全自動吉野家

こんな遅い時間だというのに、店内は思ったより混雑していた。どうやら15新円引きキャンペーンの影響らしい。普段は洟も引っ掛けないような連中までが釣られてやってきているのだろう、そう思うと肚が立つ。普段から愛顧してやってる常連に席を譲れと言いたくなるのをぐっと堪える。
ほどなく空いたブースに座り、タッチパネルに映されたメニューを選んで硬貨を投入した。牛丼にオプションで大盛りと卵を追加。程なく画面が変化し、プログレスバーで待ち時間を視覚表示する。
バーの残量でタイミングを見計らってつゆだくオプションを連打した。こうすると、具材量調節機能が誤動作を起こして具のバランスを変更できるのだ。俺は玉葱を多めにするのが好みで、度々この機能を使う。ただしタイミングを誤ると調理器が故障して通報されることがあるので、素人にはおすすめできない
30秒ほどでテーブルが跳ね上がってタッチパネルを覆い、その下から内面コーティングされた紙箱に入った牛丼とオプションの卵が入った紙コップを乗せてトレイが迫り上がり、テーブルと面一の高さで停止した。食事中に汁撥ねなどで画面を汚さずに済むし、食べ終えたらトレイが自動で下がって食べ残しや使用済み食器が廃棄される仕組みだ。
設備そのものの設計開発には結構な金額がかかったという話だが、結果的に人手がかからなくなったことで維持コストが減少し、治安の悪いエリアでの深夜営業でも従業員に被害が出るようなことはなくなった。回収した現金は自動で地下の頑丈な集金器に収容されるからバーナーや小型重機程度では強奪もできない。完全機械化で誤配や注文取り忘れもない。コストが下がった分は客にも還元され、度々こうして値引きキャンペーンが展開される。


……などということを、カウンタに着いても5分以上注文を確認しに来ない某丼ものFC店舗で妄想した。