読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

蔓延する狂気と滅び:パンデミック クトゥルフの君臨

f:id:DocSeri:20160814144731j:plain
近年、TRPGでも「クトゥルフの呼び声」が人気を博し、ボードゲーム方面でもクトゥルフものが豊作である。
協力型ボードゲームとして名を馳せた「パンデミック」も、クトゥルフ神話モチーフとしてリニューアルされた。

基本的なギミックは引き継いだが、大きな特徴である「アウトブレイク」ルールはなくなり、代わりに「覚醒の儀式」として旧支配者が目覚めてゆくことで状況が悪化する仕組みになっている。
箱サイズに比してコンポーネント密度はそう高くないものの、その分だけカードやトークン類は取り分けやすいトレイになっている。コマはすべて樹脂製フィギュア、ボードやカードも隅々まで趣向を凝らした雰囲気のあるイラストが施されており、満足度はかなり高い。

ゲームの舞台となるのはラヴクラフト著作に登場する、アメリカ合衆国東部ニューイングランド地方マサチューセッツ州の4つの町村。
ネクロノミコンほか数々の禁書を所蔵するミスカトニック大学を持つアーカム(『魔女の家の夢(The Dremas in the Which-House)』『戸口にあらわれたもの(The Thing on the Doorstep)』)、その東の漁港キングスポート(『魔宴(The Festival)』『霧の高みの不思議な家(The Strange High House in the Mist)』)、忌まわしき漁村インスマス(『インスマスの影(The Shadow of Innsmouth)』『戸口にあらわれたもの(The Thing on the Doorstep)』)、人の訪ずれも少ない寒村ダンウィッチ(『ダンウィッチの怪(The Dunwich Horror)』)である。ずいぶん狭い範囲で世界の命運が決するものだと思わぬでもないが。

ゲームの流れを説明しよう。
探索者は1ターンに定められた回数の行動が行なえる。「移動」「情報交換」「撃退」「封印」の4種で、自由な順番で組み合わせてよい。
移動の際は隣マスへの「徒歩」以外に、バス停マークのある場所でのみ「現在いる町の手がかりカードを1枚捨てて任意の場所に移動する」か「行きたい町の手がかりカードを1枚捨てて、その町の任意の場所に移動する」ことができる。更に、各町の「ゲート」のある場所からは他のゲートに一瞬で移動することも可能だ──ただし正気度を失うが。
なお、このゲートをすべて封印することがゲームの目的であり、封印されたゲートはもう移動には使えなくなる。後半ほど移動力が弱まるわけだ。
情報交換は、同じマスにいる相手とのみ行なえる。自分の持っているカードを相手に渡すか、相手の持っているカードを貰うことができる。
撃退は、同じマスにいる「邪教の信者」コマを取り除く。このコマはその地に集う邪教、つまり旧支配者の信奉者を表す。奴らは3人以上集うと邪神を呼び覚ますべく儀式を執り行なうので、そうなる前にすみやかに撃退せねばならない。
封印は、その町の手がかりカードを5枚集めた探索者だけが行なえる。ゲートは閉じられ、信者は姿を消し、町に平穏が訪れる。
各自の手番が終了したら「手がかり」カードを2枚引き、また「信者の召喚」カードを現在の召喚レート分だけ引いて各地に配置する。その結果、既に3人の信者が集っている場所が指定された場合、あるいは「邪悪の胎動」を引いた場合には、旧支配者が覚醒してしまう。町をショゴスが徘徊し、邪神の影響が探索者たちを苛む。
4箇所のゲートすべてを封印できれば人類の勝ち、そうでなければ世界が破滅する。

正気度は可能な限り温存したい。減少した正気度を増加させる方法は基本的になく、狂気からの回復は「自力でゲートを封印した」場合のみ。狂気に陥っても脱落はしないが行動は制限されるので展開が苦しくなる。
信者はなるべく撃退・分散しておかなければ、「覚醒の儀式」が行なわれ状況が悪化の一途を辿る。ハンターの撃退能力やオカルティストの信者コントロール能力が活躍するだろう。
信者の集う場所へすみやかに移動するためにバスは有効だが、手がかりカードを消費してしまうのが痛いところだ。移動力の高い運転手や記者が役立つかもしれない。
「遺物」は強力な効果を持つが、その発動には狂気のリスクを伴う。魔術師の手助けは有効だが、頼り過ぎは禁物である。
情報を集め、ゲートを封印する役割は探偵に任せたい。また記者は狂気に陥ると謎の第六感で情報収集に力を発揮する。
平素から行動力が高く、狂気に陥ってもなお人並の力を見せる医師は地味ながら頼もしい。

パンデミックと比較すると、アウトブレイクがなくなった分だけ連鎖的な危機状況を生じにくくなったものの、邪神覚醒による影響が強いぶんだけわかりやすく危機的だ。また手がかりカードが4種類になった分だけ長距離移動が使いやすくなったが、代わりに移動できる場所が制限されることでバランスを取っている。
処理的には「正気度」と「ショゴスの移動」が追加された分だけやや煩雑になった感があるものの、難易度では大差ない。
舞台が狭いこともあり、イメージ的にはかなり「アーカム・ホラー」を彷彿とさせるものがある。手がかりカードを町の名だけでなくフレーヴァーテキストでも入れてイヴェント風にしてみると、もうひとつ雰囲気が出て面白いかも知れない。