残業させる同調圧力と残業申請させない同調圧力

残業とは本来の勤務時間外に、業務上必要があると認めた場合に上司の命令で労働を行なうものである。従って理由なく残業してはならない。
つまり、どうしても残業しないと間に合わないとか、勤務時間外にしか作業できないなどの理由がない限りは定時でさっさと帰るのが正しい労働のあり方である。
が、残業が当然になっている職場というのはあるもので、その中で一人さっさと帰るというのはしばしば周囲から「不公平」と見做され、場合によっては圧力を受ける。圧力といっても具体的な脅しはないが、それでも全同僚からの無言の非難はそれだけで充分なものと言えよう。
まあその考えも判らぬではない:皆が手一杯の中で一人定時に上がる余裕があるのだとすれば、余剰分をそちらに振り分けるのが筋、ということだ。
それが例えば作業効率から来るものだとしても、同量の仕事を割り当てるよりは有能な人に多くを振り分けるようにするのもマネジメントとしては理解できる(その分の給与もまた余分に支払われるのだとすれば、だが)。
ただ、その場合でもあくまで残業は上司を通して命じられるべきものだし、労働量の不公平さについても訴えるならば上司のマネジメントに対してであるべきだ。同僚や他部署から圧力を受ける謂れはない。


ところで残業とは契約外の労働であり、相応のペナルティがある。具体的には残業手当である。
勤務終了から22時までの夜間残業は勤務時間内賃金の25%増し、それ以降の深夜残業は50%増しで労働時間に応じた金額を支払わねばならないから、会社としては原則残業は避けるべきものである。尚且つ単位期間あたりの労働時間には制限があり、いくら忙しかろうとそれを越えてオーヴァーワークさせるわけには行かない。
しかし現実問題として、(とりわけコストパフォーマンスの悪い制作現場や時間要求の厳しい開発現場などでは)オーヴァーワークを前提としてスケジュールを組まねばならなかったり「金はないが働かせる」ようにせざるを得なかったりする。こうした場合、会社として労働基準法違反を隠蔽するため、または経費削減のために残業を記録させない、または実労働時間より短時間しか記録させない(月30時間分までしか支払わないなどの措置もよく聞く)という例が非常に多い。無論はっきり言明しては問題になるから、管理職からは何も言わないが労働者側で自主的に「そういうことになってる」と伝達させるなどの手法で周知される。これもまた同調圧力によるものだ。


全般に日本は同調社会であり、個々の能力や都合に応じて異なる状態を好まない。全員が足並み揃えて同じことをし、同じ待遇を受けることこそ公平社会だと思っている節がある。よく「日本は世界で最も成功した社会主義国家だ」などということを言うが、こういう点を見ると非常に共産主義的な社会だと思う。