円形都市の謎

小説家になろう」発の異世界転生系小説「この素晴らしい世界に祝福を!」「盾の勇者の成り上がり」「賢者の孫」のアニメ作品で、登場する都市の形がそっくりだと話題になった。

「このすば」と「賢者の孫」についてはこれ以前にも「屋敷の外観がそっくり」と話題になっており、要するに同じ資料の使い回しなのだろうと考えられる。両者は美術監督が同一人物であるため、同じ画を元資料にしていても不思議ではない。
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しかし「盾の勇者」の場合は少し事情が異なる。この作品は他の2本とはスタッフが共通していないため、同じ資料の融通ということは有り得まい。
もちろん、偶然にも同じ資料を元にしてしまうことは充分考えられる。作画資料として都合の良い、つまり「イメージにぴったりで、著作権的な問題のない」画像がそう多くないのであれば、同じ資料に行き当たってもなんの不思議もない。

ならば、どこかに「元になった街」があるはずだ。それを探してみよう。

円形の都市として名高いのはドイツのネルトリンゲンである。

ほぼ真円形をした防壁を有する中世の古都で、イメージにはぴったりだろう。
しかし一見してわかるように、ネルトリンゲンと上記作品の都市には大きな違いがある:川だ。
ネルトリンゲンは街の中を川が流れていない。

そもそもネルトリンゲンは、隕石クレーターによる天然の防壁を利用して作られた城塞都市である。そのため川を中心にしない形で都市が形成されており、この点でアニメのそれとは地形がまったく異なる。

では、「市街の中心を川が流れている古都」はあるだろうか。
すぐに思い付くのはテムズ川を擁するロンドン、セーヌ川の流れるパリ、モスクワ川流域のモスクワ、ドナウ川が貫くウィーン、ライン川に囲まれたケルンなどだ。水利は農業的にも運輸的にも重要な要素であったから古い都市が川沿いに築かれることは珍しいことではなく、候補はいくらもある。
が、その中で「円形の城壁を持つ都市」となると、ぐっと絞られてくる。

都市の形成には、「住みやすい場所に家が増えてゆき都市になってから防壁を構築する」場合と「都市を作りやすい場所を選んで計画的に構築する」場合とがある。
自然形成された都市の場合、地形に沿って野放図に拡がるため、市街域の形状は様々だ。川を含む都市の場合、そこが主要な輸送経路になることが多く、川に沿って居住区が伸びてゆく。
逆に計画的な都市形成の場合は、可能な限り整然と区画が構築され、街路も防壁も幾何学的に整理されがちだ。そういった都市では計画の妨げとなる河川を避けて平野に構築することが多い。あるいは川を天然の防御として用いる場合もあるが、その場合は岸に沿って防壁を形成するのが通例である。

もちろん、川を挟んで円形に拡がる都市が存在しないわけではない。たとえばモスクワやパリなどは、かつては比較的円に近い形状だったことが伺われる。
http://historic-cities.huji.ac.il/russia/moscow/maps/gottfried_1695_b.jpg
http://www.vidiani.com/maps/maps_of_europe/maps_of_france/paris/large_detailed_old_map_of_paris_city_1932.jpg

しかしそれらの都市は川の流れが明らかに一致しない。とりわけ「中心部が川の蛇行部に包み込まれるように形成されている」こと、また防壁の外では河川が大きな蛇行を見せていないことは特徴的で、主要都市ではそういった地形がアニメのそれと一致しない。

結局、様々に手を尽くしてモデルとなった都市の特定に努めたが、絞り込めないどころか可能性のある場所を見出すことさえ叶わなかった。
こうなってくると、可能性としては

  1. 専門のライブラリにでも当たればすぐに出てくるが、ネット検索では引っ掛からない情報
  2. 上述の都市をモデルにしているが改変を加えているためそのまま重なるわけではない
  3. アニメオリジナルの都市であってモデルとなった画像はなく、他作品がそれを剽窃している

のいずれか、ということになってきそうだ。
しかし2は「異なる作品で形状が完全に重なる」ことから否定される。独自の改変を加えて仕上げた結果であるならば、モデルとなった都市が同一であっても改変の違いにより全く異なった様相を生じるはずで、これほどに一致することは有り得ない。
3については、流石に他社作品をそれと知りつつ下敷きにすることは有り得まい。制作側がそこまで意識低いとは考えにくいし、たとえそうだとすれば放映時点ですぐにでも発覚して何らかの声明があるはずだ。
ということでまあ順当に1なのだろうが、だとすれば元画像は一体どれなのか。謎は何一つ解けぬままだ。