-M5 mk2 5段 469g 94g/段 ¥59,938 ¥11,988/段
オリンパス OM-D E-M10 mk3 4段 410g 103g/段 ¥52,731 ¥13,183/段
オリンパス PEN F 5段 427g 85g/段 ¥95,000 ¥19,000/段
メーカー 機種 手ぶれ補正 重量(本体/起動時) 重量比 価格 価格比
パナソニック LUMIX DMC-GX7MK2 4段 426g 107g/段 ¥39,980 ¥9,995/段
パナソニック LUMIX DMC-GX7MK3 4段 450g 113g/段 ¥71,979 ¥17,995/段
パナソニック LUMIX DMC-G8 5段 505g 101g/段 ¥82,600 ¥16,520/段
パナソニック LUMIX DC-G9 6.5段 658g 101g/段 ¥125,968 ¥19,380/段
パナソニック LUMIX DC-GH5 5段 725g 145g/段 ¥172,000 ¥34,400/段
メーカー 機種 手ぶれ補正 重量(本体/起動時) 重量比 価格 価格比
富士フイルム X-H1 5.5段 673g 122g/段 ¥178,769 ¥32,503/段
メーカー 機種 手ぶれ補正 重量(本体/起動時) 重量比 価格 価格比
ソニー α6500 5段 453g 91g/段 ¥96,572 ¥19,314/段
ソニー α7 II 4.5段 599g 133g/段 ¥103,591 ¥23,020/段
ソニー α7R II 4.5段 625g 139g/段 ¥174,868 ¥38,860/段
ソニー α7S II 4.5段 627g 139g/段 ¥238,804 ¥53,068/段
ソニー α7 III 5段 650g 130g/段 ¥187,381 ¥37,476/段
ソニー α7R III 5.5段 657g 119g/段 ¥265,820 ¥48,331/段
ソニー α9 5段 673g 135g/段 ¥370,000 ¥74,000/段

5段手ぶれ補正機構を搭載したカメラの中で最安なのは、既に後継機が登場し絶賛型落ち中のLUMIX GX7mk2である。5軸補正機の中では4段分と性能はやや劣るものの、4万を切る価格は飛び抜けて安い。そのため手ぶれ補正力の価格比は突出しており、また小型で軽い機種のため重量比も悪くない。入門用や手軽なサブ機などにおすすめできる。
価格比では発売時期がやや古いOM-D E-M5 mk2、エントリーモデルのOM-D E-M10 mk3が続く。マイクロフォーサーズ以外ではソニーα6500が比較的コストパフォーマンス高めだが、PEN Fとの比較では若干見劣りする。全体に、安価軽量で手ぶれ補正に優れたマイクロフォーサーズの優秀さが見える結果だ。

本体重量が軽いのはOM-D E-M10 mk3だが、補正力の弱さから重量比では最高とは言えない。11gほど重量が増えるものの5段の補正力を持つPEN Fが、軽い割に強い補正力で優れている。ただ価格は少々高めで、気軽には勧めにくい。
面白いことに、本体価格ではもう一段高いLUMIX DC-G9が、手ぶれ補正力の高さゆえに価格比では近い数字を叩き出している。というか6.5段で13万弱って、安すぎませんか……

肝心のOM-D E-M1Xは、バッテリ2個搭載ということもあり重量比142g、価格比も¥46,933と、コストパフォーマンスはあまり良くない。バッテリ装着時の重量でいえばLUMIXのGH5に続いて悪い値で、価格比でもα9ほどではないものの4番目に悪い数値だ。もちろん、これらの数値は手ぶれ補正のためだけにここまで嵩むものではなく、他の様々な性能を加味して判断すべきものだが、とはいえ「既に6.5段分が実現されているところで+0.5段のわずかな違いにそこまで出せるか」という観点で見ると、たしかに厳しいものがある。

E-M1Xの真価

このように、単純に重量や価格との比較で見るとE-M1Xは「お買い得とは言えない」。とはいえ、他メーカーを突き放す絶対的手ぶれ補正能力に加えて「手持ちハイレゾ」や「電子NDフィルタ」といった他機種では得られない機能は、それだけのために重量を我慢し高い金を払っても惜しくないと思わせるものがある。

E-M1Xは恐らく「最高の手ぶれ補正」だけを突き詰めて作られた機種だ。レンズとのシンクロで最大7.5段、「手持ちで4秒が実用域」という恐るべき性能をまずは現実のものとし、「だったら何ができるか」を問うた結果としてライブNDによる「日中でもスローシャッターを常用する」カメラが実現した。ND2〜32相当、即ち最大5段分のスローシャッターを、フィルター装着も三脚利用もなしに、気軽に利用できる。そのことに価値を見出すかどうかが、E-M1Xに対する評価の分かれ目ではないかと思う。