なるほど、それでJASRACが嫌われるのか


線がはっきりわかって誰もニコニコしていないのと、線はおぼろげで見えないけどみんながニコニコしているのとどちらがよいか
ああ、そうか。ずっとJASRACに対して引っ掛かっていたのは、それだ。


著作権侵害というのは親告罪だから、権利者が訴えなければ罪には問われない。それで、普通は明らかに営利目的での無断利用であるとかあまりに大規模な侵害というような、悪質なケースでなければ黙認される。厳密に言えばパロディ同人誌なんて侵害の塊のようなものだし、MADヴィデオ系だって映像や音楽などを無断使用しているわけだが、これらは実質的に権利者の持つ利益を侵害してはいない(どころか、裾野の広がりはむしろ市場の拡大を伴い、却って利益拡大に繋がるのではないかとの見方もできる)。


だがJASRACは、個人利用まで含め非常に広範囲に侵害を追求する。何故か?それは、そうした行為全般が単純にJASRACの利益を侵害するからだろう。
極論、JASRACにとって著作者の作品が売れるかどうかなんてことは問題ではない。販売の委託を受けているのではなく、使用料の徴収を委託されているに過ぎないからだ。彼らが守っているのは著作者の権利ではなく、自分の権利だけである。


ところで他人による権利侵害には明確な線引きを迫るJASRACだが、それに反して外部への報告については線をぼかしにぼかしている。実際の使用回数を厳密に収集するようなことはなく使用料の徴収は丼勘定、そこからの分配についても算出基準はまったく明かされない。
独自に音楽配信を行なうなど積極的な著作物管理を行なっている平沢進氏のインタヴュー記事の中で、これに触れた一文がある。


実際に、平沢氏に対して支払われている録音補償金のリストを見せていただいた。これをよく見ると、面白いことがわかる。1993年にリリースされたP-MODELのアルバム「big body」に収録されている、「BIIIG EYE」と「BIG FOOT」という2曲に注目してみた。


 録音補償金は、過去4年分に遡って支払われているが、この2曲を見ると、CDの売り上げ枚数のところが「0」となっている。なにぶん古いアルバムのことであり、現在は入手難のため、これはわかる。


 だが補償金の徴収料金は、「BIG FOOT」が245円、「BIIIG EYE」が172円と、違いが出ている。同じアルバムで売り上げなし、しかもどちらもシングルカットされていない曲でなぜ補償金の額が違うのか。もちろん JASRACは、各曲が誰がどんなメディアに何回コピーしたかなど、まったく関知していないし、調べる手段も持っていない。

このように、JASRACは自身の著作権使用料配分についてまったく明らかにしていない。「線がおぼろげな」状態だ。しかし他人に対しては、それが一個人であってもはっきりした線を求める。この非対称性に感じる違和感は大きい。


同じことはプロモータに対しても言える。


JASRACで集金されたお金は、この出版会社を通るだけで50%引かれて、アーティストへ戻るという構造があるんですね。出版会社は“プロモーションに努める”と言いますが、成果は保障せず、どんなプロモーションをするのか何度説明を求めても、回答しないことがほとんどです。大きなセールスが期待できるアーティストについては積極的に動きますが。
自らの権利については明文化して一部の隙もなく固めてくるが、その対価については ナアナアで済ます。言い切ってしまえば、著作権に関わるビジネス自体がこうした非対称性を体質として有しているのだろう。