スクロールと「次のページへ」

Web系マガジン等で、しばしば記事を複数ページに分割し、記事下部のリンクなどで移動させる方法を目にするが、一体あれは何のためにやっているのだろうか。


一度に多量のデータを読み込むとき、データがすべて読み込まれ(るか、転送が中断され)ないとページが表示されないことがある。そうした問題を軽減させるためには、記事分割は有効に思える。だが、テキストなど1文字あたり僅か2byte、400字詰め原稿用紙1枚分増加しても0.5KBかそこらだ。 余程の長文であっても、単行本1冊に匹敵するとでもいうのでなければ分割のメリットはほとんど皆無。
画像の多い記事であれば、多少事情は異なる。解像度や圧縮率によっては1枚あたり100KBを越えるような画像も珍しくない。仮に10枚ほど貼ってあれば、それだけで1MBの増加になる。ブロードバンドであっても一瞬で表示とはいかない程度の重さだ。ただ、写真中心の記事(何らかの特集や商品レヴューなど)でもなければそれほど画像が多くなることもないし、縮小画像+クリックで拡大表示などの方法で解消できる問題だ。
第一、左右サイドバーなどに広告その他ムダなコンテンツを山盛りにしているのでは、記事の分割によるメリットもごく小さなものになってしまう。


スクロールは手間と言われるが、縦方向に限って言えばスクロールホイール付きマウスが浸透したことで然程苦にならなくなっているのが実情だ。スクロールホイールのない環境でも、スクロールバーの空白部分クリックや「page down」キーで1画面分移動させることができるためほぼ遜色ない操作が可能になっている。
対して、次画面の読み込みはクリックから数瞬待つ必要があるし、クリックのために記事の端まで移動せねばならない問題もある。それに、記事が3枚分に分割されていれば読み込みに伴う広告などのムダなデータが占有する帯域もまた3倍に増加するわけで、閲覧側にとってのメリットは皆無である。
更に言えばブックマークの際にも、記事の最後まで読んでブックマークする価値があると判断してから、最初のページに戻らねばならないというデメリットが生じる。同様に印刷でも、1ページにまとまっていれば1回の印刷命令で済むところをページごとに操作せねばならない。
記事分割は百害あって一利程度しかない、悪しき手法とすら言えよう。


しかし恐らく、そんなことは造り手も先刻承知の筈。では何故、敢えて愚にもつかない手段を採用するのか?恐らくは、広告露出数の問題が絡むものと予想される。
クリック数基準など成果報酬型が増加したとは言え、世の趨勢は未だ露出回数カウントが主流。ユニークユーザ数より単純ページヴュー数が、クリック数より広告表示回数が重視されるシステムでは、ひとつの記事に対して複数回の露出が見込める記事分割は「美味しい」手段と言える。そのことで多少ユーザの興味を削いだとしても、得られるメリットは多い:30%のユーザが閲覧を中止したとしても、残りの70%が3倍の表示を稼いでくれるのであれば210%の効果が見込める算段だ。
けれどそれは、潜在的に常連客を失うやり方なのかも知れない。今はまだ「見掛け上の客数」が重視されているが、それがいつ「本当の客数」に切り替わるかは判らない。そのとき、広告主の方ばかり向いて読者に不親切なメディアはどう評価されるだろうか。