源竜考

またも某所の質問にて。趣旨は「西洋的ドラゴンと東洋的竜に共通するモチーフが多いのは共通起源でもあるのか」といった話なのだが、「恐竜がベース」という意見が多いのに驚く。
まず大前提として、恐竜の生息していた時代と人間の発生年代には大きな開きがある。人間は精々100万年のオーダーだが恐竜は億年単位だ(最後期でも6500万年前)。従って人間に恐竜目撃の記憶はない。
その上で、異論として:

  1. 各地で恐竜の生き残りと思われる巨大生物の目撃例がある。これが元になっているのでは
    • (亜種)有史以前までは生存しており、その記憶が語り継がれたのでは
  2. 化石から推測されたのでは

あたりが予想されるので予め反論する。

生き残り説

生きた化石シーラカンスのように、化石でしか存在を知られていなかった生物(の類縁)が発見されることはあるので恐竜が生き残っている可能性を完全に否定するものではないが、いくつかの理由から可能性は非常に低いと言える:

個体数
絶滅せずに血統を継ぐ以上は、ある程度以上の個体数が不可欠である。どんなに少なく見積もっても数百頭が、交流可能な範囲に生息せねばならない。それだけの数が一箇所にいれば、どんな人里離れた秘境であろうとも確実な接触例が存在しそうなものだが、未だに噂以上の確認が取れないというのは不在の強力な傍証と言える。
痕跡
仮にその生き残りが、人類が地球上をくまなく探検し終える以前に絶滅した(故に近代の確実な目撃例がない)のだとしても、それならそれで化石化していない未知の骨格などが発見されなければおかしい。然るに現在まで、化石でない恐竜骨格は一件たりとも発見例がない。
UMA
ネス湖ネッシーは否定されたものの、それ以外にも大型の未確認生物の目撃例は数多い。それらのうちいくつかは恐竜なのでは?との意見に対しては、それらの殆どが近年になって登場したものであることを指摘しておく。無論そうでない例もあるがそれについては次項で述べる。
海棲恐竜
近年になるまで化石以外での発見がなかったシーラカンスのように、未踏査領域の多い海洋ならば生存(且つ未発見)の可能性は多少高まる。しかし少なくともドラゴンの起源としては否定的である。以下に根拠を述べる。
  1. 東洋の竜についてはさておき、西洋のドラゴンに海棲の痕跡はない。彼らは翼を以て飛行し、また窖に棲む。仮に海棲恐竜を目撃していたとすれば、必ずやドラゴン類は海棲として描かれていたであろう。
  2. 海の怪物としては古来よりシーサーペントの伝承がある。仮に海竜が生き残っていたとしても、それはドラゴンとはならずシーサーペントとして扱われ、ドラゴンとは直接結び付かないと考えられる。

化石目撃説

恐竜の生き残りではなくとも、化石ならば昔から出土していた筈で、それが竜のイメージに結び付いた可能性はないか。
これはある程度の影響を論じられなくもない。例えば大きな歯や爪の化石が出土したとき、それがドラゴンに結び付けて考えられたという例はいかにもありそうな話だ。ただ、それは「化石を見て巨大な怪物を空想したものがドラゴンとなった」のとは少し違う。むしろ「化石を見てドラゴンの伝承を想起し納得した」と見るべきだ。
つまり、はじめに化石ありきで巨竜が誕生したのではなく、巨竜の伝承が先にあって化石がそれと同定されたのであろうと思われる。


そもそも化石は地面に埋まっているものだ。意図的に掘り出すか、偶然出土しない限り人目には付かない。地震などで崩れた地層から奇跡的に無傷のものが発見される可能性は否定しないが、それが竜を想起させる完全体として出土する可能性は極めて低い。
有史以前の化石標本の存在については寡聞にして知らないのだが、そのような例があるとすれば有名になっている/発掘が進み早くから全容が明らかになっているのではなかろうか。そうであれば、(ある程度精確さを欠く再現であったとしても)翼を持たぬことは明らかであっただろうし、またその時点で生物の起源に一石を投じることになっていた筈だ。