イントラネット家電

「インターネット家電」という構想は前世紀の末から存在し、1999年6月にはシャープがWebからレシピをダウンロードする電子レンジを発表している。
他にもWebブラウジング機能を(限定的ながら)備えたTVや電話、また構想レヴェルではあるが外部から内容や賞味期限を確認可能な冷蔵庫など、様々な製品が登場した。近年ではHDD/DVDレコーダの類がWebから番組表をダウンロードしたりブラウザ画面で予約設定したりといった機能を備えている。


インターネット家電とはいっても、機器側から通信を行なうものはそう多くない。決められたサイトから限られた情報をダウンロードするものの他は、ヴィジュアル面に強くPC代わりのWebブラウザ機能を有する機器に限られ、これらは數の上では主流であるが実質的にインターネット家電の本懐ではない。
実質的にインターネット家電というカテゴリが目指すのはむしろサーヴァーとしての役割だろう。先の例では冷蔵庫がそれにあたるが、外部からアクセスして中身を確認するような使い方である。
この方向はまだインフラも整っておらず多分に暗中模索の感が強いが、今後流通でのRFID利用が広まれば賞味期限の管理等も行なえるようになり、確実に利便性が向上するだろう。期限の迫る食材名をキーに検索したレシピを自動ダウンロード、警告とともにおすすめメニューを表示するような使い方も考えられる。
他の家電では機能が限られるから直接インターネットに繋がるメリットは少ないかも知れない。しかしホームネットワークの形で家電同士が協業するならば、食材と調理内容に応じてレンジや食洗機のパターンを調節したり、人のいる部屋だけエアコンを効かせたりといった可能性も広がる。
MS社はそうした機能を束ねる中心的存在としてPCを位置付けたいようだが、むしろ家電としては制御用器材を別に用意するのも、制御システムが故障し易いのも、好ましい性質ではない。むしろ、そうした仕組みは表立って意識されないよう隠されることになるだろう。
そうすると、サーヴァーには24時間電源に接続され稼動し続ける冷蔵庫が相応しい。演算装置が組み込み易い大型の筐体も、冷却系を利用できるのもメリットだ。通信には無線を用いても良いが、その場合は電波が通じないということのないよう機器同士信号をリレーする仕組みが必要だろうし、干渉の問題が発生する恐れがある。技術的には実用化に近づいている電力線通信を使う方がすっきりするかも知れない。


ところで、ここまで進化しても尚、インターネット家電は名前に反してインターネット家電になり切れていない。
足りないものは、外部との通信である。
ここで言う外部とは単純に「家の外の機材」という意味ではなく、もっと積極的に「所有者のネットワーク外」という意味を含む。
現在のネットワーク家電(そして現在構想段階にあるネットワーク家電)は、結局のところ所有者に対してのみ公開された、閉じたネットワークを形成している。つまり、実質的にはイントラネット家電、精々エクストラネット家電というべき存在である。
それを、敢えてインターネットに公開してしまってはどうだろうか。
普通のWebサーヴァーと同様、URLさえ明らかならば誰でもアクセスしてデータを引き出せる家電。他人の冷蔵庫を確認したり予約された番組リストを見たりしてどうしようというのかは良く解らないが、取り敢えずPCからレシピや番組情報にタグを付けて、フォークソノミーを生かしてデータ抽出精度を高めたり、逆に冷蔵庫からレシピを発信したりといったことが考えつく。


「何をするためにそうできるようにするか」が重要なのではない。「そうできるようになったら、それで何をするか」が重要なのだ。
まず可能性ありき。現実は後から付いて来る。付いてきてくれないこともままあるが。