世田谷 放射性物質陰謀論

世田谷で検出されたホットスポットは、民家の床下から古いラジウム夜光塗料らしき壜が発見されたことで決着した。
が、これを「実は福島原発由来の放射性降下物であったことを隠すための陰謀ではないか」などと唱える一派がいる。
検証する。


まず、経緯を確認しよう。
世田谷の路上で2〜3μSv程度の放射線を検出。すわ原発事故由来の降下物かと騒ぎに。
しかし降下物なら(落ちて溜まるので)下の方が高くなりがちだが何故かそうなっていない。しかも除染しても線量さして変わらず。ということは

  1. 降下物由来の放射線ではない可能性が高い
  2. 線源が別にある可能性が高い

ということが判る。
また、γ線スペクトルを測定したところCs-137のものとは異なる結果が出た。この時点でBi-214のものであることがほぼ特定され、親核種はRa-226であろうと比定された*1
いずれにせよ最初に放射線が確認された垣根/板塀そのものではなく周辺のどこかが線源であることは明らかであり、測定器を持ってより高い線量の場所を探る形で大元を特定、床下から高い線量を持つ壜が発見された。その後の報によれば壜には夜光塗料の旨表示があり、Ra-226を含んだ放射性夜光塗料の壜と考えられる。


さて。
これはつまり、「原発由来の降下物よりもっと強い線源が(恐らくは数十年)床下に存在し続けた」という事件であり、放射線の被害面を考えればむしろ事態は深刻なのだが、その点はひとまず措く。また「原発事故があったからこそ線量が測定され、結果として発見された」という怪我の功名的な話でもあるのだが、それも措く。
今考えたいのは、これが「原発由来ではなかったことにするためのカムフラージュ」であるという論が成立するかどうか、だ。


そもそも、放射性物質の種類はスペクトル分析で確認されるので、別種の放射性物質でカムフラージュするのは難しい。赤い光が確認された場所に緑の光を当てて赤をなかったことにしよう、みたいな話だ。カムフラージュ側の線量がよほど強ければ埋もれて見えなくなる可能性もあるが、今回はまず外側で僅かな線量が確認されたところから始まっているので、それを完全に覆い隠すほど強い線量で糊塗されたらむしろ不自然であり、かといって不自然でない程度の線量では隠すことができなくなる。つまり、無理だ。


まあ「放射線が検出されて騒ぎになる前から仕込んであった」ならCs-137が確認できないぐらいの線量に調節することも可能かも知れない。しかしそもそも今回の騒ぎの元となった検出量そのものが決して強いものではなかったわけだから、その程度で隠せる量ならさらに微量ということになり、隠す理由そのものがなくなる。


また、(これが原発由来降下物によるホットスポットであると仮定するなら)「今回は偶々『放置された放射性物質があっても不思議ではない』場所が近くにあったからカムフラージュできた」だけで、どこに降るかわからない以上はそうやって隠そうという計画そのものに無理がありすぎることになる。
ついでに言えば「管理されていない放射性物質」をそう都合良く適度な分量だけ入手して仕込む、なんてことが短期間でできる筈がない。可能だとすれば「こういう時に備えて大量に隠し持っている」ことになるが、そういう大掛かりな陰謀は実行前に確実に露見する。秘密は大掛かりであればあるほど関与する人間が増え、不自然な点が増えて露見のリスクが高まるものだし、コストばかりかかってメリットがないものだ。


まあ、つまり「他の様々な陰謀論と同様に」この陰謀論もまったくもって無理筋、という結論になる。

*1:Bi-214の半減期は20分弱であるため、継続的に検出されるということは継続的にBi-214が生成される状況であるということになり、大元に別の放射性物質があることは明らかである。また放射性物質は放射崩壊による核種変化のパターンが一定しているため孫核種から親核種を突き止められる