デザインフェスタVol.32 ブース研究

3年ぶりにデザインフェスタへ出展してきた。出展側だと立場上あまりゆっくりと周辺ブースを見ることができないのだが、駆け足でざっとブースデザインを眺めてきたので感想などをお伝えしたい。


その前に、まずは手前味噌ながら今回のブースデザインについて、そのコンセプトなどを解説したい。

前回の出展は3年前、この時は自宅からアンティークの机を持ち込み1坪ブースを作った。雰囲気としては極めて完成度が高かったが、ブースの大半を机が占めることで展示可能スペースは決して広くなく、また間口が1.8mしかないため大勢のお客様に商品をゆっくりご覧戴くことが難しいという難点もあった。
当時よりも商品種類が増えていることも考慮し、今回は半坪の浅いブースを2つ繋げて幅3.6mの幅広なブースとした。奥行がなく盛大にはみ出すことになるためアンティーク机は諦め、什器レンタルにて棚2つと椅子2脚、小机を用意。
遊星商會の基本路線は懐古調であり、カラーイメージとしては黒と親和性が高い。しかし壁と椅子は白色、什器はステンレスとガラスであり少々路線が合わない。そこで、古い図書館をイメージしたタペストリを2枚用意して壁の上部を埋め、また中央部には黒い布をかけた。下半分は相変わらず白いが、そこは什器で覆われるため然程気にならない。
布を利用した空間演出はブース構築の基本である。布は嵩張らず壊れず、持ち運びの利便性が高い上に広範囲を覆い易い。また、必要に応じ印刷や縫製で模様を施しておくことができる。
タペストリのうち1枚は色使いが鮮かで、通りかかる人の目を引く効果がある。足を運ぶとその下には小さなスタンプが何十種と展示されており、長く客足を留める。


実はブースデザインで集客効果を高めたい場合、人目を引くだけでなく、引いた人目を捕え続けることが必要になる。何故ならば、人は「既に人がいる場所」に集まる傾向があるからだ。誰も足を止めていないブースには人が集り難い。この状態で、誰かの足を止めさせるために必要なのはインパクトのある見た目だが、それは言わば一瞬こちらに目を向けさせる以上のものではない。向いた視線を離さず、「常に人がいる」状態を作らねばならないのだ。
単純に言ってそれは本来ならば商品力が担うべき役割であるが、すべての商品がその力を持つとも限らない。
人目を長く留める要素とは、例えば種類の多さであったり緻密な書き込みであったりと、「全体の把握に時間を要する」ような、あるいは話題を呼ぶようなものと言える。思わず出展者に訪ねてしまったり、あるいは同行者との会話が膨らむような商品は、必然的に滞在時間を長くする。
他方で、緻密さは遠方からの視認性を弱めることになり、人目を引く要素が弱い。従ってこの二つは相互補完的であるべきで、商品が緻密ならばブースは大胆に、商品が大胆ならばブースは緻密に作るのが良いだろうと思われる。


遊星商會ブースに於いてはタペストリインパクトを、スタンプが緻密さを担っているが、便箋は丁度その中間に位置する。商品として程々の面積を持ちある程度の遠方視認性を確保しながら、接近距離では緻密さを持った存在である便箋類は、要するに「タペストリに目を止める→スタンプで足を止める→ブースを離れ次へ向かう」この最後の段階に「再び目を止める」効果を発揮した。結果として左右それぞれの展示スペースに長く足を止め、それが次の集客をもたらす。


反省もある。商品を左右に離して置き、中央を会計等に当てたことで、左右のスペースが半ば独立店舗と化してしまった。つまり一方への集客が他方への集客効果を発揮しなくなってしまったと言える。これは折角の相互効果を弱めるものであり、まだまだレイアウトには一考の余地がある。


さて、長くなったが自ブースの話はこれまでにして、今回ちょっと気になったブース事例に進もう。

こちらはお隣のブース。美味しそうなケーキ風アロマキャンドルを販売されていた。キャンドルにはひとつひとつ甘い香りが付けられていて、ブースも全体にパティスリーのようなデザインになっている。
基本構造はテーブルに布をかけ裏板を立てただけの簡素構造だが、商品運搬用の籠でもあるらしい金属製のレース模様付き箱を段としても利用、また黒地に金で看板と値札を作成することにより高級感とケーキっぽさの演出を行なっている。
このブースの強みはなんと言っても香りで、これと美味しそうな見た目により人を引き付け話題を作り、常に多くの人で賑わっていた。

布方式のアクセサリー系ブース。背面は裏手のブースの壁裏側が剥き出しという状況ながら、持参の枠+布で覆ってしまうことで全く気にならない。ロゴを大きく配したことでインパクトと雰囲気、店名の印象付けに成功している。
ブースの基本構成こそ布中心の簡単なものだが、代わりに照明を持参することで商品の効果的な見せ方に気を配っている点に注目されたい。店舗デザインは人を呼び込むものであると同時に、商品を最大限魅力的に見せるものでなければなるまい。

こちらは板作りの簡単なブース。アクセサリ系ではこのように壁面を利用する展示形態が少なからず有効だが、この店舗はデザイン上のアクセントとして小窓を取り付けている。これは純然たる装飾であり展示上の機能はないが、単調になりがちでもある壁面に変化を与え、可愛らしい空間を作っている。
服飾系に於いては昨今の流行路線が白/生成りベースの簡素な味わいを基調としたものになりがちだが、ブースデザインまで単に白いだけのものになってしまうと集客効果が弱まる。白ベースで明るくというのはわかるが、例えば大胆に壁の一部に大きく窓や開いた扉のような画像をあしらってみるなど、空間演出としてのひねりが欲しい。

今回、自ブースが服飾系に近いエリアだったこともあり主要な収集がそちらを中心としたものになっているのだが、それにしても4階エリアはブースデザインがいまいちパッとしなかった。取り敢えず壁面に絵を書くか、作品で埋めることで演出しようとするパターンが多く、似通った感じを受ける。その中で、壁面をカーテン風に飾る演出が光るブースをご紹介。
黒+赤でゴージャスかつ妖艶な雰囲気を作り出しており、作品の方向性とも良くマッチしたデザインになっている。作品も壁面も黒バックであるところは少々コントラストに欠けるきらいもあるが、作品がモノクロ〜青系であるのに対し周辺が赤であることで単調になりすぎず、色味としても充分に人目を引く効果がある。

最後に斜向かいのブースを。こちらはギャル向けっぽい人形型ポシェットを販売されていた。正直なところ商品もブースデザインもすべて極めて縁遠い世界の作品であり、ブースの作り方もかなり荒っぽい印象を受けた(キャリングケースにプラ段ボールを貼り付けた簡易机にレースをかけたもの+壁に色々貼り付け/直書き)が、インパクトと雑然さを兼ね備え、作品とブースデザイン、売り手の服装まで一貫性がある点は優れていると言える。