先日ちょっとミニチュアゲームについて「多数の障害があってなかなか普及しない」というようなことを言ったところ、色々と批判を受けたようだ。おおよそ「何も知らん部外者がいいかげんなことを言ってる」的な反応であったように見受けられる。
まあ私もミニチュアゲームの経験があるとはいっても10年ぐらい前の話で、以降は気になるゲームのスターターを買ったり通販を覗いたりはしても実際にプレイするには至らずにいるので、確かに現在の内情をよく知っているとは言い難く、それ故に間違ったことを言っている部分はあるだろう。しかし一方では、調べたり買ったりする程度にははっきりとこのジャンルに興味を持っているにも関わらず、その先まで踏み込めないという位置にあるわけで、正に「ミニチュアゲームが普及しない理由」を体感しての発言でもある。
そもそも、どんなジャンルであれ「知らない人に知ってもらう」「知ったけど踏ん切りのつかない人の躊躇要因を軽減する」ことで人口を増やしてゆくことが回り回って流通の拡大や低コスト化、プレイ環境の充実など自分たちの利益になるものであって、「積極的に飛び込んでくる者以外は去れ」では衰退を招くのではないか、ということを、単に「商品として普及が難しい特徴を抱えている」こと以上に心配するに至ったので、この記事を書いている。
なお、「ミニチュア駒を含むボードゲーム」と「ミニチュアゲーム」の境界は明確ではないが、ここでは
- ミニチュアそれぞれに固有の能力値があること
- ミニチュアを追加購入できること
- 所有するミニチュアを選んで編成できること
を満たすもの、と定義したい。
ミニチュアゲームの抱える問題
まずは「ミニチュアゲーム普及の障害」についての持論を述べよう。まあミニチュアゲームといっても様々であるから、すべてに当て嵌まるとも限らないのだが、概ね次のような要因が挙げられる。
言語問題
多くの場合で最大の障害となるのが言語の問題だ。ミニチュアゲームの本場は英語圏であり、大半のゲームはルールブックが英語で書かれている。多言語化されているものでも日本語版がある例は少なく、有志による抄訳、あるいは自力での読解が求められることが多い。
また国内に販売店のないゲーム、あっても流通がごく限られるゲームも多く、そうしたものは個人輸入せざるを得ない場合もある。もっとも、このあたりは近年かなり改善されてきており、多数のラインナップを有する国内専門店もあるので、以前よりは確実に買い易くなっているが。
価格問題
ゲームごとの差もかなりあるのだが、一般にミニチュアゲームに用いられるメタルフィギュアはそこそこ高い。だいたい高さ35-40mmぐらいの人型一体で1000円前後、大型のユニットでは数千〜1万を越すものもある。近年は数を必要とする一般兵士などはプラキット化によって安くなってきたが、それでも1部隊分で4000円ぐらいはする。これらを複数用意する必要があるため、概ね1万円前後、あるいはそれ以上はかかると見た方がいいだろう。ミニチュアゲームの初期投資。 | 狂道化通信@気分更新などによれば「最低限度のルール把握用」でも5000円程度、ちゃんと遊べるレベルで2〜3万円前後を想定した方が良いようだ。これ以外に別途、ルールブックや軍勢ごとのデータが必要になる場合もある。
またミニチュアゲーム事始め2012(仮) | 空想海軍 航海日誌ではディストピアンウォーズが「1万円以内でプレイ開始できて、さらにスタートボックスだけでけっこう長く遊べます」、ロード・オブ・ザ・リングが2万5千〜3万程度、ウォーハンマー40000が「一般的に遊ばれている1000~2000ポイントの編成をするのに3万円~くらいは最低かかりそう」サイクロプスが「スタートボックス(ミニチュア含まず)8000円とミニチュアが1万円程度は必要になりそうですが、ゲーム自体がボードゲームライクなので、それ以上極端な増資は必要ありません」とあり、ゲームによってばらつきはあるものの平均して2万円前後ということになる。
また、フィギュアは通常未組み立て・未塗装の状態であるので、これを組み上げ塗装するための道具も別途必要になる。
ただ、初期投資に数万というのは趣味の金額としてそれほど高いわけではない。たとえばゲーム機を買えば本体価格で2〜4万、ソフト1本あたり5千〜1万程度。スポーツだって野球ならバットとグローブだけでも安いもので2万ぐらい、テニスでも初心者用のラケットで1万5千円から。他にウェアなども要るから、やはり初期投資で数万程度にはなるだろう。従って価格の問題は単体で極端に効いてくるものではなく、「これだけの金を投じるに見合うものがあるかどうか」といった、期待感や見通しと絡んでの割高感の問題になり、これは後述する知名度問題などとも絡んでくる。
時間問題
ミニチュアゲームのプレイそれ自体は1戦につき30分〜2時間といったところで、まあボードゲームなどではよくある規模だし、長く感じるものではない。前後にミニチュアの展開・収納にかかる時間が発生するが、それを含めても面倒で仕方ないということはないだろう。
またゲームの準備として予め保有ミニチュアからいくつかを選んで編成しておく必要があるが、これもまあTCGに起けるデッキ編成などと同じで楽しみの範疇であり面倒の部類ではない。
問題があるとすれば、組み立て塗装の方だろうと思われる。
勿論これも模型趣味的には楽しみの部分であり、ミニチュアゲームとはその部分を含めての趣味ではあるのだが、1点1点を時間かけて仕上げれば良い模型と異なりゲーム駒としてのミニチュアはとにかく数が必要となるため、「同じ塗りを何度も繰り返す」部分が多い。いずれにせよ、丁寧に仕上げるならば1体あたりにかなり時間がかかるのは確かで、私生活で趣味に充分な時間を投じられるかどうかがポイントになるだろう。
また模型よりゲームに比重のあるプレイヤーの場合、ゲームの準備段階に手間がかかりすぎてなかなか遊び始められないことに苛立ちを感じることもある。
場所問題
ゲームによるが、戦場として2〜3m四方程度の広さを必要とする場合が多く、個人宅では場所の確保が難しい。プレイに要する場所だけでなくミニチュアを収納する場所も問題で、フィギュアは塗装剥がれたり部品が取れたりしやすいので個別に緩衝材で挟むなどして固定する必要があり、それが数十〜数百集まるとかなりの体積となる。更には戦場に変化を与える地形オブジェクトも必要になるので、海外のプレイヤーは専用の部屋を用意していたりするようだが、日本の住宅事情ではなかなか厳しい。
知名度問題
これがある意味最大の障害である。そもそもどんなゲームかも知られていない。仮に写真などを見掛けてちょっと興味を持ったとしても、そこから「じゃあやってみようか」までの道程に大きな隔たりがある。たとえばTRPGやボードゲームなどの非電源系ゲーム雑誌などにもミニチュアゲームの話題はあまり出てこないし、また模型雑誌でもメタルフィギュアなどはあまり扱われない*1。模型と非電源ゲームの双方に跨がるジャンル、という特徴が仇になっている感がある。
ひとまず「どんなゲームジャンルか」「どこで手に入れられるか」「どうやって遊ぶか」「どうやって塗るか」「どんな種類があるか」「どこに遊び相手がいるか」といったことを網羅したポータルが必要なんじゃなかろうか。なかなか難しい話だが。
国内ミニチュアゲームの人口推計
ところで国内ミニチュアゲーム人口がどの程度なのか、寡聞にして調査事例を知らないので推計してみる。
まず、海外でのシェアを調べる。
Quest for Fun!: Miniature Gamesによれば2011年時点でのミニチュアゲーム市場シェアはおよそ3/4がウォーハンマー系(6割が40K、15%ほどがFB)といった状態のようだ。数年前の状況ではあるが、極端な変動はないだろうと考えてひとまずこの比率を当てにする。
次にウォーハンマーの販売元ゲームズワークショップの決算を見る。上場企業なので決算報告がPDFで公開されており、これによると直近半年の売上は5530万ポンドである。これにはミニチュアの売上以外にも色々含まれるとは思うが、さしあたりその辺りを無視してざっくりユーザ人口スケールを把握してみることにしよう。
AmazonUKで販売されている、ウォーハンマーFBの後継であるAge of Sigmarのスターターセットが62ポンド。単純に売上を割るとおよそ85万倍となる。「半年に一度、スターターと同程度の金額を費やす」というのが客層の平均的購入モデルとして妥当なのかどうかには議論の余地があると思うが、そのように仮定すれば全世界で85万人ぐらいのプレイヤー人口があるということになる。
85万人のGWユーザがミニチュアゲーム全体の75%前後を占めるわけだから、他のタイトルを併せると113万人ぐらい……というのも乱暴な計算で、実際には「WH系だけやる人」「WHとそれ以外もやる人」的な重なりなのでは、という気もするが。
ひとまず世界全体でのミニチュア人口をごく大雑把に100万人前後と見積もるとして、じゃあ国内ではどのぐらいの規模か、という話になる。こちらは更に推計可能な情報が少ない……というかぜんぜんない。
たとえば「趣味人MAP」と題された全国ミニチュアゲームサークルマップに登録されているサークル数は全部で64。これで全てということはなく、掲載されていないサークルやサークルの形態を取っていない仲間内での集まりなどもあるだろうと思われるし、そもそもサークルの構成員が何人ぐらいなのかもよくわからないが、ざっくり倍の実数が存在し、1サークルあたり10人ぐらいがいるのだとして、1280人ぐらいということになる。流石にこれは少なく見積もりすぎだろうか。
あるいは店の数から考えてみよう。国内でのシェアもはっきりしないものの、世界シェアから見ても最多層はゲームズワークショップ系だろうと思われる。国内に直営店を持ち、また多数の正規取扱店を持っているミニチュアゲームメーカーは恐らく他になく、ボードゲーム/TRPG系の店などでもウォーハンマー系のミニチュアを扱う店はそれなりに見るが、他のタイトルは極端に少ない。
公式Twitterによる正規店リストを見ると、2015年8月時点でGW社の正規取扱店は77店舗。うち専門店といえるレベルで品を揃えているのは9店舗。仮に各店10人のユーザを抱え、専門店が100人を抱えているのだとすれば1670人。先程よりは少し多いが、似たり寄ったりだ。
あるいは世界全体の1%ぐらいなのだとすれば8千〜1万1千人ぐらいの間かも知れない。ただ上の試算からは随分乖離しているし、1%という算定の根拠ももちろん何もない。
まあ、(希望的観測も含めて)大体国内に3千人前後、というのが実情ではないかなと思うが、どうだろう。
単純計算で、各都道府県に平均して60人ぐらい、実際には全国人口の1割を占める東京都で300人ぐらい、神奈川・大阪・愛知・埼玉などが70人程度、静岡あたりで30人程度、東北各県で10人程度‥‥といったところか(単純な人口比割り)。なんとなく実感に即しているような気がする。趣味人MAPで東北に全然サークル登録がないあたりとも符合するが、これは偶然なのか実情通りなのか。
どうすればいいのか
色々と書いたが、ではどうすればミニチュアゲームが普及するのか……という話になると、正直なんとも結論が出ない。
ある意味では「売れないから売れない」のだ。ユーザの絶対数が少ないから販売数が少なく、製造にしても流通にしてもコストが割高になり、高いから買いにくい。プレイヤーが少ないから知られる機会も少なく、知らないからプレイヤーが増えない。国内市場規模が小さすぎて国産流通は採算が厳しく、だから輸入品に頼らざるを得ないし公的な日本語化情報も望み薄で、故に買いにくい。堂々巡りである。
問題のうちいくつかを解消する試みがなかったわけではない。例えば国内大手玩具メーカーが「1体あたりが安価で、小数で編成できる」「彩色済みで手間がかからない」「コンパクトなボード上で遊べる」と、価格・時間・場所を解決したミニチュアゲームを売り出したことがあった。しかし結局この試みは潰え、メーカーはわずか1年で撤退した。流通の問題なども指摘されているようだが、それ以前に「メインターゲットとした小中学生が買いやすい程には安価でない」「フィギュアのデザインが今一つ垢抜けない」ことが大きかったように思う。子供向け雑誌でタイアップ漫画を連載したりアニメ1話相当のPVを制作するなど、宣伝にも力を入れていなかったわけではないが、それでも小学生への知名度は0に近かった。また、逆にミニチュアゲームを既に知っている層にも「塗装済み」「サイズ統一感なし」などが仇になったか敬遠されがちであったようだ。
メーカーはその後、解決できなかった部分を改良した新作を出し直す:こちらは既にフィギュア付きであることを諦め紙の駒にすることで小学生に合わせて価格を下げ、人気キャラクターを使うことで知名度・好感度問題も解決してきたが、如何せん人気キャラだけにゲーム市場も飽和気味であり、その中で存在感をアピールするには至らず、こちらは1年どころか第一段リリース後が続かなかった。
従って「問題があるから売れない」が事実であるとしても、安易に「問題を解決すれば売れる」わけではない、というあたりに根の深い問題がある。そもそも「どう売るか」はメーカーの考える問題であって、ユーザー側としては「地道に買い続ける」「なるべく多くの人を引き込むようにする」ぐらいしか手の打ちようがないのだが。
まずは、上にも買いたように「ミニチュアゲームについて知り、始めるために必要な情報を網羅した情報源」を用意するのが先決だろうか。それを執筆し、随時更新するだけでもかなりの労力になるし、かなり深く、かつ広くコミットしている人でないと難しいとは思うが。
というわけで、単に「問題があるよね」と書くだけの記事である。オススメのゲームとかノウハウなどはきっと詳しい人が色々まとめてくれることと思う。
とりあえず「体験方法」「買うもの&選び方」「オススメのゲーム」「購入方法」が揃った【アナログゲーム決死圏】第4回:ミニチュアゲームの始め方…体験方法からオススメのタイトルまで | インサイドをリンクしておく。
*1:どちらにも過去に連載事例などはあるのだが、全体として比重はかなり小さい