ニンテンドー3DS専用の脱出アドヴェンチャー、「旧校舎の少女」を遊んだ。
ダウンロード販売ソフト@e-shop。、700円、体験版あり。
http://www.arcsystemworks.jp/mnd/
脱出ゲームは今や人気のジャンルで、多数のブラウザゲームがリリースされている。最近ではコンシューマ向けタイトルにも脱出を扱ったものがいくつも出ている。
要するにクリック型のウォークスルーアドヴェンチャーゲームだが、「閉じ込められた状況からの脱出を図る」という図式によって可能な行動を絞り、ごく少ない舞台装置だけでゲームを成立させられるため制作コストが低い、というのが作り手にとっての魅力だろう。
在野の愛好家制作による無料の脱出ゲームがいくらもある中で有料販売タイトルを作るとなると、それなりのクオリティというものが求められる。とりわけ支払った金額に見合う程度の時間を費せるゲームであること、しかしそれが単純な難しさによるものではないこと。途中でリタイアさせることなくエンディングまで導きつつ、しかし手応えを感じてもらわなければならない。
「旧校舎の少女」は、脱出ゲームである以前にノヴェルゲームだ。プレイヤーはただ密室に放り出されるわけではなく、まず密室に至るまでの状況が語られる。ノヴェルゲームに求められるのはストーリー構成力と表現力だが、本作はどちらもまずまず高いレヴェルにあり、読みものとして結構楽しい。
実は謎解きアドヴェンチャーゲームで重要なことのひとつがキャラクターの設計である。
最終的に謎を解くのはもちろんプレイヤーであり、キャラクターはそれよりも鈍くなければならないという鉄則がある。しかし一方で、キャラクターは謎を解くことができる程度に理知的である必要もあり、この二つを両立するのは結構難しい。
脱出の主人公である時計屋の孫娘は、率先して仕掛けに巻き込まれに行く程度に旺盛な好奇心とパニックを自制する程度の気丈さ、本作の謎解きの主眼である機械仕掛けを分解する程度の知識と状況を整理し必要な行動を割り出す程度の知性を備えており、単なるトラブルメイカーなどではない。それが故に、トラブルも「プレイヤーは望んでいないのにキャラクターが勝手な行動をした結果巻き込まれた」といった理不尽さはなく、心穏やかにゲームを進めることができる。
脱出部分は主にアイテム探索とパズル解除、それに分解から成る。パズルそのものは概ね既知のものを変形して用いており、ちょっとパズルの好きな人ならば解法に悩むほどではないだろう。分解はパズルの一種とも言えるが、要するに装置のネジを見付けて中を探る作業だ。分解のためのツールは主人公が持ち歩いているので、よくある脱出ゲームのようにまずそれを探すところから……ということは基本的にない。
また、パズルのヒントやアイテムの使い方などをキャラクターが発言したり、解くべきパズルにすっと誘導されることで、見落としなどによって長時間先に進めなくなるような状況が少なくなるように設計されている。この配慮は素晴らしい。謎はそれを解くこと自体に労力が注がれるべきで、「解き方はわかっているが足りないピースを探し周る」ことは楽しみの主眼ではない。
褒めてばかりというのもなんなので少しだけ苦言も。
謎解きそのものは理不尽さがなくスッキリとしているが、仕掛けの存在そのものは些か不合理ではある。まあこれは、脱出ゲームとは概ねそういうものだと言ってしまっても良いが。新本格ミステリの特殊設計建築に文句を言っても意味がないように。
終盤の展開は賛否の分かれるところかも知れない。結果としてジャンルが発散してしまったきらいはある。個人的には、そういう方向に逃げない方が良かったのではないかとも思うが、ならばどうまとめるかというと難しい。
低価格なゲームなのでヴォリュームはそれほど多くない。全4章、だいたい6〜10時間ぐらいで解けるものではないかと思う。軽すぎず重すぎず丁度良いぐらいではあるが、キャラも画の雰囲気もなかなかに魅力的的であっただけに、もう少し読みたいとも思う。続編にも期待したい。