ボードゲームの適正価格

現状、ボードゲームは明らかにマイナーな趣味である。一度でもプレイしたことのある人数は日本国民の30%未満、人生ゲームを除外したら5%未満、更に(比較的有名な)モノポリーとUNOを除外したら割合は1%を大きく下回りそうだ(数字には感覚以上の根拠はありません)。
そのマイナーな遊びが広まらない原因は幾つもあるが、そのなかに「価格」というファクターが絡んで来る。


一般にボードゲームの流通価格は5000円前後。カードゲーム類では1000円程度からあるが、ボードゲームでは安いもので3000円程度、高いものでは1万円前後の価格になる。これは輸入のコストや流通量の少なさ等を考えれば仕方のないところだが、そうした事情は消費者にはあまり関係がない。
単純に遊びに賭けるコストとしてみた場合、これは高いのか安いのか。

コンピューターゲームとの比較:コストパフォーマンス

ボードゲームを知る人がしばしば比較対象とするのはコンピューターゲームのソフトである。現在の販売価格は(新品で)安いものでも5000円弱、高いものでは1万円近い。それ以外にゲーム機本体の価格が2万円〜5万円程かかる。単純なコストではボードゲームと同程度かそれ以上だ。
しかし、プレイ時間との比較ではどうだろうか。大作RPGでは総プレイ時間が80時間近くかかるのが最近の常識になっているようだ。8000円で購入したとして、80時間遊べれば時間あたり単価は100円。それに対して5000円で買ったボードゲームは、50時間も遊んでいるだろうか。
余程ヘヴィなプレイヤーが近所に何人もいて、毎週のように持ち寄っては何度も繰り返しプレイするというなら50時間というのもあり得るかもしれない。しかしそれほどやり込むゲームは多くないし、それほどやり込める環境は更に少ない。実際には1プレイあたり2時間程度を2〜5回ぐらい、その後は時々思い出したように引っ張りだされるだけになりそうだ。プレイ人数を掛けてのべ時間として考えても、尚コストパフォーマンスに劣る。

流通市場規模と価格

また、コンピューターゲームには既に中古市場が形成され、発売から時間が経ったゲームを安価なパッケージとして再発売する例もあることから2000円以下で入手することも難しくない。対してボードゲームは、中古での流通はオークションなど限定的な個人取引のみ、むしろSDJ受賞作でさえ数年で絶版という例が珍しくなく、中古はプレミア価格が付いていたりする。

ボードゲーム同士の比較:情報格差

国内ボードゲーム市場に於いて(あれをゲームと呼ぶかどうかは兎も角)最もシェアを持っていると考えられるのが人生ゲームである。
時事ネタを積極的に取り入れヴァリアントを次々にリリースすることで、遊ぶ回数を少なく抑え流通量を高く保つという阿漕な戦略がしかし日本人には受けが良いようだ。例えば2005年の人生ゲームM&Aは、当時の時の人であった堀江貴文をオブザーバーにLivedoorの手法を意識させる企業買収ネタを絡め、途中の強制捜査/逮捕に伴い発売を中止するまでに10万個が流通したという。
人生ゲームの販売価格は3600円程度。恐らくは繰り返し遊ばれることの殆どないであろうことを鑑みると、6人程度で2時間*2回プレイしたとしてものべ24時間、大したコストパフォーマンスではない。
ということは、人生ゲームよりも安ければボードゲームだって売れるのだろうか?なかなかそうも行くまい。
人生ゲームは、ヴァリエーションごとの差こそあれ基本的にやることは同じである。ルーレットを回してその分駒を進めるだけ。内容は解っているから、外れを掴む心配がない。
対してボードゲームは、多数のタイトルがありそれぞれに中身がまったく違うが、事前にそれを知る手段が殆どない。得体の知れないものに3000円も出すリスクというのは結構大きいものだ。レンタルヴィデオに300円出すのは大した抵抗もないが、3000円で買い取るとなると話は違うだろう。
この部分はコンピューターゲームでも同様なのだが、コンピューターゲームの場合は多数の情報誌が存在するので、事前にある程度チェックしておくことができるようになっている。ボードゲームの場合は入手し易い情報源がほぼインターネットに限られるので、より能動的でないと情報が確認できない。

コミュニケート手段としてのゲーム

よくボードゲームプロパガンダとして「コミュニケーションを推進する」的なことが謳われるが、あれは正確ではない。直接顔を突き合わせてプレイするからといってコミュニケーションが推進されるわけではなく、プレイ時の手段として音声その他による意思疎通が利用できるに過ぎない。
コンピューターゲームや人生ゲームは、ある意味でボードゲームよりもコミュニケーションを推進する部分がある。これらは共通理解と話題性という形で部分的な(日常での)コミュニケーションを可能にする、というより半ばそれが目的になっている。つまり人生ゲームが(ゲームとしてはまったく機能しないにも関わらず)商業的に受けが良いのは、「ハプニングの連鎖を皆で笑う」という機能が備わっているからだろう。
多分3600円中3200円ぐらいはその部分に支払われる対価なのであって、真剣にゲームして楽しむ装置を同じ価格で販売しても、はじめから勝ち目はない。

結論のようなもの

5000円は確かにちょっと高いかもしれないが、3000円台後半ならば勝負にはなるだろう。しかし、それには流通量を増やさねばなるまい。
現在ではマニアの遊びだが、認知度を向上させることができれば手軽な遊びとして老若男女受け入れられるだけの素地はある筈だ。


問題は、そもそも認知度を向上させて流通量を増やすにはどうするか、という話からスタートしているわけで。
これでは完全に撞着していて意味がない。